第3話 真相

私は山田香奈。

脳記憶分野の研究者です。

私には、中学から遊びと勉学を共にした親友がいます。

竹原まりか、彼女はハマった歌手やアニメキャラに驚くほど影響をうける性格です。

いい例えになる話を一つ。

彼女はあの時、ミステリアスな女ブームでした。

腰まである黒い長髪をなびかせ、シックなワンピースを着て、ミステリー小説を読んでいました。

私と遊びに行く時もそうです。

家で遊ぶ時はファッションだけで普通に話ていましたが、外にいる時は細い仕草にもこだわり、何年も一緒にいないと本当に見たまんまの人物だと思ったでしょう。

あっけらかんな気風が強いリーダー肌だとは誰も思いません。

学校や仕事場とプライベートをガッツリ遮断して考えている彼女は、学校や仕事でストレスが貯まるとその分さらに別人になります。

そしてミステリアスなまりかと遊んだ四日後、彼女は髪の毛をショートカットにして泥も気にせずサッカーをしていました。

…さすがに一目見ただけでは認識できませんでした。


彼女は別に、気になる男の子にアピールするため自分を変えているわけではないんです。

むしろ突然印象が百八十度変わるので、彼氏がいてもその度に振られています。

私はいつも「イメージはすぐ変わるけど性格はおんなじなんだから性格で見てくれる人が現れるよ」と言っていました。


仕事でお互い時間を作れなくなった頃、まりかがルームシェアの提案をしてきました。

その頃、まりかはアメリカンテイストにはまっていました。

そして、まりかとルームシェアをして暮らすようになりました。

幼馴染としてずっと一緒にいた理由がわかった気がしました。

私とまりかはとことん気が合い、生活のストレスは激減し、以前と仕事量は変わっていないのに、遊んだり、趣味をする余裕が増えました。

まりかはエネルギッシュで、一緒に過ごしていると時間が加速するような感覚になります。

お互い、彼氏も作らずに女二人で暮らしてることを自虐しつつも、これが続けば最高に幸せだと思っていました。


しかし、そんな日々は思いもしない所から崩れました。

まりかが出かけていて、家でパンを食べていた時、まりかのスマホがなりました。


きっとスマホがなくて困ってどこにあるのか会社から鳴らしたのだと思いました。

なので電話にでたら、まりかの声ではありませんでした。


「まりかさん?大丈夫ですか?!遅刻ですよ?今日に限って!課長めっちゃ起こってますって!いっつもいい仕事してるんですからガッと頭下げたら許してくれますよ!早く来てください!」

「え、ちょ、ちょっと待ってください、会社に行ってないんですか?スマホも持たずに?!」

「え?」


行方不明です。

彼女の部下と私で探しましたが見つけられず、警察に行きましたが大人が仕事に行っていない、と言う程度では動いてくれず。

しかしその晩、警察から連絡がありました。

まりかが不法侵入をしたと。

私とまりかの母のおばさんで警察に行きました。

彼女は、突発性の記憶障害を発症していた。

彼女が入ろうとしたのは前に彼女が住んでいたアパート、今の住人が鍵をかけずに出かけ、そこにまりかが家に入る。

自分がどんな家に住んでるか覚えていない彼女はとりあえず椅子に座る。

どんな家に住んでるか忘れているのに元々住んでいた家に帰るのは深層心理か?

そこに現住人が帰宅、警察沙汰に。


症状は大変に奇妙だ。

二日から三十八日ほどしたら記憶がリセットされ、まりかの記憶は昔に戻る。

友達になりたての中学時代。

流石にしらない小学校低学年時代。

ボップアイドルにハマっていた頃、ルームシェアの準備中のアメリカンテイスト。

サッカーをしに行こうとして準備体操で足をつったり。

しかし、なんのアイドルにハマっているのか覚えていないし、アメリカセレブの名前は何も言えない。

サッカー仲間の名前も覚えておらず、昔の自分に戻るも、昔の自分がどんな世界に生きていたのか覚えていない。

正直、ヤケを起こしながら見ていたら面白かった。


でも、ある時すごく見知った彼女にもどった。

ルームシェアをしていたあの日、この奇病が発症しなければ話していたあの声のトーン。


「ねぇ、香菜私どうして病院にいるの?仕事行こうとして頭でも打った?電車に乗らないといけないの」


いつもはまりかが変なこと言って私が状況確認の為に質問をするのに。

逆に聞かれてしまうと声が震えて出せなかった。

ビックリして私を落ち着けようと背中をさすられ、余計に視界が歪んだ。

ヤケになってた思考をリセットされて辛かった。

全部話してしまった。

記憶の病気でずっとおかしかったって。

昔に戻ってて面白かったって。

でも面白くなかったって。

この状態もすぐリセットされるから忘れるって。

病気に入院してはいるけど治療の方法はないって。


「落ち着いた?香菜」

「うん…今先生くるって」

「そっか、なんかごめんね、でも覚えてないから悪いとも思えないや、困ったな」

「そう、だよね」

「香菜脳の研究者でしょ?何かわからないの?」

「…試してみたいことはある。でもこの状態のまりかをどうするかの判断が難しくて動けていない」

「そっか、記憶が続かないからYESと言ってもその時はそう言ったって位の話になっちゃうのか」

「そう、最長で記憶が持った時に話が進みかけたんだけど、最後の最後にダメだったからもう話を進められない」

「ええ、じゃあずっとこの病院にいるの?」

「そう言うわけにもいかないよなーってまたなってきてる。だからここで私がまりかを家に連れ込んで試したいこと全部試す」

「あら大胆、具体的には何やるの?頭に電気とか打ち込まれるのはヤダなぁ」

「いや、ただ繰り返し問続けるのよ」

「どういうこと?」

「基本的にあなた自分のことしか覚えてない。性格とか、個性とかさ、名前も覚えておいてくれればいいのに」

「んー?」

「自分の住んでる家とか、仕事とか、誰に憧れてそのファッションをしているのかとかを覚えていないのよ」

「???」

「仕事でPCを使うのはわかるけど、そのPCで何をするのかはわからない、自分のファッションはわかるけど、誰に憧れてそれを始めたのかはわからない」

「意味がわからないわ」

「まりかさっき、電車に乗らないといけないって言ってたでしょ、どうして?」

「仕事だからよ」

「仕事、何してるの?」

「なにって、……

え、いつもの手帳を開いて、パソコンを開いて」

「それは仕事のルーティン、手帳に何が書いてある?パソコンで何をする?」

「……?あれ?」

「まりかはどうして電車にのるの?」

「し、仕事前は電車に乗るのよ」

「どうして?」

「どうして…?

わからないけど、仕事前は電車に乗るの」


治っててくれれば良かったけれど、そんな簡単な話でもない。


「ねぇ、まりか」

「なぁに香菜」

「まりかはね、私と二人で暮すの」

「へぇ」

「私は、あなたを閉じ込めて外に出さず、最低限の情報量で生きる」 

「へぇ?」

「そうしたら、脳が今の状況を理解しようと今の前提を探し始める」

「おお」

「そして少しづつ自分以外を脳が探して、認識する、そしたらきっとまた今までにみたいに過ごせるかもしれない、いいよね」

「…いいよ!頑張って!香菜」


この後、まりかは最短で記憶を失った。

どうして私のことがわかったのだろう。

でも私の決意は固まった。


何もない部屋、敷き布団と掛け布団、枷に繋がれているまりか。

白いシーツをかぶり情報量を減らす。

「…っ!あんた誰?ここは、どこ?」


「ねぇ、今、どんな状況だと思う?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

見えない前提 @AOIHOSITOSIRUKU3251

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