第5話 飼い主、魔獣の食事事情を聞く

 まずは近くの町に向かってケルベロスゥが走り出す。


 僕はその間も足をパタパタとさせながら、到着するのを待っていた。だけど、一向に町の姿は見えない。


 次第に外は暗くなって来ているし、大丈夫なんだろうか。


『ねぇ、ココロ!』


「なーに?」


『町が見えないけど、どこにあるのかわかる?』


「しらないよ?」


『はぁん!?』

『うぇ!?』

『なによ!?』


 急にケルベロスゥが立ち止まり、僕はそのまま体が投げ出される。


「うわああああ!」


 体が浮いたと思ったら、ケルベロスゥが僕を咥えていた。


 僕ぐらいの大きさなら顔一つより少し大きいくらいだもんね。


「ありがとね!」


『はぁ、そんなの別に気にしてねーよ!』

『くくく、兄さん照れてるね』

『あなたが怪我すると私達は誰が治すのよ』


 みんな一気に話すから聞き分けるのも大変だ。


 ケルは思ったよりもしっかりと兄ちゃんみたいな性格なんだね。


 よく僕を助けてくれた時の兄ちゃんにそっくりだ。


 それとスゥは怪我は誰が治すかって話だよね?


「けがはおててさんがなおすよ?」


『おててさん?』


 僕の言葉にケルベロスゥは首を傾げる。


 ケルは左に傾けるし、スゥが右に傾けるから間のベロは窮屈きゅうくつそうにしていた。


 僕はおててさんを探すために、周囲を見渡すと地面から大きく手を振っているおててさんが出てきた。


『うおおおおお!?』

『兄さん、急に動かないでよ!』

『いやん、顔をぶつけたじゃないの!』


 突然おててさんが目の前に出てきたから、ケルはびっくりしてその場で動くとベロとスゥも引きずられて頭をぶつけていた。


 まだまだ、一緒に動くことになれていないのだろう。


「おててさんはどこでもでてくるね」


 おててさんは親指を立てていた。


 本当に地面であればどこからでも出てくるから、いつもどこに隠れているのだろうか。


 かくれんぼしたら勝てる気がしないね。


『それでおててさんがどうやって怪我を治したの?』


「んー、グチャグチャペッタンしてたよ?」


『グチャグチャペッタン?』


 ケルベロスゥは声を揃えて首を傾げている。


 今度はぶつからないように同じ方に傾けていた。


 さすが兄弟だけあって息もピッタリだ。


『ははは、やっぱり右がいいな!』

『私はやりずらいわよ?』

『僕はどっちでも大丈夫だよ』


 どうやら事前に少し話し合っていたらしい。


 おててさんがその場でくっつけたから、首を動かしにくい方向があるのだろう。


『せっかくだから今日はここでご飯を食べて、朝になったら町に行こうね!』

『おう! それなら俺が獲物を捕まえてくるぞ!』

『あんた本当にバカね。私達繋がってるのよ』

『うん、みんなで行かないと獲物捕まえられないよ』

『あっ、そうか……』


 どうやらいつもケルが獲物を捕まえる担当をしていたようだ。


 そういえば、クマに襲われた時もケルが自ら戦いを挑んだって言っていたな。


 クマってそんなに美味しいのだろうか。


「ならぼくもいっしょにいく!」


『ココロは大丈夫なの?』

『子どもに見せられるものじゃないわよ?』


「だっておいてかれるもん……」


『ああ、わかったわかった! ココロも一緒に行くぞ!』


「うん!」


 僕達はご飯の獲物を探すために、森の中を駆け回った。



「ケルベロスゥのごはんはなに?」


『野ネズミを食べることが多いな』

『あとは僕達と同じ魔獣かな?』


「まじゅうたべるの?」


 魔獣を食べるってことは仲間を食べることになる。


 僕が人間を食べるって考えるだけでも怖い。


『同じ魔獣でも違う生き物だから仕方ないわよ。それに魔力が回復できるのよ』


「まりょく?」


『おまっ、そんなことも知らないのか?』


「しらないもん……」


『兄さん!』

『ああ、すまねー!』


 ケルはベロに怒られてすぐに謝ってきた。


 僕も魔力のことは一切知らないし、せっかくもらったスキル回復属性(闇)の使い方もいまいちわかっていない。


 ただ、前と違っているのはおててさんが見えるようになったことだ。


 ケルベロスゥを治した時も勝手におててさんが治していた。


 やっぱりあれが僕のスキルなんだろうか。


『あそこに野ネズミがいたわよ』


 ケルベロスゥはその場で止まり、姿勢を低くして草木に身を隠す。


『ココロはここで待っていて』


 ベロは僕の服を咥えると、地面にそっと下ろした。


『ここは俺様の出番だな!』

『兄さん、ゆっくりだよ?』

『そうよ! ただでさえ動きにくい体をしているのよ』


 ケルベロスゥは野ネズミにゆっくりと近づいていく。


 勢いよく飛び上がると、ケルはそのまま野ネズミに噛みついた。ただ、急所からズレたのだろう。


 野ネズミの鳴き声が大きく響く。


 必死に逃れようとするところを、ベロとスゥは一緒になって噛みつく。


 しばらくすると野ネズミは息絶えたのか、その場でぐったりとしていた。


『兄さんのバカ!』

『すまんな。思ったよりももう少し体を左にしないといけなかったな』

『私は初めから言ったわよ!』


 どうやらまた兄弟で揉めているようだ。


 僕はすぐにケルベロスゥの元へ向かった。


 喧嘩はだめだよおー!

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