第7話 飼い主、みんなで果実を採る

『あれなら俺に任せろ!』

『兄さん? 俺に任せろじゃなくて、俺達に任せろだよ?』

『そうよ! それよりも私は木に登ったことないわよ?』

『僕もないよ?』

『大丈夫だ。俺もないからな』

『役立たず!』

『やっぱり脳筋はだめね!』


 ケルベロスゥ達は何か言い合いをしている。


 僕達は木の下で果実を見上げていた。


 野ネズミは料理しないと食べられないため、どうしようかと森の中を彷徨っていたら、木に実っている果実をみつけた。


 だが、そこで問題が起きたのだ。


 あの果実をどうやって採ろうかということだ。


 もちろん僕が背伸びをしても届くはずがない。


 ケルベロスゥの背中から背伸びをしようとしたら、しっかり者のベロに怒られてしまった。


 どうしようか迷っていたら、ケルが採ってくると言い出した。


『まぁ、俺に任せたらどうにかなるだろ?』

『いや、だから兄さん聞いて――』


 ケルベロスゥはおもいっきり脚に力を込めると高く飛んだ。


『どうだ!』


 ケルは満面の笑みで僕も見てくる。


『兄さん全く届いてないよ?』

『そうよ! ただ、高く飛んで自慢しただけじゃないの!』

『いやいや、あの木が高過ぎたんだ! そもそも俺達ウルフはネコじゃないから、木に登れるはずがない』


 ケルベロスゥは楽しそうにお話をしていた。


 兄弟で話し合うのは良いって言ってたもんね。


 今度はもう少し地面から低いところにある果実を探そうかな。


 そう思っていると、おててさんが僕の服を引っ張っていた。


「ん? どうしたの?」


 おててさんは果実を指さして、両手で丸を作っていた。


 僕が頷くとおててさんは震えだした。


「おててさん?」


 次の瞬間、おててさんがビヨーンっと伸びた。


 まるで果実を採ろうと手を伸ばしているようだ。


 それと同時に体の力が抜けていく。


『ココロ?』


 それに気づいたのかベロが近寄ってきた。


『大丈夫か?』

『突然どうしたのよ?』


 ケルとスゥも心配して、僕の頬にスリスリと顔を寄せてくる。


「ちからがぬけちゃった」


 僕がニコリと笑うと、ケルベロスゥは安心したのかさらにスリスリとする。


『そういうことね』

『おててさんが果実を採ってきたのか』


 ケルベロスゥは僕の力が抜けた原因を知っているようだ。


 おててさんが急いで僕に駆け寄ってくると、あたふたとしていた。


 いつもなら手で何か合図をするのに、あっちやこっちに手を向けている。


「だいじょうぶだよ? おててさんもありがとね」


 おててさんは僕の目の前に果実を置くと、頭を撫でてくれた。


 やっぱりおててさんに撫でられると、どこか懐かしくて温かい気持ちになる。


『ムッ……僕達のココロが取られる』

『それは許さん!』

『私にココロは必要だからね』


 一方、ケルベロスゥはお互いに顔を見合わせて何か相談をしているようだ。


 何か解決したのか頷いて僕の上に跨った。


「どうしたの?」


『俺も撫でられるぞ!』

『そうだよ!』

『私達にも任せなさい!』


 ケルベロスゥは僕の隣に座ると、両手で僕をポンポンとしてきた。


 感じたことのない手の柔らかさに、ついニヤニヤしてしまう。


『どうだ、俺達の肉球はすごいだろ!』

『僕達だって撫でられるんだからね!』

『ふふふ、最高級の肉球を味わいなさい』


 僕はケルベロスゥに頭をふみふみされていた。


――グゥー!


「あっ……」


 しばらくふみふみされていたら、お腹の音が響き少し恥ずかしくなる。


『ご飯にしようか』

『ちょっと野ネズミを捕まえてくる!』

『おててさんはココロをお願いね』


 ケルベロスゥも気づいたのか、ふみふみをやめて野ネズミを捕まえに行った。


 僕はおててさんと共に森の中で待つことになった。


「ひとりはちょっとこわいね?」


 おててさんは握り拳を作って、クルクルと回していた。


 どうやら僕を守ってくれるようだ。


「ははは、たよりにしてるね」


 全身の力が抜けた僕は一旦木にもたれて座ることにした。

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