朝の風景

フィステリアタナカ

朝の風景

 朝起きてリビングに行くと、リビングで許嫁である凛に会う。凛の「今日から同棲するのよ」の言葉に驚いて、俺は思わず固まってしまった。


「どうしたの?」


 凛にそう言われ「ハッ!」とし、いったいどういうことなのか事情を聴く為、親父がいないか探す。すると親父はサッカーのユニフォームを着て、オレンジジュースを飲んでいた。


(何でサッカーのユニフォームを着ているんだ? 親父)


「親父。どういうことだよ?」


 テーブルで朝食を摂っている親父に俺は話しかける。すると親父は視線をこちらに向けて、こう言った。


「匠。いいだろ、このユニフォーム。ゴールキーパーのユニフォームなんて売っていないから、知り合いに頼むのが大変だったよ」


(そうじゃなくて! ってか何故にゴールキーパー?)


「そんなこと聞いていない。凛が同棲するって言っているけど本当なの?」

「ああ。昨日、スタジアムで凛の母さんに会ってな。引っ越ししたけど、思いのほか学校から遠かったらしい。だったらうちの方が学校から近いし、許嫁だから家で預かろうかって話になったんだ」


(昨日の今日? 早くね?)


「はぁ」

「そうしたら、そこから話が盛り上がっちゃてさぁ。彼女との話もサッカーも盛り上がって最高の夜だったよ」


(最高の夜と聞いて、いかがわしいことを思い浮かべたのは、俺だけだろうか)


「そうなんだ。楽しかったんだね。何対何だったの?」

「11対10だ。面白かったぞ」


(レッドカードが出て、1人退場したのね。俺が聞いたのは得点なんだけれど)


 ポンコツ親父との話の途中、柚子姉が会話に割り込んできた。


「たっくーーん! タズケテ」


 少し鼻を啜りながら柚子姉は俺に抱き着く。


「あのねー。昨日の勇斗とのデート、ドタキャンした理由を勇斗に話したら『はっ? なんだそれ? デートをドタキャンして弟の方に行くなんて。もう別れよう』って言われたのー!」


(うん。いいぞ勇斗さん。こんなバカ姉見捨ててしまえ。男の影があるように誤解させるバカ姉が悪い)


「俺にいつも構っているからそうなるんだよ」

「うぅぅ。このままだとレポート写せないよぅぅ」


(そこ? 大学生なんだからレポートは自力でやりなよ)


「別れたら代返も頼めなくなるぅぅぅ」


(勇斗さん。柚子姉の声をマネて返事していたんだ。よく大学教授にバレなかったね)


 親父も柚子姉もオカシなヤツだ。まともなのは妹のナナくらいだ。


匠兄たくにい! おはよう!」

「ナナ、おはよう」


 ナナが目の前にやってきて、俺は挨拶をした。


匠兄たくにいさ、この前友達に『【花屋の店先に並んだ】って歌詞で始まる曲は何?』ってクイズ出されて、わからなかったの。店先に並ぶって相当な人気店だよね? そんな何十分も待つ店なんて知らないよ~。匠兄知ってる?」


(ナナ。店先に並ぶのは人じゃなくて色とりどりの花ね。そんな何十分も並ぶ花屋があったら見てみたいよ)


「その曲知っているぞ。あと店先に並ぶのは人じゃなくて花ね」

「ほぇ? 人じゃなくて花?」

「そうだよ」

「お花さんかぁ。ナナも並べてもらえるかな? 『こんなしおれた花なんか売り物にならない!』って捨てられたらどうしよう。お嫁さんになれない」


(ナナ。中学生のお前が萎れていたら、高校生以上はどうなるんだ?)


「大丈夫だよナナ。ナナならお嫁さんになれる」

「やったー! 匠兄のお嫁さんになれる!」


(うーん。俺許嫁いるんだよね――ハッ!)


 ナナとの会話で凛のことを思い出し、彼女がいないか周りを見てみると、凛は学校へ行く支度を整えていた。



ピーンポーン



(このタイミングで、チャイム――)


『おはようございま~す。郵便局でーす』


(早いな、ユリ)


 ユリのソプラノボイスが聞こえてきたので、俺は玄関に行き玄関のドアを開ける。


「おはよう、ユリ。今日は早いね」

「うん! 幼馴染とは早く登校しないとね。今日こそはたぁくんと2人きりで――って何で凛ちゃんがいるの?」


 ユリは凛を見て驚いている。


「俺もさっき知ったんだけど、今日から凛がここに住むらしい」

「えっ」


 ユリがショックを受けているように見えたが、すぐにメラメラと対抗意識をあらわにした。


「うちも住む。たぁくんに凛ちゃんが住むなんてズルい!」

「ズルいって言われてもなぁ」


 ユリの主張に困惑していると、ナナが声をかけてきた。


「匠兄。学校遅れちゃうよ。早くポークソテーカレーチリ南蛮食べた方がいいよ!」


(ポークソテーほにゃららって、「早く朝食食べなよ」でいいんだよ。ナナ)


「えっ! ポークソテーカレーチリ南蛮! うちも食べたい! お邪魔しまーす♪」


(ユリ……、まあいいか)


「おっ、友理奈ちゃん。PKあるぞ、PK。ささっ、こっちこっち」


PポークソテーKカレーチリ南蛮ね……。親父、カレーはCだよ)


 こうして平和な朝の風景が繰り広げられるのであった。




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