梅雨時の休日
紬麦と数年ぶりに再会して初めての週末は暑い雲が空を覆っていた。
「今日は夕方から雨か」
スマホで天気の確認を済ますと同時に今の時刻を確認する。
11時過ぎを指しているのを見て休日特有の贅沢を味わった事を理解した。
「昼飯までには時間あるし何するか」
午前の時間を何もせずに終えるのがもったいなく感じ何かないか考える。
「ノート写すか」
思い出したのは紬麦から見せてもらったノートのことだ。写真を撮りっぱなしでそれ以降は手を付けていない。
書き終えた頃にはちょうどいい時間になっているだろう、そう思いスマホで撮ったノートを見る。
「アイツ……字こんな綺麗に書くのか」
自分の知っている紬麦の字はミミズが動いたかのようなヘンテコな文字だ。それは小学生の頃の話でそれから何年も経っている今では変わってない方がおかしい。
しかし、こんな所まで意識して綺麗に書くという、気の使う作業をあの幼馴染がしていたに面を食らっただけだ。
「意外と早く終わったな」
紬麦のノートが見やすいおかげで作業効率が上がり自分の想定より早く終わった。
これがもし矢沢のノートなら解読を始めるところから始まっていただろう。
「昼飯食ったら、矢沢とゲームでもするか」
誘われたものの雨で流れた話だったがする事もないので午後からは遊ぶ約束でも取り付けるとするか。
◇◆◇◆◇◆
「違う、穂積そこ左!」
「ここか?」
「違う! もっと上! そこの当たり判定が抜けてて──」
「「あー」」
「くー、あと少し早ければ」
矢沢を誘ってゲームを始めて数時間、どこで知ったのか分からないマイナーのゲームの攻略を進めていた。
どちらかの家には行かずマイクとモニターを繋いで遠距離で遊んでいる。
「矢沢、何でこんなマイナーなゲームやり込んでんだ」
さっきから指示の一つ一つがどうにも軽く遊んだだけで身につくようなものではなかった。
「まあ……趣味ってやつさ」
前々から聞いてはいたがいざ目にするとより理解が遠のいているような感覚に襲われる。
ゲームが一段落ついた所で矢沢が唐突な話題を振ってきた。
「なあ穂積。俺らにも青い春来ないかな」
「急にどうした」
「そうは思わないか、穂積!?」
同意を求める奴に女の影があったことを知ってる以上、はいそうですねと賛同することはできなかった。
「そうは言うが矢沢、お前も良く話してる女子居ただろ」
「あー、大和のこと?」
心当たりがあるのか一瞬で想像していた名前が上がる。
「ん? でも最近話してる姿見ないな」
ふと二人のことを思い出そうとすると直近の記憶が出てこなかった。
「そんな関係じゃないぜ、あれは」
「俺から見たら相当仲良さそうだったけど」
「まあ……腐れ縁ってやつ」
そう言えばそんなことを入学してお互いに話すようになったときに言っていた気がする。
「毎日話しに来てたのに、最近見かけないのは喧嘩でもしたのか?」
「違う、違う。最近は緒川さんにゾッコンで今俺には興味無し」
言われてみれば確かに、紬麦の周りには大和がよく居るような気がする。
そのおかげか彼女のフレンドリーな気質で他の女子とも話している覚えがあった。
「そんで今日は一緒に出かけてるらしいぜ」
「へー、って何でそんなこと知ってんだよ」
「さっき大和から『羨ましいかろ』ってメールが来たんだって!」
「あぁ、そう」
そんなメールが送られてくる関係なら想像しているよりも二人の仲がよさそうだ。
「実際、羨ましい!」
そんな相手が居るにも関わらず本心がただ漏れでいる。
「冷静に考えて、何で俺ら男二人寂しくマイナーゲーしてんだ」
「寂しくは同意だが、マイナーなの選んだのは矢沢だろ」
「く……メジャーなゲームを満足できる体質ならこんな寂しい気持ちにはならなかったのに」
もうすでに手遅れな身体になっているらしい。心の中で成仏できるよう祈っておいた。
「俺にはまだその域に辿りつけそうにないな」
「お前もいつか分かるさ」
勘弁していただきたい。
つかの間、矢沢が急にマイクをミュートにしてしばらく離席したらしい。
「うわ、やべぇ穂積。おれ今、家族から晩飯の買い出し頼まれた」
戻って来るなり焦っている様子のだった。
「今から? 外かなりの雨だぞ?」
会話から家での矢沢の立場が伺えた。
「そうなんだよ。ホント悪い。今日はこれで解散で頼む」
「むしろ急に俺から誘ったんだ。気にするな」
申し訳なさそうに言っている矢沢に気を止めないように言っておく。
「次も誘ってくれよ」
「あぁ、そのときはもっとメジャーなゲームで頼む」
「任せとけ。じゃあ月曜また学校で!」
「ああ、学校で」
別れの挨拶が終わり矢沢が通話から抜けた。さっきまで騒がしいかった部屋が沈黙に包まれる。
時刻は17時半ばを指していた。
「もう少ししたら風呂でも沸かしておくか」
しばらくして夜の支度をしてるとインターホンが鳴った。
「誰だろ」
今日は仕事で母親が帰ってくることはないので予期せぬ来訪だ。
外の雨の中で人を待たせるのは居心地が悪く、できる限りの速さで玄関を開けた。
「はい、どちら様でしょうか?」
「穂積、こんな時間にごめんね」
「紬麦……?」
雨に降られたのであろう、びしょ濡れで凍えている幼馴染の姿があった。
◇◆◇◆◇◆
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