　自身の素性（すじょう）も知らないまま、あたしは日々を過ごしていた。

　神（かみ）に酷（ひど）く虐（しいた）げられる毎日。それが幼（おさな）い頃（ころ）の記憶（きおく）。

　その神が、エンリルというお偉（えら）い神だったことは少女に成長する中で知ることになる。

　少女に成長した頃（ころ）には、自分が只者（ただもの）じゃないことに気づいていた。――だから、あたしは神に酷（ひど）い仕打（しう）ちを受けても死ななかったのだろう。

　崖（がけ）から落ちようと、大火傷（おおやけど）や致命傷（ちめいしょう）を負ったとしても、あたしが死ぬことはなかった。時間経過（けいか）で身体（からだ）は癒（い）え、元に戻る。人間に恐（おそ）れられた。

　だから、時には神に見つかって拷問（ごうもん）を受けたりと色々（いろいろ）大変（たいへん）だったけど、遠くへ行った。神の手の届（とど）かないトコを探して。幸（さいわ）い、飢（う）え死ぬこともなかったから。

　拷問（ごうもん）を受けた際（さい）、少女へと成長したあたしに対して邪（よこしま）な考えを抱（いだ）く輩（やから）に襲（おそ）われそうになって、ソイツのことを叩（たた）きのめしてしまった。我（われ）を忘（わす）れて。やり過ぎたとは思ったけど、あのまま襲われてたらと考えたら不快（ふかい）過ぎて忘（わす）れることにした。――そうして、神の命令で拷問（ごうもん）をしたその男を叩きのめしてしまったあたしは、気づかれる前に逃（に）げた。