第13話 飼い主、町に向かう
しばらくもふもふしていたら、男達は不思議な顔をしてこっちを見ていた。
「どうしました?」
「いや……君は変わったテイマーだね」
「テイマー?」
聞いたことのない言葉に僕とケルベロスゥも首を傾げる。
「ああ、テイマーって魔獣を手懐けるスキルを持っている人のことを言うんだが……」
「ぼくはかい――」
『ああ、ココロはテイマーだ!』
ベロは僕の言葉を遮った。
自分のスキルを言ったらダメなのかな?
「ああ、警戒させてすまないね。ミツクビウルフと謎の手を手懐けている人は中々いないからね」
「ミツクビウルフ?」
『ミツクビウルフ?』
僕とケルベロスゥ達は首を傾げる。
もう首が当たることもなく、みんな同じ方を向いている。
「ははは、さすがテイマーなだけあるな。動きがそっくりだ」
「ぼくたちそっくりだって」
『あったりまえだ!』
『嬉しいわね』
ケルとスゥは嬉しそうに尻尾を振っているが、ベロは何かを考えていた。
だが、だんだんとつられてくるのだろう。
気づいた時にはベロもニコニコしている。
「その謎の手は知らないが、ミツクビウルフは
ウルフ系の魔獣でも珍しいぞ?」
「ケルベロスゥはケルベロスゥだけど……」
元々ケルベロスゥは各々体があるウルフだった気がする。
ミツクビウルフという魔獣も存在しているのだろうか。
「童話に出てくるケルベロスはミツクビウルフとも言われているんだ。ただ、色はもっと白に近い灰色だった――」
『俺はミツクビウルフだ』
『僕はミツクビウルフです』
『私はミツクビウルフよ』
ケルベロスゥは声を揃えて答えた。
僕が知らなかっただけで、ミツクビウルフだったのかな?
「とりあえずシュバルツを助けてくれてありがとう」
『ヒヒーン!』
男と馬のシュバルツは頭をペコペコと下げている。
そんな姿についつい笑ってしまう。
だって、僕達にそっくりと言っていた男達の方がお互いにそっくりだった。
男はテイマーではないけど、家族だから仲が良いと言っていた。
「まぁ、こんなに真っ黒になってしまったけどね」
確かにさっきまで馬は茶色だった。
それなのに今は黒く、体も大きくなっている。
頭に生えている髪の毛もツンツンして強そうだ。
野ネズミが黒くなっていたのも、おててさんの治療が関係しているのだろうか。
「それより君達もはやくここから逃げた方がよい。ビックベアーが――」
――グワアアアア!
森の奥の方から地響きのような鳴き声が聞こえてくる。
「きっとビッグベアーが近づいてきている。今すぐに逃げた方が良い」
男はシュバルツに跨る。
それと同時にケルは僕を咥えて背中に乗せた。
『散歩に行くぞ!』
『どっちが速いかな?』
『もちろん私達よね』
相変わらずケルベロスゥの尻尾はブンブンと振っていた。
たまに落ちそうになっても、尻尾を絡ませて支えてくれるから安心だ。
「ははは、これは命懸けの散歩になるな」
男とシュバルツも笑っている。
僕達はビッグベアーから逃れるために、森の中を駆け巡る。
「次はどっちだ?」
『においがバラけてわからん!』
僕達はゆっくりと立ち止まる。
ケルベロスゥは周囲の警戒を強める。
ビッグベアーから逃げ出した時はまだ良かった。
次第にケルが言ったように、ビッグベアーのにおいが広がって、どこから追いかけているのかわからなくなっていた。
まるでビッグベアーに僕達の存在がバレたような気がする。
「とりあえず町に向かうほうが良さそうだね」
ビッグベアーから逃れるために、少し森の奥を彷徨っていた。
このままではもっと追い込まれて逃げ切れないと言っていた。
見通しが良いところまでいけば、少しは逃げやすくなると。
「こういう時こそ冒険者が必要なのに……」
「ぼうけんしゃ?」
「ああ、魔物達と戦うやつらだね。私はシュバルツと共に乗り合い馬車を運行していた。その護衛にも冒険者が必要なんだが、今回の奴らは逃げて行ったからな」
男達は次の町に向かう時に、ビッグベアーに襲われたらしい。
隣り町に運ぶ客がいなければ、逃げたのを知るのは男だけだ。
冒険者は勇敢に魔物と戦う存在で、子ども達の憧れのお仕事だ。
それなのに僕が知っている冒険者とは違うのだろうか。
『おい、お前らビッグベアーが近づいてくるぞ!』
僕達は再び町に向けて走り出した。
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