第9話 末っ子、謎の記憶 ※ベロ視点

 眠りにつくと僕達はいつのまにか扉の前にいた。


『なんだこれは!?』

『まるで地獄の門番のようね』


 ココロは僕達をケルベロスゥと名付けた。


 どうやら童話に出てくるケルベロスってやつに似ているらしい。


 彼らは何かを必死に守る番犬と言われている。


 僕達にこの扉を守れってことだろうか。


『なぁ、少し隙間が開いているぞ?』

『行ってみましょうよ』


 好奇心が強い兄は扉の先が気になるようだ。


 僕の顔をジーッと見つめて来る。


 こういう時っていつも僕が止めていたからね。


 ただ、今回に限っては僕もなぜか奥が気になっていた。


 この先に何があるのだろうか。


 なぜか見に行かないといけない気がしていた。


『行ってみる?』

『よっしゃあああ!』

『良い男はいるかしらね』


 僕達はゆっくりと門の隙間を通って……いけない!


『ちょっと、兄さんと姉さんが一緒にきたら通れないよ!』

『ここは一番年上の俺が先だろ!』

『そんなに生まれる時間なんて変わらないわよ!』


 みんなで一緒に通ろうとしたら、扉に挟まってしまった。


 体は一つだから通れると、みんなも思ったのだろう。


 ただ、顔が三つも付いているから横幅は広い。


 相変わらずこの体に慣れないな。


 僕が顔を引き抜くと、そのまま兄と姉の顔が扉の奥に吸い込まれる。


『うぉ……』

『うおおおおお!』


 もちろん繋がっている僕も遅れて扉に引き込まれていく。



 ♢



「今日はママとパパ遅いんだって」


 僕は誰かに撫でられているのだろう。


 心地良い声に僕は眠たくなってきた。


『ワン!』


「ケルも撫でてもらいたいの?」


 撫でる手を止めて、隣にいるケルを撫で出した。


 僕をもっと撫でてよ!


 そう言いたいのにうまく話せない。


「ははは、スゥも撫でてもらいたいの?」


 僕達はこうやってご主人様に撫でられるのが好きだった。


 ただ、ご主人様の顔はなぜかボヤけて見えない。


 隣にいる兄と姉の顔はわかるのにな……。


 ん?


 僕達、別々の体になっているぞ!


 兄と姉もそれに気づいたのか、喜んでご主人様の周りをクルクルと回っている。


『ワォーン!』


 姉はさらに股の確認をすると、鳴きながらはしゃいでいた。


 何があったのだろうか。


「今日は僕と散歩に行こうか」


『ワン!』


 僕達は声を揃えて返事をする。


 散歩は僕達が一番好きなイベントだ。


 小さな体のご主人様に紐を付けられると、早速外に出ていく。



『ワォーン!』


 兄と姉も散歩が好きなのか急いで走っていく。


 手で持つには危ないため、ご主人様は体に紐を結びつけている。


 そんなに急ぐとご主人様が引っ張られてしまうよ。


「へへへ、みんな元気だね」


 だけど、ご主人様は嫌な顔を一つもせずに笑っている。


 本当は僕が止める立場なのに、ついつい僕も嬉しくて一緒になって走ってしまう。


「ちょ……三匹一緒に走ると無理だよおおお!」


 僕達は三匹を合わせると小さな体のご主人様より大きくなる。


 だから二匹までは止められるけど、僕が走ると無理なんだろう。


 僕が急いで止まると、兄と姉は睨んでくる。


 きっとあいつらは自分のことしか考えていないのだろう。


「ベロありがとね」


 ご主人様はそれに気づいたのか、僕の頭を撫でてくれた。


『ワン!』


 それを見ていた兄と姉も撫でてくれと、走って戻って来る。


 道の真ん中で僕達はご主人様に被さって、みんなでペロペロと舐めまわす。


「ママ、ワンちゃん達と遊びたいな」


「ダメよ! 噛まれたりしたら危ないわよ」


 僕達を見て近くにいた親子が心配していた。


 僕は噛まないもん!


 噛むのはご主人様を守る時だけだ。


 ただ、変な人が近寄ってこないように僕達はご主人様を囲んで警戒している。


 誰も近づかないようにするのは、僕達の役目だ。


 僕達はご主人様のパパとママに、ご主人様を守るように頼まれているからね。


「僕もママに会いたいな……」


 近くで手を繋いでいた親子を見て寂しくなったのだろう。


 僕達は一生懸命、ご主人様の顔を舐める。


 ご主人様には僕達がいるよー!


 ご主人様のママとパパはいつも仕事で忙しい。


 ママは動物の先生で、パパは人間の先生だって聞いている。


 パパは夜も家にいることが少ないからね。


 だから僕達が番犬として、ご主人様に拾われてから守っている。


 あっ、ママが働いているところに行けば良いのか!


 ママの働き先なら僕達が行っても怒られない。


 兄と姉もそれに気づいたのか、お互いに顔を見合わせている。


「うぇ……!?」


 僕達は一緒になってママのところに走っていく。


 急に引っ張られてご主人様はびっくりしているけど、どこに向かっているかわかると少し嬉しそうだった。

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