お泊り会③
「来週末ってまたいきなりだな」
紬麦の提案に反対の意見は無かったが、今週の後に次の週もとはいきなりに感じた。
「だって……私の顔を学校の人たちに覚えられる前に行きたいから」
なるほど、学校の人たちを考慮してのことか。それならできるだけ速い早い方がいいだろう。
「学校のみんなは私がそんな服着ないと思ってるだろうから外でもバレないって」
その主張も入って来やすいものだった。実際、学校の人たちが想像する紬麦の私服は写真で見たり今日着てたものだろう。
そんな服装から離れれば離れる程、学校の人たちにはバレにくいと考えられる。
「だから次も穂積と遊ぶときに遊びやすいって思うの」
「確かに……」
紬麦の意見には納得せざるを得ない。ただ次もその次も遊ぶ気満々なのは昔と変わっていない様子だ
「大丈夫、大丈夫。顔も帽子も被るし変装ってやつだよ」
そこまですればすれ違ったりしても大丈夫だろう。
「それでさ穂積……来週一緒に来てくれる?」
「分かった。行こう」
「やった! じゃあ集合場所とかどうしようか」
楽しみなのか子どものように、はしゃぐ姿にこちらも心が踊る。
「あ、私の服装はまだお嬢様が着るようなのしか無いから、最初だけそんな服になると思う」
「なるべく知り合いに見られないようにか」
今はまだそういう系の服が無いだけに警戒しとけということか。先に服だけでも一人で買えば、というのは一緒に行く理由があるだけに野暮だろう。
「そうそう。だから来週ってことね」
交流が広くなる前に変装する服を買うということだ。
「それで、服を買った後それ着て行動するから途中から心配しなくても大丈夫だと思う」
買った場所で着替えることで他の人にバレるリスクを下げるらしい。上手く考えているようだ。
「そうだな。その方がいいな」
「そしたら好きなだけショッピングとかゲームセンターとかゲーセンとか行けるよ」
「ゲーセン行きたいだけだろ」
ゲーセンが二回出てくる当たり相当行きたいのだろう。少しだけだが服装や立ち振る舞いを見た感じ、行けるような雰囲気ではないのは確かだ。
「流石は穂積! 私のこと分かってる」
誰でも分かるだろうが、楽しそうにしている様なので変に気分を下げることは言わないでおこう。
「それで土日のどっちかは天気を見て決めよ」
来週末と言っていたが、要は土日のどっちかということらしい。梅雨時なので天気が崩れやすい以上、その方が懸命だろう。
「そうだな。分かったらで」
「その連絡、私たちはもうできるからね!」
連絡先を手に入れているのでそういう予定も建てやすい。これで小学生のときのような電話をかけるというのからおさらばだ。
「えーと」
キョロキョロと何かを探している様子だが見つかっていないようだ。
「これだろ?」
持っていたスマホを手渡す。おそらく連絡先を持ってる、と言ったときにスマホを掲げてドヤ顔をする予定だったのだろうが手元に無かった。
「あ、そっか今私のスマホは穂積か」
「返すか?」
紬麦にスマホ返す、ということは俺の部屋を漁るのが終わるという合図だ。
早くこのノーガードの探り合いを終えたい自分にはスマホを受け取ってもらえたほうがありがたい。
「うーん。穂積の部屋はまだ散策しきれてないし……」
俯いて受け取るか悩んでいるようだが少しの間で顔を上げた。結論は意外と早く出たらしい。
「ま、今回はいっか」
というようなのでスマホを返却する。これで探られないので一安心だ。
「って穂積。私のスマホ中身そんなに見てないじゃん」
返ってくるなり何を見ていたか確認したらしい。というより見たことで怒られるならまだしも、見なかったことで怒られるとは。
「気が引けるだろ」
「私はガッツリ見ようとしてたから、ちゃんと見てくれないとフェアじゃないよ」
紬麦の意見にも一理ある。というよりもう認めるしかないようだ。
「今度見るときは遠慮無しね」
「次回がある前提かよ」
またどこかのタイミングで第二回の詮索が起きるらしい。次までに見られて困るものは隠しておこうと決めた。
「そろそろ良い時間だけど晩飯どうする?」
紬麦の探索が落ち着つき時刻を見ると19時を回っていた。晩御飯の時間だ。
「うーん、晩御飯かあ」
何やら決めかねるようにしている。
「穂積はこう言うときは何してるの?」
なるほど、母さんが家を空けているから普段どうしてるか分からなかったようだ。
「普段は自分で作ってるけど」
「え!? 料理作れるの!」
紬麦からすれば俺が料理し始めたのは知らないので驚くのも無理はない。
「あんまり凝ったものは作らないけどな」
流石に手間暇をかけまくるような料理はしないが、簡単な家庭料理などはレシピを見れば問題なく作れる。
「いやいや、凄いよ!」
大したことではないが褒められて少し嬉しくなる。照れ隠しで紬麦から目線を外した。
「晩御飯、穂積にお願いしていい?」
「いいけど」
「やった! 初手料理……? いや、昔一緒に作ったかな」
「あー、確か一緒にカレーか何か作ったな」
確かお泊り会したときに一緒に作った記憶がある。そのときは母さん同伴で常にアドバイスを貰いながらだったが。
「そう! カレーだ! 懐かしいね」
「懐かしいな」
お互いに思い出に浸る。数年前のことだが欠けている記憶を少しずつ蘇らせていく。
「せっかくだし、今日はカレーにするか」
話題にも上がったし、お泊り会をしたときに作ったものなのでもう一度作っても過去の記憶と一緒に楽しめるだろうと提案した。
「めっちゃいい!!!」
紬麦の方もそれに乗っているようで悩むはずだった献立が簡単に決定した。
「あー」
嫌な予感がして声が漏れる。
「どうかした?」
「ルーが無いかも」
今、家にある食材を考えたときにどうしてもカレーのルーだけを切らしている気がした。せっかく紬麦が乗り気なのに、俺が考えなしに言ってしまい罪悪感が生じる。
「じゃあさ、買いに行こうよ!」
「買いに行くって今から? 外雨だけど」
カーテンを捲って外を確認しても雨脚は弱まっていないよだった。
「うん! コンビニとかでさ。それで晩御飯の後に食べる物とかも一緒に買おうよ! 私が全部払うし」
「うーん」
確かに買いに行けば紬麦の期待に添えてカレーを作れる。それにこの後の夜中に食べるお菓子まで買えるというお得な提案でしかない。
しかし、大きな問題が一つあった。
「あ、でも無理なら傘借りて私一人で行くから大丈夫だよ」
「行くのは良いんだけど……紬麦、今下着履いてないじゃん」
「あ///」
どうやら今まで忘れてたいたらしく、慌てて手を身体の前に持ってきて隠した。
「……エッチ」
さっきまで普通だったのに、急に恥ずかしくされるとこっちも意識して照れてしまう。
幼馴染に申し訳ないことをした気がするが、外で目線から守るためだ。許してもらいたい。
「じゃあ、今から乾かしてくる。ドライヤーで下着乾かすから一緒に行けるね」
意外にもそれ以上の追及が来ることはなく、紬麦はそのままの様子で話を進めていた。
「あぁ、それなら行けるな」
紬麦が下着を付ければ目の前の問題はなくなる。
「じゃあ、乾かして着替えて来るから穂積外出る準備しててね」
慌てて飛び出して行く一瞬、紬麦の顔が紅くなっているように見えた。
「分かった」
ただこっちも早鐘を打つ心臓を納めるのに必死でそんなことを気にしている余裕は無かった。
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