感謝をするな、気色悪い

悪本不真面目(アクモトフマジメ)

第1話

 ぐつぐつぐつぐつ。なるほど俺はどうやら茹でられて食べられるらしい。しかし、何か出汁的なものは合った方がいいんじゃねぇのか?まさかお湯で茹でて終わりか?なんとも味気ねぇ料理だな。ま、どうでもいいか。


 俺は運がよかった。トラックに惹かれ享年33歳だったが、すぐに俺は転生した。それも俺の大好きなゲーム「バケモノハンターズ」の世界だった。このゲームにはたくさんのバケモノが生息していて俺たち人間はそいつらを狩る。基本的に人を食ったりしないが、追い込まれた時にはやむを得ず人間を食うこともある。だから俺たちハンターは別にバケモノを危険視しているというよりかは、一種のゲームとして狩りを楽しんでいるっていうのがこのゲームの特徴の一つである。いい武器を作ったら使いたくなるだろ?だけど人間だとマズイ。しかし、バケモノなら何にも問題がないってわけだ。


 「うーん、ただ茹でるだけってのもなー」

大きな木の匙で鍋に何も入れてない湯を飲みながらバケモノはそう言った。


 このように、この世界に住むバケモノ達はしっかり俺たちと同じ言語で喋る。だから殺される時に「やめてくれぇぇぇ!」「い、命だけは助けてくれぇぇぇ!」「なんでそんな酷いことができるんだぁぁぁ!」などと叫んだりする。そこが倫理観として問題視され危険なゲームと言われ、プレイするときに多くの人が罪悪感に耐え切れずコントローラーを置いてしまう。あろうことか、自分たちの情けなさを肯定するかのようにクソゲーと言いやがる。


 俺はこの本当に命を奪っているという生生しいリアルな感じが堪らなく大好きだ。目が百八つあるバケモノや頭が鳥の足で足が鳥の頭なバケモノや今俺を茹でて食べようとしているのは最弱の下級バケモノで、全身青いフサフサの毛で覆われていて体長は2メートル程で、頭頂部には一本の角があり目が一つの単眼で長いネズミのような尻尾を持つ。性格は温厚で本当は人間と仲良くしたい甘い考えを持つバケモノだ。俺もこいつらを騙して家へ招待するといって小屋へ連れていき小屋ごと爆発させ合計で百二十六体を殺したことがある。大合唱の絶叫は興奮したな。その様子を動画で投稿しようとしたが、速攻動画サイトの公式からBAN(削除)された。まったくつまんねぇーよな。


 そんな雑魚に俺はあっさり負けた。森にいた俺は一応ハンターみたいだが、武器も何ももってなく素手ではさすがにたおせずあっさり負けて生け捕りにされた。かなり痩せていて、ここ何週間も食事をしていなくバケモノは切羽詰まっていた様子だった。


 洞窟の中は暗く涼しく少し寒かった。大きな鳥かごの中にいる俺はあの湯の中に少し入りたい気持ちになっていた。もちろん冗談だが。ただ、戦って負けたんだからこれで食われて死んでしまうのはそりゃあ仕方がねぇなと腹は決めていた。生きていくために俺を食らうんだ。俺は今ではただの食べ物にすぎない。だから今俺が夢見ることは、俺から美味しい出汁が出てうま味を出すことだった。出るかなうま味。


 「ただいま!」

どうやらあのバケモノの家族が帰って来たみたいだ。奥さん(角の長さが短い)に、小学低学年くらいの女の子の双子かな(葉っぱのリボンをつけていた)、それと赤ちゃん(性別は分からない)に、じいちゃんとばあちゃん(どっちがどっちかは不明)とアイツを入れての計七体家族のようだ。


