ヨット『韋駄天』

 馬頭ばとうさんがおしえてくれたところによると、春秋はるあき二回にかいこのマリーナでヨットのレース、佐之島さのしまカップが開催かいさいされる。『韋駄天いだてん』も毎回まいかい参加さんかしている。(馬頭ばとうさんのくちぶりからすると、レース参加さんかおも目的もくてきみたいだけど……)


 ルールもこのレース独自どくじのもので、そのなかに「少子高齢化対策しょうしこうれいかたいさくポイント」なるものがある。いろんなかたのヨットがあつまってするレースの場合ばあい、ヨットの性能せいのう順位じゅんいまってしまう。それでは面白おもしろくないので、性能せいのうおうじたハンディキャップ(ヨットの世界せかいではレーティグとう)がフネごとにめてあって、それに沿って計算けいさんした修正しゅうせいタイムをもと最終順位さいしゅうじゅんいめるようになっている。中学生以下ちゅうがくせいいか子供こどもせているとさらに有利ゆうりにタイムが修正しゅうせいされるというのが「少子高齢化対策しょうしこうれいかたいさくポイント」だ。年寄としよりばかりになってしまったヨットの世界せかいに、わかひとすこしでも興味きょうみつきっかけをつくろうということらしい。

 去年きょねんまで『韋駄天いだてん』にせていた子供こども高校生こうこうせいになってポイントの対象たいしょうでなくなった。それで生徒せいと寄越よこせと小浪こなみさんから間宮先生まみやせんせいにおねがいした(おどした)結果けっかぼくおくまれたというわけ。なお、小浪こなみさんは間宮先生まみやせんせい伯父おじさんで、どうやら間宮先生まみやせんせいよわみをにぎっているらしい。どんなよわみかはおしえてもらえなかったけどね。


陸斗君りくとくん、まずは艤装ぎそう手伝てつだっておくれ」

 説明せつめいしてくれた馬頭ばとうさんがった。ヨットをはしらせるには色々いろいろ部品ぶひん必要ひつようだけど、そのおおくは潮風しおかぜいたまないよう普段ふだん片付かたづけけてある。それらをけていくことを艤装ぎそうって言うんだ(って馬頭ばとうさんがおしえてくれた)。


 ヨットというのはロープだらけだ。そうそう、ヨットの操船そうせん使つかうロープのことは「ロープ」ってわないんだそうだ。わりに「シート」ってぶ。マストのうしろにおおきなをメインセイル、マストのまえすこちいさなはジブセイルっていうけど、それらを操作そうさするロープはそれぞれメインシート、ジブシート、というかんじだ。

 小浪こなみさんと馬頭ばとうさんはれたつきでヨットのあちこちにいろいろな部品ぶひんをセットし、滑車かっしゃにシートをとおしていく。ぼく手伝てつだったけど、われたとおりにしただけでなにがどうなっているのかさっぱりからなかった。それでも全部ぜんぶ作業さぎょうわりマストのまえうしろにセイル……がセットされ、シートるいがきれいにめぐらされた状態じょうたいになると、からないなりにも準備完了じゅんびかんりょうという雰囲気ふんいきつたわってくる。


 ぼく桟橋さんばしって『韋駄天いだてん』を見渡みわたし、馬頭ばとうさんにおそわったことをおさらいしてみた。


 ヨットのながさは「フィート」であらわす。一フィートはやく三〇さんじゅっセンチメートル。『韋駄天いだてん』のながさは二六にじゅうろくフィートだから……計算けいさんしてみてよ。

 船体せんたいのことは「ハル」ってう。しろいヨットがおおなか、『韋駄天いだてん』のハルは緑色みどりいろ塗装とそうしてある。

 船首せんしゅは「バウ」。左右さゆうに「韋駄天いだてん」て船名せんめいいてある。ちなみに船尾せんびは「スターン」。

 甲板かんぱんは「デッキ」、船室せんしつは「キャビン」。『韋駄天いだてん』のハルはみどりだけど、デッキはしろだ。デッキのなか三分さんぶんいちくらいがすこがっている。キャビンの屋根やねだ。


 キャビンの屋根やねうえたか一〇じゅうメートルくらいのマストが一本いっぽんっている。マストの根本ねもとからメートルくらいのたかさに、さんメートルくらいのぼう水平すいへいうしきにている。メインセイルの下側したがわささえる帆桁ほげたになるもので「ブーム」ってう。マストとブームでカタカナの「ト」のみたいになってるんだ。


 メインセイルはブームのうえたたまれてっている。マストのまえのデッキにたたまれたジブセイルがよこたわっている。


 キャビンのうしがわがコックピット、操縦席そうじゅうせきだ。ヨットの操船そうせんはあっちこっちったりたりしていろんなシートをあつかうから、くるま飛行機ひこうきちがって固定こていした椅子いすにすっぽりおさまるなんてことはない。操縦席そうじゅうせきとはってもならんで四人よにんくらいすわれるながさのベンチシートが左右さゆうかいってるひろ場所ばしょだ。ヨットの方向ほうこうえるための舵棒かじぼうはティラーとうけど、それもここにある。ちなみに屋根やねくてきさらし。


 キャビンにはコックピットからはいるようになってる。ハッチからなかはいると左右さゆう壁沿かべぞいに「バース」って寝台しんだい兼用けんよう長椅子ながいすかいってて、そのあいだにテーブルがつくけになってる。バウがわやスターンがわにもそれぞれハルのかたちわせたバースがあって、最大さいだい六人ろくにん寝泊ねとまりできるようになってる。


 ほかにも操船そうせんのための装置そうちがあれこれいてるんだけど、いっぺんにおぼえようとしてもなになんだかからなくなりそうだから、とりあえずここまであたまれてわりにする。


 とにかく『韋駄天いだてん』の艤装ぎそうわったぼくたちは、さっきのあか屋根やね建物たてもの、クラブハウスにかった。

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