第6話 飼い主、お礼を伝える
「けんかはだめだよ?」
『なぁ!? 喧嘩はしておらんぞ!』
『僕達には良くあることだよ』
ケルベロスゥ達は言い合いをしていたが、喧嘩ではないらしい。
「よくあるの?」
『仲良くするには言いたいことを伝えるのが大事なのよ』
「そうか……」
僕は家族に守ってもらうことばかりで、何一つ言いたいことを伝えていなかった。
そういうところが嫌われたのだろう。
『ほら、野ネズミを取ってきたぞ!』
ケルは大きな野ネズミを僕の目の前に置いた。
首を強く噛んだのか皮一枚で繋がっており、頭が外れそうな状態でぐったりとしている。
ただ、僕はどうすれば良いのかわからない。
『食べないの?』
『新鮮な野ネズミは美味しいわよ』
ベロやスゥも不思議に思っているのだろう。
三匹一緒に首を傾げていた。
その姿が可愛くてついつい触れてしまいたくなる。
「たべかたがわからないよ? スープにするの?」
お互いに顔を見渡すケルベロスゥ。
僕は間違ったことを言ったのだろうか。
『人間はそのまま食べないのか?』
『僕達は調理したことないからできないよ。姉さんは?』
『そんなのできるはずがないわ。花嫁修行に含まれてないもの』
どうやら捕まえた野ネズミを調理することはできないようだ。
どうしようか迷っていると、地面からおててさんが出てきた。
野ネズミを指さすと、何か合図をしている。
「おててさんがやってくれるって!」
僕はそのままおててさんが何をやるのか覗いた。
――グチャグチャ
『うげ……』
『取れた頭をくっつけているのかな?』
『私達もあんな感じだったのかしら……』
おててさんは野ネズミの頭をグチャグチャする。
「くっつけたいの?」
おててさんは親指をあげた。
調理をするのかと思ったが、どうやら頭をくっつけたかったのだろう。
食べられないならそのままにしておくのも可哀想だしね。
「グチャグチャペッタン!」
おててさんに合わせて掛け声をすると、傷口は塞がって頭がくっついた。
しばらくすると野ネズミはピクピクと動き立ち上がった。
『おい、本当に生き返ったぞ!』
『ココロはすごいね!』
「ん? ぼくはなにもしてないよ?」
野ネズミも治したのはおててさんだ。
僕の力ではない。
それに色も灰色だったのに黒色になっていた。
色も変えられるっておててさんはすごいね。
『おててさんはココロの魔法だよ?』
ベロの言葉にケルとスゥは頷いている。
やっぱりおててさんは僕が出した魔法だった。
「でもぼくがやっているわけじゃないよ?」
『そんなことないぞ?』
『そうよ!』
ケルベロスゥは僕に近づき顔をスリスリしてきた。
『僕達が生きているのはココロのおかげだよ』
『そうだ! 俺とスゥは少なからず死んでたな』
おててさんも手で丸を作っていた。
僕は何もできない必要のない子だと思っていた。
だけど、僕にもできることがあったようだ。
地面から出てくる黒い手。
それは僕がこの世界に認められたプレゼント。
僕を優しく撫でてくれるおててさんが、僕の魔法でよかった。
それに少しは寂しい思いをしなくても済むからね。
そんなことを話していると、野ネズミはそそくさとどこかへ行ってしまった。
せっかく取ってくれたのに悪いことをしちゃったな。
「みんなごめん――」
僕が謝ろうとしたら、おててさんが口を塞いだ。
『こういう時はお礼を言うんだよ』
『ああ、俺も謝られるより、感謝されたいからな』
「みんなありがとう。ぼくもみんなのためにがんばるね!」
初めて自分からお礼を言った気がする。
お礼を伝えるとケルベロスゥは嬉しそうにスリスリと頬擦りをしてくれた。
僕は何も知らないから嫌われちゃったのかな。
家族に会った時は〝いつもありがとう〟ってお礼を伝えないとね。
『ケルも感謝しなさいよ! あなたのせいで、私の真っ白な歯で野ネズミに噛み付くハメになったのよ!』
『うっ……それは……』
『ホワイトニング費を出しなさいよ!』
『兄さ……姉さん落ち着いて? 唾が僕にかかってるからね?』
「へへへ」
そんなケルベロスゥを見て、僕も一緒に笑っていた。
僕にはおててさんとケルベロスゥという大事なお友達がいる。
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