第17話 飼い主、かけっこをする ※一部町人視点

「すごーい!」


『俺様は足が速いからな!』

『この体は僕のだけど……』

『もうみんなの体よ!』


 僕はケルベロスゥに跨って町に向かっている。


 おててさんのお願いに魔力を使ったからか、まだぐったりしているけどね。


 でも、冷たい風に当たっていたらだいぶ良くなってきた。


「ははは、それでもシュバルツには勝てないぞ?」


 たしかにシュバルツは足が速い。


 でも僕の友達であるケルベロスゥだって速いもん。


「ケルベロスゥのがはやいもん!」


「じゃあ、町まで勝負だな!」


「ケルベロスゥだいしょうぶ?」


『ああ、任せておけ!』

『ココロの頼みなら大丈夫だよ!』

『レッツラゴー♪』


 勢いよくケルベロスゥは走り出す。


 今まではゆっくり走っていたのかなって思うほど速かった。


 もう、僕の体は吹き飛ばされそうだ。


「あわわわわわ」


 ついつい僕の口にも空気が入り、息がしにくいほどだ。


 ただ、それに負けじとシュバルツと男も付いてくる。


 みんな足が速いな。


 ふと、おててさんはついて来れているのか気になり振り返る。


「だいひょうふだね」


 おててさんもしっかりビッグベアーを掴んだまま走ってきていた。


 いや、あれは走ってきているのかな?


 おててさんの構造が全くわからないから、どうなっているのだろう。


『歯を食いしばらないとあぶないぞ!』

『ベロを切るよ?』

『ベロがベロって……くくく』

『ちょっと、兄……姉さんが笑うと力が抜けていくよ!』

『おいおい、お前ら真剣に走れよ!』


 僕は言われた通りに口を閉じてグッと体に捕まる。


 しっかり捕まったのを確認したのか、一瞬ケルベロスゥの体が沈み込んだ。


 次の瞬間、さらに体が後ろに引っ張られるような気がした。


 ケルベロスゥはまだまだ速く走れるようだ。





 俺は町の安全を守る警備隊に勤めている。


 普段は門番として門を守っているが、今日に限って胸騒ぎがしていた。


「昨日飲み過ぎたのか?」


 俺は胸を触って何が原因か考える。


 いや、原因は一つしかないだろう。


「新しくできた飲み屋にべっぴんさんがいたからだな」


「ははは、平和が一番だな」


 この町が何かに襲われることは少ない。


 そもそも冒険者ギルドがある町で危ないことが起きるのは稀だ。


 あるのは人為的なものによる人災くらい。


 それでも殺人事件や火事はあまり起きたことがない。


 ああ、一言でいえば平和な町ってことだな。


「おい、シモン! あれはなんだ?」


 言われた方に視線を向けると、砂埃が舞い上がっているように見えた。


 何かが近づいているのだろうか。


 俺は警戒を強めて、さらに見やすい見張り台まで移動する。


 目を凝らして見ると、わずかにその姿を見ることができた。


「おい、魔物が近づいてくるぞ!」


「はぁん!?」


 この町に魔物が来ることは少ない。


 それに魔物が寄り付かなくなる魔道具も設置してあるからな。


 ただ、警戒して損はないだろう。


 そんなことを思っていたが、だんだんと近づいてくる姿に息を呑む。


「ビッグベアーが勢いよく向かってくるぞ!」


「俺は冒険者ギルドに伝えてくる」


「ああ!」


 俺も急いで鐘を鳴らして、住民に警報を伝える。


 この仕事をしていて今まで鐘を鳴らしたことすらないからな。


 町の人も驚いてどうすれば良いのかわからずあたふたとしている。


「おい、シモン何があったんだ!」


 急いで冒険者ギルドから冒険者達がやってきた。


「ビッグベアーが近づいてきます!」


「ビッグベアーだと!?」


 ビッグベアーは冒険者達でもあまり会いたくない魔物だ。


 いくつかランクに分けられているが、その中でも上位の存在だった気がする。


 冒険者も見張り台に登ってきて目を凝らす。


「なっ!? ミツクビウルフにダークホースまでいるじゃないか!」


「ミツクビウルフ? ダークホース?」


「ああ、あいつらはレアな魔獣だ。どれくらい強いのかも俺達すらわからない」


 その言葉に俺の胸騒ぎがこのことを感じ取っていたのではないかと思った。


 ああ、平和な日が続けばよかったのにな……。


───────────────────

【あとがき】


「ねぇねぇ、ここにおねがいするんだって?」


 僕はケルベロスゥと並ぶ。


「おほしさまとれびゅーください!」

『肉をくれ!』

『評価とレビューをお願いします!』

『良い男を紹介しなさい!』


 あれれ?

 ケルとスゥはお願いごとが違うよ?


『おい、ニクの注文じゃないのか?』

『ここはお見合いのお願いじゃないのかしら?』


『はぁー、やっぱり兄さんと姉さんに任せたらダメだね』


 どうやらケルとスゥは間違えてしまったようだ。

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