第4話 飼い主、散歩する
「なんでかえったらだめなのー!」
お家にはママとパパ、兄さんや姉さんもいる。
それなのにずっとおててさんが強く引っ張ってきた。
昨日は少しおかしかっただけで、普段のみんなはもっと優しいもん。
きっと僕がスキルの報告する前に寝ちゃったのがいけないのだろう。
『お家がどこにあるのか知ってるの?』
「ううん。ここがどこだかわからないもん」
『ははは、それは迷子ってやつだな』
『迷子なら一人で帰れないじゃないの』
言われてみたらそうだった。
僕はお家までの帰り道もわからない。
だから、必死におててさんは止めたのだろう。
『まずなんでこんな森に一人でいるの?』
「クマさんがおそってきたから――」
『おい、背中に早く乗れ!』
「えっ?」
気づいた時には僕の体は宙に浮いて、犬の背中の上に乗っていた。
初めて犬の背中に乗ってみたが、大きく背中ももふもふとしている。
『ビックベアーは狩場に戻ってくる習性がある。僕もそのことを忘れていた』
『あんなに頭が良いアピールしていたのに忘れているじゃないの!』
「けんかはだめだよ?」
僕の言葉に三匹ともに振り返った。
三匹ともニコニコ笑っている。
どうやら喧嘩ではないらしい。
『じゃあ、行くぞ!』
『えっ、兄さんそっちじゃない!』
『私はあっちにいきたいのよ!』
いざ、逃げようとしたらあたふたとしていた。
みんなで別々の道へ走って逃げようとしていたからだ。
「んー、あっちにいこ!」
そんな三匹に僕が走る道を教える。
『よし、とりあえず行くか!』
『あっ、ちょっと兄さんだけの体じゃないんだよ!』
『それにしても走らなくても、体が勝手に動くって便利ね』
『姉さんも意識しないと遅いんだよ!』
『お前うるさい!』
『あなたうるさいわよ!』
『話を聞かないのは兄さんと姉さんじゃないか!』
賑やかな犬の背中は少しワクワクして楽しかった。
適当に走ったが周囲はさらに茂みが深くなり、森のような場所にいた。
「ねえねえ、ケルはここどこかわかる?」
『ケル?』
『ケル?』
『ケロ?』
一人だけカエルみたいなやつがいたが、きっと間違えたのがケルだろう。
僕は犬の背中の上に乗りながら、名前を考えていた。
正直見た目は一匹だが、顔が三つもあって性格も違う。
もし、名前を呼ぶってなってもどの犬を呼んでいるのかわからない。
それに体が戻った時には、みんな同じ名前になっちゃう。
『一体誰がケルなの?』
「ケルはおにいちゃん!」
上から見て右側にいる毛がつんつんしているのがケルだ。
『ああ、俺がケルなんだな』
『じゃあ、僕は?』
「おとうとはベロ!」
真ん中の優しい末っ子がベロ。一番もふもふとして毛が触ってて気持ち良い。
『ひょっとしてこの展開だと――』
「おねえちゃんはスゥ!」
『ス!』
最後に上から見て左にいる毛がさらさらしているのがスゥだ。
これで間違えなくてわかりやすいだろう。
『はぁー、よかったわ。私だけ一文字だと惨めだったわ』
『ははは、それでも面白かった……って俺を叩こうとするなよ!』
『ケルがうるさいからよ!』
相変わらずケルとスゥは言い合いが好きなようだ。
『ひょっとして……ケルベロスじゃないか!?』
『今頃気づいたのかしら。やっぱりバカね』
『なんだとー!』
どうやら頭が弱いケルでもケルベロスから名前を取ったのがバレたようだ。
ケルとスゥの言い合いはどんどんと白熱していく。
『ねぇ、兄さんと姉さんが暴れると僕が大変なんだけど……』
『お前が邪魔しなければいいだろ!』
『あなたが何もしなければいいでしょ!』
『頭で叩き合ったら、関係ない間の僕だけがずっと痛いじゃん!』
『あっ……』
ケルとスゥの声が重なり合う。
本当にみんな仲が良い兄弟なんだろう。
『それにしても僕達に名前をつけてくれたのは良いけど、君は何て言うの?』
そういえば自己紹介をするのを忘れていた。
「ぼくのなまえはココロだよ! ママとパパがつけてくれたの!」
『そのママとパパはどうしたんだ?』
「ぼくはママとパパにすてられて……」
そういえば魔法が使えるからうちの子じゃないって捨てられたんだった。
捨てられたらお家に帰ることもできない。
「ひとりぼっちになっちゃった……」
『それなら私達が家族になれば良いじゃない!』
「へっ!?」
『ああ、それで良いじゃないか?』
『僕も賛成!』
『だって、私達ココロといないと体が元に戻らないのよ。それにせっかくだから女の子にしてもらわないとね』
優しいみんなの言葉に自然と心が軽くなってくる。
「うん! ぼくがみんなをおんなのこにする!」
『おいおい、俺は男ままでいいぞ!』
『僕もこのままで大丈夫です』
「ぼくっていらないこ?」
そんなに僕っていらないのかな?
悪魔の子って言われているぐらいだもんね。
スゥを女の子にするぐらいしか、僕にできることはない。
『そんなことないぜ!』
『私には絶対ココロが必要だからね』
『さぁ、一緒にお散歩でもしようか!』
必要とされてない僕でもケルベロスゥは必要だと言ってくれた。
新しい家族はとても優しいようだ。
僕はケルベロスゥの体にしっかり捕まる。
「いくぞおー!」
『おおおおお!』
僕達のお散歩旅はここから始まった。
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