『黒魔術』って嫌な奴

 マリーナにもどったぼくらは、セイルそのほか備品びひん片付かたづけてからあか屋根やねのクラブハウスにかった。


 ほかのフネはぼくらよりさきにマリーナにかえってるから、会議室かいぎしつはいったのはぼくらが最後さいごだった。

 艇長会議ていちょうかいぎのときとおなじように、阿久津あくつさんと彼女かのじょのお祖父じいさんがホワイトボードのまえにいて、みんなそちらをている。


「おつかさまでした」

 ぼくらがるのをっていたのだろう。部屋へやはいるなり阿久津あくつさんのお祖父じいさんがみんなかってった。

かぜるまでちましたが、いてきてからはつよすぎずかぜめぐまれたレースだったとおもいます。風向かざむきも予報よほうちがって一定いっていしていましたし。みなさんたのしめたのではないかと思います」

 ぱらぱらと拍手はくしゅこったけど、すぐんだ。


 そのとき、コピー用紙ようしにした小父おじさんが会議室かいぎしつはいってきた。

結果けっかたようです」

 阿久津あくつさんのお祖父じいさんはそうってコピー用紙ようしった。


「まずはブービーしょう発表はっぴょうです」

 それをいただけで小浪こなみさんがひとをかきけてすすた。

「ブービーしょうは『韋駄天いだてん』です」

 阿久津あくつさんのお祖父じいさんがげたときにはもう、小浪こなみさんは車椅子くるまいすまえっていた。まわりのみんなもそれをあたたりまえのようにている。ああ、いつものことなんだな。


馬頭ばとうさん、ブービーしょうってビリッケツしょうですよね?」

 みんなまえ賞状しょうじょう小浪こなみさんを横目よこめいてみた。

陸斗君りくとくんはゴルフなんかやらないよね。ゴルフコンペでよくあるんだけど、ビリから二番目にばんめのことだよ」

「そうなんですか? なんで二番目にばんめなんですか?」

「うん、もともとは最下位さいかい賞品しょうひんしてたみたいなんだけど、最下位さいかいだとわざとちからいてねらいやすいよね。それで二番目にばんめってことになったらしい」

「へえ。面白おもしろいですね。でも『韋駄天いだてん』がゴールしたのって最後さいごですよね?」

「ゴールしたのはね。でも修正しゅうせいタイムでまえのフネをいたんだよ。陸斗君りくとくんってくれたおかげで、若返わかがえりポイントがいたしね」


 小浪こなみさんが賞品しょうひんを手にもどってきた。つつみけてみると、いききかけてアルコール濃度のうどはか機械きかいだった。飲酒運転いんしゅうんてん検問けんもん使つかうようなものだよね。これって最初さいしょから小浪こなみさんにわたすと想定そうていしていたとしかおもえない。レースでフィニッシュしたあと、エンジンをかけてマリーナにかえろうとしたときのこと。レースのスタートまえにチューハイをんでた小浪こなみさんにわって馬頭ばとうさんが操船そうせんしようとしたら、「おれってない」って小浪こなみさんが駄々だだをこねた。そこはいのなが馬頭ばとうさんのことだから、適当てきとう上手うまいことって小浪こなみさんにティラーをにぎらせなかったけど、この機械きかいがあれば「ってない!」なんて戯言たわごとは言えなくなる。つつみ中身なかみつめる小浪こなみさんのかおぼくはじめて、「苦虫にがむしめたようなかお」という言葉ことば意味いみったね。


 そんなことをかんがえているあいだ第三位だいさんい第二位だいにい表彰ひょうしょうつづき、あと優勝艇ゆうしょうていのこすのみになった。発表はっぴょうつまでもなく優勝艇ゆうしょうていがどれかなんてかりきってる。


優勝ゆうしょう今回こんかい初参加はつさんかの『黒魔術くろまじゅつ』です」

 拍手はくしゅはほとんどい。

「あれっ? 『黒魔術くろまじゅつ』ってこれまで参加さんかしてなかったんですか?」

「あの野郎やろうなにをとちくるったんだか。あんなレースようのヨット、ここには似合にあわねえよ」

 ぼく疑問ぎもん小浪こなみさんがてるようにこたえた。いや、こたえになってないか。

「『黒魔術くろまじゅつ』の栗栖くりすはバリバリのレースだからね。こんなユルいレースに興味きょうみかったはずなんだ」

 れいによって馬頭ばとうさんが説明せつめいしてくれる。

歓迎かんげいもされてないみたいですよね」

「そうだね。そんなのかってるはずなのに、きゅうにどうしたんだろうね」

 馬頭ばとうさんはひとごとのようにつぶやいた。


 ホワイトボードのまえでは『黒魔術くろまじゅつ』のおじいさん……あれが栗栖くりすさんだな……が阿久津あくつさんのお祖父じいさんから賞品しょうひんっている。二人ふたり言葉ことばわす様子ようすからすると、いみたいだ。

 栗栖くりすさんはみんなのほうをいて賞品しょうひんたかかかげてせた。それを仲間なかま一人ひとりわたすと、おおきなこえはなはじめた。


はじめてこのレースに参加さんかさせてもらいましたが、レベルのひくさにおどろいてしまいました。これではみなさんの技術ぎじゅつ向上こうじょうしませんし、この大会たいかいがメジャーになることもないでしょう」

 小浪こなみさんがしそうになったのを、馬頭ばとうさんがかかえてめた。

「そこで提案ていあんです。次回じかいのレースから、わたしがいつもたたかっている一流いちりゅうレーサーたちに参加さんかしてもらって、このレースのレベルアップをはかりたいとおもいます」

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