マリーナをうろつく酔っ払い

阿久津あくつさん、またね」

 って見送みおく阿久津あくつさんをのこしてぼく小浪こなみさんをった。さき小浪こなみさんは桟橋さんばしようとするところだった。したぼくいついたとき小浪こなみさんはふいにまってしゃがみこんだ。

「カズさん、久しぶり。相変あいかわらずやってんな」

 小浪こなみさんがこえをかけたのは、桟橋さんばし手前てまえ芝生しばふでカップざけすわんでいるおじいさんだった。なりは浮浪者ふろうしゃにしかえない。

「よお、デンさん。さけないか?」

ひとのことはえねえけどぎだぜ」

めないくらいならここからうみんだほうがマシだ」

「しゃあねえな。みかけがフネにんである。いてな」

 カズさんがあかベコみたいにくびをカクカクりながらがった。それから小浪こなみさんとカズさんはって桟橋さんばしあるいていった。ぼくはしっていって二人ふたりのすぐあといていった。


 『韋駄天いだてん』にくとカズさんがれた様子ようすさきにヨットにんだ。小浪こなみさんがつづき、二人ふたりでキャビンにはいっていった。ぼく桟橋さんばしつ。すぐに酒瓶さかびんかかえたカズさんが一人ひとりでキャビンからてきた。カズさんはやはりれた様子ようすでヨットからり、桟橋さんばしりくかってフラフラとあるいていった。


 カズさんが桟橋さんばしもどっていくのを見送みおくっていると、わかひとれたおじいさんがこちらにかってあるいてきた。会議室かいぎしつ孤立こりつしてた六人組ろくにんぐみだ。そのおじいさんは、ちょうど『韋駄天いだてん』からてきた小浪こなみさんにこえをかけた。


小浪こなみさん、おひさりです」

らんぷりしてやってたのに……なんだよ」

つめたいですね。いまはこのフネではしってるんですか? ストレイ26ですよね」

「だからなんだ?」

「いいフネだとおもいますが、レースきではないですね。おまけにふるい」

余計よけいなお世話せわだ。おれはコイツがってんだよ。イヤミいにただけならかえれ」

「イヤミだなんて。ご挨拶あいさつにうかがっただけですよ。どのみちわたしたちも出艇しゅってい準備じゅんびがありますから失礼しつれいします。では海面かいめんでおいしましょう」


 六人組ろくにんぐみ桟橋さんばしをゾロゾロかえっていくのを見送みおくりながら、ぼく小浪こなみさんにいてみた。

ってる人ですか?」

むかしのな」

「あのひとなかわるいんですか?」

わるかねえよ。わねえだけだ」


 それってなかわるいのとちがうのかな? なんておもってたら、桟橋さんばし馬頭ばとうさんがあるいてきた。それまで馬頭ばとうさんがいないのに全然ぜんぜんかなかった。小浪こなみさんにくらべたら存在感そんざいかんうすいもんな。

手続てつづきはませたよ」

 馬頭ばとうさんが小浪こなみさんにった。

手続てつづきってなんですか?」

 ぼくくと馬頭ばとうさんはこちらになおってこたえてくれた。

「マリーナに出港届しゅっこうとどけすのと、レース参加申請さんかしんせいをコミッティにすのと」

「マリーナをるたびにとどけるんですか?」

「そうだよ。いつ帰港きこうする予定よていかをらせておくんだ。もしそれをおおきくぎてもかえってこないようだったら、マリーナが捜索そうさく手配てはいをしてくれる。やまくときは登山届とざんとどけすだろ。それと一緒いっしょだよ」

 ぼく登山届とざんとどけのこともらなかったけど、一応いちおう納得なっとくしたようにうなずいた。


「さあ、そろそろフネをすぞ」

 小浪こなみさんはそううと、キャビンからしてきた救命胴衣きゅうめいどういぼくした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る