第16話 飼い主、おててさんに驚く

『はぁ……はぁ……』

『ココロって魔王なのか……』

『可愛い顔した悪魔ね……』


 ぐったりしたケルベロスゥに僕は顔を近づけてもふもふする。


 怪我も治って体が綺麗になった。


『くすぐったいぞ』

『ふふふ、ココロー!』

『もっともふもふしなさいよ!』


 ケルベロスゥは嬉しいのか顔をスリスリしてくる。


 僕の大事な友達が治って良かった。


「おててさんもありがとう!」


 おててさんも親指を立てて喜んでいる。


 みんなの怪我を治してくれるのはおててさんおかげだからね。


「あいつら本当に仲が良いな」


『ヒヒーン!』


「ははは、俺達も仲が良かったな」


 シュバルツも僕達を見て、男に鼻をスリスリさせていた。


 みんな仲良しなのが一番良いからね。


 しばらく無事だったことを喜んでいると、ビッグベアーをどうするか話題になった。


「ココロはこいつの傷も治せるのか?」


「おててさんできる?」


 おててさんは両手を重ねて、バツを作っていた。


 どうやら息をしていない動物は助けられないようだ。


 あれ……?


 僕はその時に不思議に思った。


「ケルベロスゥとシュバルツはいっしょなの?」


「一緒とは?」


「まじゅうとどうぶつ!」


 ケルベロスゥは魔獣だけど、シュバルツは馬のはず。


 ひょっとしたら魔獣も動物も同じなのかな?


 僕が考えていると、気持ちが伝わったのかおててさんがマルを作っていた。


「構造自体は同じって聞いたことがあるけどな。そもそも魔物は魔力を持っているけど、動物にはそれがないんだ」


 男は魔物についてお話ししてくれた。


 魔物は魔力を持っている人間以外の生き物と言われている。


 その中で獣なのが魔獣らしい。


 ケルベロスゥは魔力を持っていて、シュバルツは魔力がない。


「ビッグベアーは?」


「こいつは魔獣だな。普通のクマでも危ないけど、こいつはそれ以上だ」


 やっぱりビッグベアーは怖い存在のようだ。


 小さな怪我で済んで本当によかった。


 中々魔獣と動物を見極めるのは難しそうだ。


 勉強は嫌いだけど、少しは覚えないといけないね。


 危ない魔物や動物には近づかないようにしないと。


「じゃあ、町に行こうか」


「うん!」


 僕はケルベロスゥの上に、男はシュバルツに跨った。


「いくぞー!」

『ワオオオオオン!』


 僕達が町に向かおうとしたら、おててさんが道を塞いでいた。


「どうかしたの?」


 おててさんはずっとビッグベアーを指さしていた。


「なおせないよ?」


 おててさんもさっき治らないとバツを作っていたばかりだ。


 何か違う意味があるのかな?


「ケルベロスゥわかる?」


『俺はわからんぞ?』

『僕もわからない』

『そもそも話していないわ』


 ケルベロスゥもおててさんの伝えたいことがわからないようだ。


「ひょっとして持っていかないか聞いているんじゃないか?」


「えー、さすがにむりだよ?」


 ビッグベアーって呼ばれているほど、とにかく体が大きい。


 いくらなんでも持っていくことはできないはず。


「シュバルツにも乗らないもんな?」


『ブルン!』


 鼻息を荒くして頭を横に振っている。


 ただ、おててさんは何かを必死に伝えようとしている。


「どうしたらいいの?」


 僕はおててさんに聞いてみる。


 すると、おててさんはビッグベアーに手を当ててブルブルと震えていた。


 僕に同じことをしてもらいたいのかな?


 おててさんと一緒にビッグベアーに手をかざす。


「うっ……」


 次第に体の力が抜けていく。


『おい、大丈夫か!』

『ココロ!?』

『あぶないわよ!』


 すぐに僕が落ちないように、ケルとスゥが咥える。


「へへへ、ありがとう」


 また急に力が抜けちゃったな。


 この前もおててさんのお願いを聞くと、体が重たく感じた。


「おおお!」


 一方男とシュバルツは何かにびっくりして声をあげていた。


 またビックベアーが出てきたのだろうか。


 もう疲れて走る体力もないよ?


 チラッと視線を向けると、ビッグベアーが近づいてきた。


 ただ、その足元には見たことあるやつがいた。


「おててさん?」


 返事をするかのように、おててさんはビッグベアーを振り回す。


 なんとおててさんがビッグベアーを鷲掴みできるほど大きくなっていた。


「さっきのはおててさんに魔力を送っていたのか」


「ん?」


 僕は項垂れながらも首を傾げる。


「テイマーは契約相手に魔力をもらって強くなるからね。それで大きくなったんじゃないのか?」


「ぼくはテイマー――」


『ああ、そうだな!』

『ココロは疲れて忘れちゃったんだね』

『さぁ、気にせずいくわよおー!』


 また僕がテイマーじゃないことを伝えたらいけないのかな?


 考える暇もなくケルベロスゥは一気に走り出した。

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