最終話 僕達は家族になる
「よっ、マービンおかえり!」
「マービンさんおかえりー!」
王都の中を歩いていたら、町の人たちからたくさん声をかけられる。
どれもがマービンが帰ってきたことへの嬉しさが声になって現れていた。
「パパにんきものだね」
『俺も負けてられないぞ!』
『ちょ、兄さん急に立ち上がらないでよ!』
『これも私がダンスの練習をしていたおかげでしょ?』
ケルベロスゥは立ち上がってみんなに手を振っていた。
「わんちゃんがたってるー!」
「こら! そんなに見たらいけないの!」
「なんでー?」
「中に人間が入っているからよ。立ち上がって歩く犬はおかしいでしょ!」
あれ……?
ここではケルベロスゥってミツクビウルフというよりは犬という認識らしい。
ケルベロスゥは喜んでもらえると思ったのに、無視されて落ち込んでいた。
それに気づいたのかマービンも笑っている。
「王都は魔獣に慣れているから、多少変わった行動をしていても区別がつかないんだよ。変わった犬がいる程度としか思っていないぞ」
みんなからの視線を心配していたが、ここでは僕達よりマービンの方が大変そうだね。
「えーっと、このさきにパパのいえがあるんだよね?」
「ん? なんでしってるんだ?」
僕もいまいちわかっていない。
ただ、夢で見たことだけは覚えている気がする。
『なあなあ、家まで競争しないか?』
『さすがにこんなに見られていたら恥ずかしいもんね』
『ここは私のために用意されたランウェイよ!』
ケルベロスゥは本当に性格がバラバラだ。
みんなの気持ちが揃わないから、動きも不恰好でさらに注目されている気がする。
「とりあえず家に帰ってみるか!」
「うん!」
僕達は競争しながら家に帰ることにした。
「あそこが俺の住んでいた家だな」
屋根のない家を僕は目を丸くして見ていた。
「やっぱり屋根がないからびっくりするだろ?」
マービンの言葉に僕は首を振る。
びっくりしたのはそれだけではなかった。
家を見た瞬間懐かしい気持ちが溢れ出てきた。
「ぼくここでまいにちけんをふってたきがする」
マービンからもらった短剣を取り出して、僕は剣を数回振る。
なんだろう……。
すごく懐かしい気がする。
そもそも剣の素振りはケルベロスゥが危ないからと禁止されていた。
それなのに今までやっていたかのように、体が覚えている。
「コーナー……」
「パパ、おかえり!」
気づいた時には体が勝手に動いていく。
それなのに全く怖い気はしない。
「どうしたの? まものがつよかったの?」
「ああ……」
マービンはその場でしゃがみ込み、僕をギュッと抱きしめた。
「ははは、どうしたの?」
「コーナーごめんな。俺が戻ってくるのが遅かった――」
僕はマービンの口を両手で塞ぐ。
僕が聞きたかった言葉は、そんな言葉じゃない。
「ちがうよ。パパはぼくのじまんのパパだ! だって、おうとのえいゆうっていわれているでしょ?」
驚いたような表情からポタポタと涙が溢れでている。
「ぼくもずっとパパみたいになるのがゆめだったの! でももうそれが叶わなくてね」
「うん……」
「またパパにであうためにうまれかわってよかったよ」
僕がニコリと微笑むとパパもくしゃくしゃな笑みで笑っていた。
「せっかくパパはえいゆうだっていわれてるのに、いまはぼくよりよわそうだね」
僕はそう言ってマービンの元から離れる。
「きみがきおくももどしてくれたんだね?」
ケルベロスゥに優しく触れる。
『どういうことだ?』
『んっ? ココロどうしたの?』
『もしかしてあの扉と何か関係があるのかしら?』
扉ってなんだろう。
でも今話している子は僕なのに僕ではない気がする。
「へへへ、あれはぼくのきおくかな。ここまでつれてきてくれてありがとう!」
あれ……?
なんか体の感覚が少しずつ戻ってきている気がする。
もう行っちゃうのかな?
「おい、コーナーどこにいくんだ! 俺を置いていかないでくれよ!」
ほらマービンもそうやって言ってるからさ。
「ううん。ぼくはもうここにはいないの」
なんでそんなことを言うの?
でも言ってるのは僕なんだよね?
「パパ、この子をよろしくね! ぼくのぶんまでたくさんあいしてあげてね!」
それだけ伝えると、体がふわっと軽くなった気がした。
僕はそのまま地面に崩れるように座る。
さっきのはなんだったのだろう。
彼も僕の記憶だって言っていた。
僕は手を曲げたり伸ばしたりしていると、ある異変に気づいた。
「あっ……いしが……」
――パリン
魔女から買った腕輪についていた黒い魔石が音を立てて割れる。
『あっ、俺のも割れた』
『ココロからのプレゼントなのに……』
『残念ね』
次々と僕がプレゼントした腕輪についた魔石が割れていく。
「コーナー……」
マービンはゆっくりと空を眺めていた。
きっと彼を見送っているのだろう。
「あっ、そうだ!」
僕は良いことを思いついた。
『どうしたんだ?』
『ココロに戻ったの?』
『急にびっくりしたわ!』
「せっかくだからここにすんだらだめかな?」
「へっ?」
マービンは驚いた顔で僕を見ていた。
なんとなくここが僕の帰ってくる場所だったような気がする。
それに彼は最後に小さな声で呟いていた。
〝あたらしいかぞくとしあわせになってね!〟
僕の家族はマービンとケルベロスゥ。
それにシュバルツとおててさんとおででさん。
みんな血も繋がっていないけど、大事な家族になれる気がする。
ううん。
僕達はもう立派な家族だ。
「ねぇ、ぼくたちかぞくだからいいでしょ?」
僕が首を傾げると、マービンはニコリと笑って抱きついてきた。
「ああ、俺達は家族だからな」
『俺も家族だぞ!』
『僕も!』
『仕方ないわね!』
ケルベロスゥも僕の元に来て顔をスリスリしてくる。
『ヒヒン!』
忘れないでとシュバルツも嬉しそうにマービンの顔にスリスリとしていた。
「おててさん! おででさん!」
地面からひょこっと嬉しそうに出てきた。
僕達はここから新しい家族になる。
お散歩旅はしばらくおやすみだね!
ーENDー
───────────────────
【あとがき】
ここまで読んでいただきありがとうございます!
この作品はここで完結する形になりました。
また新作を出していきますので、引き続き読んでいただけると嬉しいです!
魔獣の傷をグチャグチャペッタンと治したらテイマーになっていました〜黒い手ともふもふ番犬とのお散歩暮らし〜 k-ing@二作品書籍化 @k-ing
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