第10話 朱雀、オーディションに出る
「美波くん、オーディションよオーディション」
事はいきなりだった。
今日も今日とてバイト感覚で事務所にやってきた神邏とルミアは突然社長にそう言われた。
「……モデルか何かですか?」
「声優かもしれませんよ神邏くん」
「声優?」
まさかと、ルミアの発言を否定しそうになるが、声優は少し面白そうだなと神邏は思った。
アニメとか好きだから、そういう仕事には興味があった。
表に出るわけでもないし、目立たずにすむと……
「ドラマのオーディションよ」
「お断りします」
社長の答え合わせからすぐに、お辞儀して返事した神邏。
「いやいやいや! なんで断るの!」
「自分、そんな目立つことしたくないんですよ……」
「アイドルでしょあんたは!」
「バイトアイドルですよ」
「くっ、そうか、ミズチの奴も言ってたわね……」
元々、そんなにやる気あったわけではない。クビならそれでもかまわないしと、神邏は思ってる。
目の前の餌に釣られたのと、妹達にいいカッコしたかっただけの話だからだ。
「おいマネージャー(仮)! あんたも説得しなさいよ!」
なら幼なじみのルミアを味方につけてやると社長は思ったようだ。神邏はルミアにだいぶ甘いのがわかっているからだ。
――しかし、
「神邏くん、嫌がってますから」
まさかの説得拒否。アイドルになることは進めたくせに……
「なんでよ! トップアイドルにする気じゃなかったの!?」
「神邏くんグッズ欲しかっただけなので……」
このくそガキ……と、言いかけたがおさえる社長。
「……コホン。いい? ドラマと言っても天界のだし、短い作品。人間界で基本行動する君にとってはさほど問題ないと思うの」
目立つのは天界だけだからと言いたいのだろう。実際雑誌は爆売れしてるし、天界での知名度は高い。そもそも朱雀である以上、一定の知名度はすでにあったのだ。
天界で目立たずに行動するというのは無理な話。
「そうはいいますが、人前で演技というのが……恥ずいというか……小学校の学芸会でもそんなに目立つ役はやらなかった人間ですし」
「そういえば、高学年の時は裏方みたいなのやってましたね~私もでしたけど」
ルミアが補足。神邏の事なら何でも覚えてるアピールだろうか?
「うちとしては、君をトップアイドルとして売り出したいの! 会社のためを思ってさ!」
情に訴える作戦を取り出す社長。とはいえ無理な物は……
「妹ちゃん達、主演とかやってるの見たら嬉しがると思うなあ」
「……」
シスコンの心を揺さぶってくる。
「お兄ちゃんカッコいいってキラキラの瞳で褒めてくれるかもよ? 弟くんは憧れてくれるかもよ?」
神邏はルミアだけでなく、妹と弟にも甘い。特に二人いる妹のうち、自分にデレデレな詩良里には特に。
詩良里にそんな風に憧れてもらえるなら……少し揺らぐ。
だが、それでも首を縦には振らなかった。
「なかなか強情ね……ならリストアップしたなかで、少しも興味ある作品ないの?」
社長はオーディションを受けれる作品の台本を手渡す。
何か原作知ってるのでもあればやる気起きるかもと思ったのだ。
……すると、神邏は一つの台本を手に取り出した。
「これ、特撮ですか?」
彼は特撮ヒーロー好きだった。
「あれ? それなら興味あったり?」
社長の言葉に、少し照れくさそうに頷いた。
その表情をルミアは写真でパシャパシャとっていた。
――つづく。
神邏のファンのコーナー。
早くも設立された美波神邏ファンクラブ。そこに今回のオーディション話がとびかう。
特撮作品に美波神邏出演!
ファンの女性方は直ちに前番組の特撮をチェックしだす!
なぜなら特撮ファンという神邏の一面まで情報として出てきたからである!
ファンとしては、推しの好きな物も愛でるべし!
美波神邏ファンクラブはそれだけ熱い想いもった重いファンが多かった。
「美波神邏を主役にさせろ~!」
「そうだそうだ~」
「ヒロイン役はいらない~」
「そうだそうだ~」
……なかなかワガママなガチ恋勢もすでにいるようだった。
コーナー終わり。
「次回 朱雀、オーディション会場に来る」
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