コンビニ②


「いらっしゃいませー」


 扉が開くと同時に手慣れた挨拶が聞こえてくる。濡れた傘を傘置きに置いて買い物カゴを手に取る。

 紬麦の方は入り口付近で顔を振って店内を様子を確認しているようだった。


「おぉ、結構大きいじゃん」


 雨に濡れたサンダルからゴムがキュルキュルと滑る音が鳴っていた。


「滑るからはしゃぐなよ」


「子ども扱いしないでよ」


 膨れた顔をしている相手を置いて目的のものを探す。


「えーと、カレーはと」


 見回して探すも見つからず適当に店内を徘徊する。


「これだね」


 後ろから目的のカレーのルーをカゴに入れられる。

 どうやら紬麦の方がどこからか見つけて来たらしい。


「それじゃあ、後は駄菓子か」


 ひとまずこっちの目的は果たしたので次は紬麦の分だ。


「うん。それに飲み物買おうよ」


「あー、飲み物か」


 家にジュースが無いのでいい考えだろう。その意見に賛同しておく。


「さてさて、駄菓子はっと」


 小さい駄菓子コーナーを前に目を輝かせて物色しているようだ。

 何か決めて手を伸ばしたが、駄菓子をつまむのではなく掌いっぱいでに掴んでカゴに持ってくる。

 ドサッと効果音が付きそうな音がカゴから聞こえる。


「お前……入れ過ぎだろ」


「まあまあそんな事言わずに穂積も」


「じゃあ俺はこれとこれ」


 目についた懐かしい駄菓子を数個つまんでカゴに入れる。


「遠慮しなくていいよ! どんどん入れよ!」


「うわ、まだ入れるのか」


 今度は違う駄菓子を複数、同じような勢いでカゴにいれる。既に中身の殆どが駄菓子に占領されていた。


「あ、穂積は言ってないよね。私、今ね家ではお菓子とか食べられないから」


 俺の知っていたときは、そんな決まりは無さそうだったがこの数年で変わったのだろう。

 そんな理由もあってか、ここぞとばかりにお菓子を手に取る。


「そういう訳で、えい」


 またも紬麦が駄菓子を入れる。中には普通のスナック菓子も紛れていた。

 さらにカゴを占めるお菓子を拒否する必要はないだろう。


「なら俺も」


 そんな相手の前でこちらも遠慮するのは、いまいち気が乗らない。どうせなら勢いに任せてとことん行こう。

 目についた食べたいお菓子をどんどんカゴに詰めていく。


「いいね、いいね」


 そんな俺の様子を見て楽しそうで満足気な感情の篭った声が聞こえてくる。


「飲み物はこれとこれ」


 紬麦はお菓子を見終わり後方の飲み物コーナにいて、ドリンクを先に決めているようだった。


「穂積はー?」


 遅れて飲み物を確認するが、半ばヤケな気持ちで2Lの炭酸飲料をドンとカゴに詰め込む。


「うわ、行くね〜〜」


「私にもそれ飲ましてよ」


 一人で飲み切る予定では無かったのでこれは助かる。


「もちろん」


「後はデザートかな」


 どうやらまだ行く予定みたいだ。後ろをついて行きデザート系が並んだところまで来た。


「穂積何にする?」


「晩飯に駄菓子にってもう入らないだろ」


「甘いね、デザートは別腹だよ」


 確かにそうは聞いた事はあるがそれにしてもと、カゴに視線を落とす。もう既に溢れそうな程の商品が入っていた。


「ほら好きなの選んで」


 ここで遠慮はもう遅いだろう。


「じゃあこのアイスで」


「アイスか……私は何にしようなか」


「これも良いし、これも捨てがたい……」


 紬麦の方は二つの商品を手に持って悩んでいるようだった。


「穂積、どっちが良いと思う?」


 これがよく話題に聞くやつなのだろう。デザート版の。


「何で究極の二択を服じゃなくて、先にデザートでやってるんだ」


「確かに。まあまあ予行演習だと思って」


 予行演習と言うあたり服を見に行くときもこの流れがあるのだろう。仕方ないのでその練習だと思って真剣に選ぼう。


「うーん」


 とは言え、自分の事でも無いので簡単に決めて良いものなのかと自問自答する。それにどっちを選んでも後悔すると聞いた事がある。


「俺のアイス諦めてこっち買うから半分食べろよ」


 どっちを選んで後悔するならどっちも選べばいい。


「え!? 良いの?」


「良いよ、別に」


「ありがとう!!!」


 どうやらこの選択がクリティカルだったらしく、ひとまず究極の二択は満足の行く結果に終わったようだった。


「あ、服のときなら私の服着ることになるね」


「そうはならないだろ」


 どんな理論だ。いや少しは理解……できるのか。


「じゃ、会計行ってくるね」


 俺が悩んでいる間に、いつの間にか紬麦が買い物カゴを手に取ってレジに向かう。


「本当に紬麦が払うのかよ」


 前にそんな事を言っていたが、本当に払うとは思っていなかった。


「そうだよ?」


 いざ、そう言われると遠慮せず商品を入れていたの事に罪悪感が生じる。


「いや悪い気がして」


「今日とかいっぱい助けてもらってるから、むしろ私にお礼させてよ」


 そう言って紬麦が俺を寄せ付けないようにしたまま、レジを通した商品の支払いを電子マネーで済ませる。

 レジ袋はパンパンに膨れたのが二つ用意されていた。


「荷物は俺が持つよ」


 家を貸したとは言え他に何もしないのは居心地が悪いので、荷物を運ぶ事にする。


「いいの?」


「じゃあ、私が傘刺すね」


 自動ドアが開き外から雨の音が聞こえる。傘置きから行きと同じ傘を手に取る紬麦。

 俺が入りやすいように隣によって場所空けていた。


「さ、帰ろっか」


 来た道を二人で雨に濡れないように肩を並べて歩いて帰った。



「ただいま」


 玄関を開けて一応の挨拶をする。家には誰も居ないので当然返事は返って来ない。


「おかえりー」


 はずなのに後ろの紬麦から返事が返って来た。


「ただいまー」


 彼女の方も玄関を通る際に一応の挨拶をしたようだ。


「何だよ」


 そんな様子をボーッと眺めていたら背中を叩かれた。


「穂積、ただいま」


 ああ、そういう事か理解した。


「おかえり紬麦。晩御飯にしようか」


「うん!」


 暗い玄関に灯りを付け二人でキッチンに向かう。

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お姫様と呼ばれる幼馴染が俺にだけ昔の姿を見せてくれる ジャンフ丸 @janfumaru

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