第8話 末っ子、ご主人様を守りたい ※ベロ視点
『兄さん、獲物はどこにいる?』
『右に曲がったところだ』
僕達は右に曲がったタイミングで姿勢を低くして身を隠す。
以前よりも顔が増えたため、体の使い方が変わって動かしにくい。
少し顔の向きが違うとそっちに引っ張られてしまう。
例えば兄が右に傾けると、姉か僕が左に傾けない限りそのまま右に倒れそうになる。
それでも僕達にとってそれだけで十分だった。
そもそも一度失った命が戻ってくるとは、あの時思わなかったからね。
ココロには感謝している。
『野ネズミがいる』
『さすが兄さんだね』
野ネズミは土を掘って何かを隠しているのだろう。
僕達は少しずつ近づき、足に力を込める。
兄さんは大きく口を開く。
ただ、体の感覚が違うからか、また野ネズミがいないところに顔を向けていた。
この体って僕のものだからね。
代わりに僕が口を開けて、野ネズミの首に一撃を加える。
野ネズミも捕まらないよう必死に暴れる。
それに気づいたのか、兄さんもすぐに野ネズミの腹に噛みついた。
僕の兄はバカだけど、狩りになったら本領発揮するからね。
すぐに野ネズミは動けなくなり、その場で息絶えた。
さっき捕まえた野ネズミはココロが治っちゃったからな……。
あっ!?
『兄さん野ネズミを持って!』
『なんでそんなに急いでいるんだ?』
『本当にバカね! ココロが一人で待っているじゃないの!』
僕達は近くに野ネズミがいることを知っていたため、ココロをおててさんに任せて狩りに向かった。
ただ、森の中で一人待たせるのも寂しいだろう。
なぜか僕はココロを一人にしたらいけない気がするんだけど。
ココロは何かを抱えている気がする。
話している時にそう感じた。
そもそもこんな森に子ども一人でいることの方がおかしいからね。
それに僕達はそもそも魔獣だ。
魔物の中でも僕達は知性がある方だが、他のウルフは襲ってくるかもしれない。
そう思うとさらに心配になってくる。
大事なココロを守ってあげないとね。
『ちょっと、兄さん急にスピード出さないでよ!?』
僕の体なのに意思が三つもあるから、体はめちゃくちゃだ。
『ココロが心配じゃないか!』
野ネズミを咥えているから聞き取りにくいが、みんなココロが心配なのは同じのようだ。
いつもなら人間を見たら俺達は彼らが餌に見えてしまう。
それは誇り高き魔獣としては当たり前だ。
初めの時は兄と姉はココロを食べる気だった。
よだれをだらだらと垂らしていたからね。
それでもココロだけは、どうしてか食べる気にならなかった。
ココロには特別な力があるのだろう。
僕達は急いで帰ると、木にもたれてココロは眠っていた。
その手には果実を持っており、僕達が帰ってくるのを待っていたようだ。
『ココロは疲れて寝たのかな?』
僕の言葉に近くで見張りをしていたおててさんは丸を作っていた。
彼はココロの魔法だが、彼自身に感情があるようだ。
それになぜか彼もココロと同様にどこか知っているような懐かしい気がした。
小さな少年と魔獣、それに謎の黒い手。
側から見たらおかしな連中に見えるだろうな。
しばらくすると黒い手は消えた。
きっと僕達にココロを任せたと言っているのだろう。
あいつも話せるといいのにな。
『ココロを起こすか?』
『こんなにスヤスヤ寝ていると可哀想だよね』
ココロはずっと移動していたから疲れているのだろう。
それにもう周囲は暗くなり、明かりがないから尚更幼い体には眠たいはず。
「パパ……ママ……」
小さな声で両親を求めるココロはうっすらと涙を流していた。
『ココロって捨てられたのか?』
『ちょ、そんなに露骨に言ったら可哀想だよ』
『そうよ! バカだけどそれぐらい配慮しなさいよ!』
『なぁ!?』
また兄と姉は喧嘩しそうになっていた。
前から喧嘩することが多かったが、今は顔が隣にあるからやめてほしい。
めんどくさいし、唾がたくさん飛んでくる。
やはり世の中の末っ子は大変なんだろうか。
僕は急いでココロが起きていないか確認する。
「むにゃ……」
どうやらまだ寝ているようだ。
『本人は家に帰る気だけどうするのよ?』
『僕は帰らない方がいいと思うけどね』
『でもどこの町に住んでいたのか知らないんだろ?』
ひょっとしたらここから近くの町から来ている可能性もある。
そう思うとココロを町に送ったらダメな気がする。
せめていくつか離れた町が良いのだろう。
『遠くの町に着くまでは僕達が守ってあげないとね』
『ああ、そうだな』
『わかっているわ』
みんな僕と同じ気持ちだ。
出会った時から僕達が守ってあげないといけない気がした。
僕達もココロの隣にいって守るように囲んで眠る。
起きたら一緒にご飯を食べようね。
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