第12話 飼い主、馬を助ける
『ヒイイィィィ!? びっくりさせるなよ!』
どうやら男の声にケルも驚いていたようだ。
『あんたの声でこっちまでビックリするわよ』
『とりあえずどっちもうるさいよ? それよりもココロはここに隠れて』
ケルベロスゥは僕の隣に来て警戒を強める。
どこかその姿を懐かしく思いながらも、町の子に嫌われていたときに助けてくれた兄と姉を思い出す。
末っ子なのに僕とは全然違うな……。
「やっぱり魔獣が話しているぞ……」
男もなぜかケルベロスゥを見て驚いていた。
普通の魔獣って話さないのだろうか。
ケルベロスゥしか見たことがないため、何が普通なのかわからない。
「すまないがそっちに行っても良いか?」
『来るなと言ったはずだ』
警戒を強めているケルベロスゥを横目に少しずつ近づいて来る。
ひょっとして気になっているのは僕達ではないのかもしれない。
『それでお前は何のようだ?』
「そこの馬に用事があってね」
おててさんがグチャグチャと傷口を触っている馬に興味があるのだろうか。
男もグチャグチャしているところが見たいのかな……。
僕は目を閉じたくなるくらいなのに。
『これ以上近づくと噛み殺すぞ!』
『ココロには近づかせない!』
『あんた気持ち悪い趣味があるのね。でもこれ以上近づいたらタマを食いちぎるわよ』
ケルベロスゥは男がおかしな人だと思っているのだろう。
『グルルルルル!』
三匹とも近づいてくる男に唸っている。
やっぱりケルベロスゥは僕の番犬だ。
そんなケルベロスゥの頭を僕は撫でる。
ついでにもふもふして、毛並みの確認をする。
『やめんか!』
『力が抜けちゃうよー』
『ほらほら、もっと撫でてもいいよ?』
どこか嬉しそうに尻尾を振っていた。
それにスゥが話した後に、ケルベロスゥはお腹を向けて、寝転がっている。
ケルとベロは必死に抵抗しようと歯を食いしばっているが、体は正直なんだろう。
スゥは舌を出して嬉しそうだ。
「ほらほらほら!」
僕はケルベロスゥのお腹をもふもふする。
お腹は背中と違って、少し毛がふわふわとして柔らかいね。
「馬に何をやっているんだ? せめて弔いたいんだが……」
「あっ……?」
俺達は男のことを忘れていた。
そのまま気にすることなく近づいてきた。
『おい、食いちぎるぞ!』
『タマ一つじゃ足りないのかしら!』
ケルベロスゥも気づいたのか、すぐに立ち上がった。
ただ、尻尾はブンブンと振っている。
時折僕の体に巻き付いては、チラチラとこっちを見ている。
まだもふもふが足りないのかな?
それにしてもスゥは何を言っているのだろうか。
タマってここには猫はいないのにな……。
それに近づいてくる男を見て、僕は大丈夫なような気がした。
「みんなだいじょうぶだよ?」
続けてケルベロスゥのお腹をもふもふすると、そのまま僕の上に被さってきた。
相変わらずケルベロスゥは大きいな。
「ありがとう」
男は僕の横を通り抜けると、そのまま馬に手を触れた。
「俺を逃がしてくれてありがとう……」
男の瞳からは一筋の涙が流れていた。
きっとケルベロスゥを見て驚いていたのは、馬が食べられると思っていたのかもしれない。
そっと馬に頬を合わせる。
馬も嬉しいのか震えている。
いや、あれはおててさんがグチャグチャして、震えているように見えていただけだった。
「すまないがこれを止めてくれないか? これでも私の家族みたいなものだ」
男は馬を自分の家族だと言っている。
僕にとってケルベロスゥと同じような気持ちなんだろうか。
僕はおててさんに止めるように声をかけようとした瞬間、馬の目がパチパチと瞬きをしているように見えた。
おててさんは隣で丸を作っている。
「もうなおったよ?」
「治った?」
男はおててさんを見ると、首を傾げていた。
「こっちをみてって」
おててさんは馬に指をさしていた。
さっきまで傷口をグチャグチャしていたところは、しっかりと閉じており元の姿に戻っている。
「おっ……お前!?」
『ブルルーン』
馬は嬉しそうに男の頬にスリスリとしていた。
『おい、ココロ! 手が止まっているぞ?』
『もっとしないの?』
『はやく! はやく!』
ケルベロスゥは馬が起きたことに、全く興味がないようだ。
その後も僕は寝転びながら、ケルベロスゥをもふもふし続けた。
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