第11話  朱雀、オーディション会場に来る

「来てしまった……」


 つい、言われるがままに乗せられ、オーディションに神邏は来た。マネージャー(仮)のルミアと社長秘書の片瀬という方と共に。


 手続きなりは片瀬に任せ、オーディション会場に向かう。

 若手俳優の登竜門となってるらしく、参加者はとても多い。


 この倍率……受かるわけないなと思いつつ、変身とかの演技できるのかと、子供のようにウキウキする感情が彼にはあった。


「なんか、みんなパッとしないんだよね~」


 監督と思われる偉そうな壮年が、集まった若手俳優達を見てこぼす。

 聞こえたらどうするんだと思うが、構うものかという態度。

 あまり印象はよくない。


「とはいえ、オーディションに集まるのは実績のない子たちばかりですし、むしろこの作品で人気俳優にしてやるのが、我々の役目じゃないですか」


 と、隣のプロデューサーらしき方が擁護。

 若手俳優の登竜門ならば、確かに一理ある発言である。

 要はここに集まってるのはダイヤの原石。それを磨いてダイヤにすることこそが作品、監督の役目なのである。


「言いたい事はわかる。だがね。ワシはこれまでの物を越える作品を作りたいのだ。踏み台目的な俳優なんぞいらん。作品のために、作品を愛してくれる俳優が欲しい」

「そうは言いますが、特撮ファンがいるとしても、新作ですよ? 面白くなるかわからない。どういう作品かもわからない子に作品を愛せだの、作品のために演じろってのも……」


 特撮ファンであろうと、シリーズ全て見て、全て好きという方はその中でも少ないかもしれない。

 それに新作だ。気に入る保証はない。


「どちらにせよ、なめた演技せんならまだいい。別に追い出すとは言っとらんだろ……ん?」


 監督は一人の男に目が行く。

 視線の先には神邏がいた。

 彼は台本にかぶりつくように読みふけっていた。

 

 オーディションで演じるのはワンシーンだ。そんなに深く読み込む必要はないと言えばない。

 だが、深く読むことで主人公の内面とかがわかる。故に無駄にはならない。

 周りは演じるシーンのセリフを繰り返したり、アクションを練習してるだけ。もちろんそれも悪くない。いやむしろその方が正しいだろう。

 内面がわかろうと、問題の演じるシーンができなければなんの意味もないのだから。


 ――しかし、一話の台本を読み、笑顔を見せてる神邏。

 おそらく面白いと思っているのだろう。

 

 監督にはそれが好印象に映っていた。


「あの小僧、所属どこだ?」



 ――つづく。


 神邏ファンの日常コーナー。


 ルミアはオーディション会場に忍び込んでいた。

 顔とかを隠して。


 神邏のオーディションを拝見したいようだ。


「とりあえず、バレないようにカメラとか用意してます。なんとしてでも……神邏くんの初々しい演技、とります!」

「あんた、それで会社の評判悪くなって、美波くんが不合格になったらどうすんの」


 片瀬が注意するが……


「逃げ切る自信はあります! それに……神邏くんのオーディション、見れないのは嫌なんです!」


 自分の欲望が勝ってるもよう。

 ファン失格なのでは?


「そもそも、神邏くんを不合格にしたらその監督が頭おかしいだけです。そんなとこで働くことないですよ」

「まだあの子なんの実績もないんだけど……ファンはすでにいるみたいだけどね」


 オーディション嗅ぎ付けた他のファン達も、不合格などあり得ないという風潮で固まってるという情報もある。

 果たして、ファンの願いは届くのか?



 ――コーナー終わり。



「次回 朱雀、合格できるか?」

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