 帰って来た六体も痩せこけていた。どうせならこの貧相な体を俺を食う事でぶくぶく動けないくらいまででぶでぶしくしたいと俺は思った。


 俺は自分がどのように食べられるか想像した。きっとそのまま茹でられて徐々に熱によって死んでしまい赤くなった体をあのバケモノ家族は手をちぎり足をちぎり身をとぅるんと吸って食べ、栄養があると嫌がる双子たちに目玉を先がとがった棒でくるんとくりぬき二人に分けるじいちゃんとばあちゃんたち、赤ん坊のために食べやすく、俺の胸の肉をくちゃくちゃに噛み唾液で柔らかくし、それを口移ししてあげる母親、父親はみんながおいしそうにワイワイ食べるのを見て満足そうな顔をする。涙でも流すんじゃないかな。そして、一番の目玉。目玉じゃなく脳ミソをみんなが父親にゆずり、父親が「じゃあ遠慮なく」と言って俺の頭を卵を割るようにこんこんと叩きひびのところに指を入れパカっと開きチューと吸い、何か酒的なものを飲んでグイと流しこんで「くぅー」と言い、それを見て双子たちが食べてみたいといいだし、「いいけどまだお前たちには早いぞ」などと言って父親は俺の割れた頭を娘たちにホイっと投げて双子はまずどっちが先に食べるかで軽くもめた後、「もう、お姉ちゃんから食べなさい」と母親が怒りだして、それで姉からチューっと吸ってそのあと妹に俺の頭を渡して妹もチューと吸う。そして二人は双子節をきかせ同時に「苦くておいしくなぁーい」と言って、父親が「だから言っただろ」といって家族が笑う。


 大体こんな感じだろう。ただ残念なことは俺がこの様子を見て一緒に笑うことができないというところだな。俺は自ら食べられる姿を想像することの滑稽さがおかしく笑った。ネガティブ思考というバカがいるかもしれないが、俺ほどのポジティブ思考はそうそういないってもんだ。


 バケモノの双子が仲良く手をつなぎながら大きな鳥かごに入ってる俺を見る。

「パパ、人間さんを食べるの?」

「細くてお肉とかあんまりなさそうで、おいしくなさそー」

食べ物としての自覚をもう持っていたので、この「おいしくない」という発言に俺のプライドは傷ついた。


 「こらこら、そんなものを言うんじゃないよ」

バケモノの父親は娘の発言に優しく注意した。そして続けてこういった。


「命に感謝するんだ。僕たちは命を今から頂くんだ、命という大切なものを頂くからには感謝をわすれてはいけないよ。そのおかげで私たちは生きていけるんだから」

こいつは何を言ってるんだ!?俺の中に何か毒針が刺さったような痛さを感じた。

そしてその毒は体内でウロウロと徘徊している。


「うん分かった。ありがとう人間さん」

「ありがとう」

「ありがとうのぉ~」

「ありがたや」

「ありがとうござます」

「ありがとう、本当にありがとう」


 家族が一斉に俺に心を込めて「ありがとう」と言ってきやがった。俺はそれで気持ち悪くなった。なんだ、何を言っているんだ?何が感謝だ?サバンナのライオンがいちいちシマウマを食らう時にいちいち感謝をするか。「ありがとう、ありがとう」と言いながら食らっているライオンは百獣の王にふさわしいか?そういうもんだろ命を頂くってのはよ。お前たちは俺を茹で殺すんだろ?なぁ殺すんだよな。命を頂くってのは殺すってことなんだ、それで感謝ってイカれちまっている。


 俺がコンビニバイトをしていた時に昼頃弁当を買いに大勢の人がやって来たがあの時のみんなの目は獣だった。あれは狩りだ。まさか、いちいち自分の金で買った弁当に感謝してんじゃねぇよな。もししているなら俺はあの時弁当をみんなサバンナに帰していた。飯を食らう時は獣でいいんだ。命を頂くってのはそうだろ。殺してんだよ。殺しているというところから逃げんじゃねぇよ。


 「ありがとう」なんざ言って神や仏にいい格好でもしたいのか、感謝しているからこの殺しはチャラでお願いしますか?だから天国や極楽浄土にアイ・キャン・フライさせてくれってか?命をバカにしている。命をなんだと思っているんだ。俺は感謝されながら茹で殺されムシャムシャ手足や首、胸などをしゃぶられるのか?死者を冒涜するみたいに「ありがとう、ありがとう」と言われながら・・・・・・


