第14話 飼い主、一緒に戦う

 森の中に入ってくる光が多くなってきた。


 もうそろそろで森から出て、見通しが良いところまで出られるのかな。


 町から町までは道ができており、その周囲が森に囲まれている。


 スキルを授かるために隣り町の教会に行った時もそんな感じだったのを覚えている。


 町への移動に冒険者が必要なのは、その森から魔物が出てくる可能性があるからと言っていた。


 しかし、そんなに頻繁に魔物が出てくるわけではない。


 今もビッグベアーかケルベロスゥにしか遭遇していない。

 

「ケルベロスゥがんばって!」


『ああ!』

『しっかり捕まっててね!』

『いっくよおー!』


 森の外に向かって勢いよく走り出す。


 それを追いかけるようにシュバルツも付いてきた。


 風が吹き抜けて心地よく感じる。


 僕はケルベロスゥの上でお散歩を楽しんでいると、茂みからキラリと光る何かを見つけた。


「ねぇ、あれなに?」


 ケルベロスゥに声をかけた途端、視界が変わり僕は投げ出された。


「大丈夫か!」


 僕はゆっくりと目を開けると、ビッグベアーを前に唸るケルベロスゥがいた。


「けがしてるよ!」


 ケルベロスゥの体から血がポタポタと垂れてきている。


 キラリと光ったのはビッグベアーの爪だった。


 僕がもう少し早く気づいていたら、ケルベロスゥは怪我をしなくて済んだのに……。


「ごめんね……」


『こんなもの舐めてたら治るぞ!』

『ココロは気にしなくて良いよ?』

『それよりもあの馬のところへお行き!』


 ケルベロスゥは僕のことが嫌いになったのだろうか。


「いやだよ……おいていけないよ」


『はぁー』

『兄さんため息はココロが傷ついちゃうよ』

『そうよ! 泣きそうになってるじゃないの!』


 チラッとケルは僕を見ると、オロオロとしている。


 僕だってケルベロスゥを守りたいよ。


『別に嫌ってないぞ! 近くにいたら怪我するからな!』

『兄さんはココロが怪我してほしくないのよ』

『不器用な男だからねー』


「きらわれてないの?」


 僕の言葉にケルベロスゥは頷いた。


 その言葉が少し嬉しくなって、僕は言われた通りに後ろに下がっていく。


 気づいた時には後ろには男とシュバルツがいた。


「大丈夫か?」


「ぼくはだいじょうぶ。でも、ケルベロスゥがけがしてる」


 僕が離れたタイミングでケルベロスゥはビッグベアーに飛びかかった。


「それにしてもあのミツクビウルフは強いな」


「そうなの?」


「ああ、お互いがなるべく怪我をしないように、避けていたんだろうな。それにビッグベアーも一撃やられているぞ」


 そういえば、怪我をしているのはケルベロスゥだけではなかった。


 ビッグベアーも体から血を流している。


 あの短い時間で怪我をしないように動いて、攻撃までしたってことだ。


 さすが僕の友達だね。


「今のうちに離れるぞ」


 僕は男に抱きかかえられるが、その場で抵抗する。


「どうしたんだ?」


「ぼくもケルベロスゥとたたかうもん!」


「ココロが行っても怪我をするだけだ」


「だいじゃうぶ!」


 僕にとっての友達はケルベロスゥだけではない。


 大事な友達でスキルのおててさんがいる。


 今もビッグベアーの後ろにはひっそりとおててさんが手を振っていた。


 ビッグベアーが足に力を入れて、ケルベロスゥに飛びかかる。


 それに応戦しようとケルベロスゥも飛びかかった。


「ぼくがたすけるもん!」


 声に反応するように、おててさんはビッグベアーの足を掴んだ。


 僕はおててさんが伸びるのを知っている。


 僕はビッグベアーがおちょこちょいなのを知っている。


 僕は友達が強いことを知っている。


――ドーン!


 大きな音を立ててビッグベアーが倒れた。


『ココロありがとう!』


 大きく口を開けてキラリと光るケルベロスゥの歯はとてもかっこよかった。


『ヒヒーン!』


 ケルベロスゥが噛みつこうとした瞬間、シュバルツの大きな鳴き声が聞こえてきた。


「おい、シュバルツどこに行くんだ!?」


 その場に僕と男だけが取り残された。

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