 向こうが俺を食べ物としてみないなら、俺が捨てて覚悟していた「生きたい」という思いが芽吹き開花させていた。少なくともこんな気持ちの悪い奴らには食われたくなかった。


 俺は冷や汗をダラダラ流し貧血状態でフラフラしていた。だが「生きたい」という思いが何か俺の潜在能力を呼び冷ましてくれるようだ。なにか体の中が日向に当たったようにポカポカしてきた。鳥かごの様子を見ると、父親がいなく何やら俺のそばでトントンと地べたに葉っぱなどをぎこちない切れ味の包丁で母親が切っていた。


「あれ、お父さんは?」

「お父さんは、火が弱くなりそうだから薪を取りに森へ行ったわ」

「エーンエーン」

「ちょっと、赤ちゃん泣いているよミルクの時間じゃないかね」

「あら、そうだったわ」

そう言い母親は赤ちゃんのいる奥の方へといったぎこちない切れ味の包丁を置いて。俺は鳥かごの隙間から腕の細さは前世からコンプレックスだったが、それが今は役に立つ、双子の片割れも赤ちゃんの方へと視線をやっている。腕を伸ばす、伸ばす。俺は人差し指と中指の間にはさみ、結構重かったが包丁をスルスルと俺の鳥かごの中へと入れ込んだ。このためかと思うほど柄の部分がちょうど隙間を通る厚さだった。


 今の俺にとっては武器はなんでもよかった。だけど包丁は今の気分にしっくりきていた。俺は切れ味の悪い包丁で鳥かごを切り脱出した。


 そして背後から双子の片割れの首を逆手持ちで横から「ありがとう」と言って刺した。偶然にももう片方がそれを見ていて叫んだ。

「うわぁぁぁぁ!!姉ちゃん、姉ちゃん!!!」

涙を流している妹を俺は真っすぐ突撃し単眼の大きな目玉を思いっきり差しくりぬきそれをペロンとヒトなめし、赤ちゃんの方を見ながら「ありがとう」と言った。


「な、何をする!!」

じいちゃんが武器もなしに襲い掛かかってきたが、俺は高校の時習った柔道が急に思い出され、綺麗に足でじいちゃんを払い倒し、馬乗りになりながら何度も胸を刺した。もちろん「ありがとう、ありがとう」といいながら。


 母親とばあちゃんが赤ちゃんを守ろうと盾になっていた。すると背後から目玉をくりぬかれた双子の片割れが起き上がりバケモノらしく襲い掛かって来た。


 俺はそれがあまりにも予想通りだったので簡単に避け、逆に片割れの背後に周り背骨を砕く気持ちで思いっきり背中をゴリっと「ありがとう」と言いながら刺した。


 そして母親とばあちゃんは何やら謝り土下座をしている。

「すみません、食べようとしたこと謝ります。この子、この子だけは・・・」

「頼みますじゃ。もう捕まえませんから・・・」

「エーンエーン」

赤ちゃんが泣いたのを合図にまず、ばあちゃん向けて「ありがとう」と言って単純に心臓一突きして絶命させ、母親には短い角を切り落としその角で心臓を刺し、くるんとえぐり「ありがとう」といって絶命させた。


 赤ちゃんの方を向き、赤ちゃんの顔を至近距離でみた。赤ちゃんはさっきまで泣いていたが何かを悟ったのかもう泣き止んでいた。俺は赤ちゃんに向かって歯茎むき出しの笑顔で「ありがとう」と言って首を絞めた。


 「ただいま~」

俺はバケモノの親父の前で首を切った赤ちゃんの頬を包丁をフォーク代りにして食っていた。プルプルしてコラーゲンたっぷりという味で癖になりそうだった。


その後俺はバケモノの親父を殺したかどうかは覚えてない。ただ「ありがとう」と言いながらアイツの家族を食らっていたことだけは覚えていた。

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感謝をするな、気色悪い 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615

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