第八話 最後のNPCクエスト


「どう言う意味だ」

「そのままの意味だよ。常識に囚われて、好きな人との結婚を諦めてしまうなんてオーレリアさんらしくない」



 二人が好き合って、お互いが結婚したいと思ってるのにこう言うのは嫌だ。オーレリアさんはそんな人じゃないはずだから。

 NPCの依頼は失敗すると報酬がもらえず、依頼者からは2度とクエストが発生しない。オーレリアさんの依頼は結構難しくて、俺は何度も失敗していた。

 しかし…失敗を報告しに行くと、彼女はがっかりする事は一度もなかった。

毎回機転を効かせてくれて、俺に失敗させなかったんだ。


 


 乾燥した薪を集めて欲しいと言う依頼を受け、森で木を拾ったら全部が湿った薪だった。

見た目じゃわからない物だな…と報告しに行ったら

 

『あぁ、すまない。数を間違えていたようだ。修正したからもう一度集めて来てくれるか?乾燥した薪は木の皮がめくれ上がっているんだが、それだけじゃなく割れ目があったりして棘が刺さりやすい。気をつけてくれ』

 

 とアドバイス付きでやり直しをさせてくれた。


  

 黄色い木の実を集めろってクエストで、俺が集めた木の実はクリームイエローの木の実だった。捨ててもカウントが戻らないから、せめてたくさん届けようとクリームイエローの実を山盛りで摘んで行ったら

 

『私が欲しい黄色の木の実はこれなんだ。よくわかったな。詳しく内容を書かなかったのに。とても美味しいパイができるんだよ。出来上がったら分けてやるから、クリームイエローの木とは違ってトゲトゲの葉がついている木の幹が白い方の「黄色い木の実」を集めてきてくれないか?あっちも偶然必要になったんだ』

 

 …こんな風に、半ば無理矢理な理由をつけてまで、俺に最後までクエストが遂行出来るようにしてくれたんだ。

 いただいたクリームイエローの実パイは、それはそれは美味しかったな。



 

 クエストの内容説明は誰が書いても文字数が全部揃っていたし、制限があるのだろう。NPCなら普通はそんな詳しい情報を言えないのが普通だろうし。失敗したらそれまでで終わる仕事を、彼女は何度も諦めないでやらせてくれた。

 

 お前は根性がある、最後まで必ずやり遂げてくれる、いい奴だな、って褒めてくれるんだ。そうさせてくれたのは、彼女のお陰だったのに。



  


 顔色を察するのが得意な俺は、人のがっかりした顔・嫌な感情を現した表情が苦手だ。

 街の人からもらった依頼を失敗し続けてヘコんでいたところにオーレリアさんに会って、他のクエストも失敗しなくなった。自分次第でどうにでも挽回できると知ったんだ。

 

失敗にしなればいいと、気づかせてくれた。


 


「オーレリアさんが他の人の意見が大切で、クリフさんの気持ちはそれ以下の価値だって言うなら仕方ない。お断りされたと伝えます。彼が言った『独身最後の傑作』を作り終わっていたオーレリアさんが、そう言う気持ちだったって」

 

「ふ…ソロ。君は煽るのが上手いな。なかなか危ない橋を渡る。私のような気長な人間でなければ自分の身を危険に晒してしまうよ」



 わずかに微笑んだ赤い目は、鋭いものを消して柔らかく優しい色が灯る。

俺に何度もやり直しさせてくれた時みたいに暖かい色だ。


 


「身に覚えがあるけど仕方ないですよ。何かを守りたいなら自分の身を差し出す位はしないと等価ではないでしょう。特にお世話になった人が相手なら、尚の事そうだと思う」

「ソロがプレイヤーだとしても、切られれば痛いだろう?薪を拾った時の君の手は棘だらけだった。あれは痛そうだったな」

 

「あー…。依頼主さんが偶然湿った薪が必要になって、クエストと別だからと交換してくれた『革の手袋』がなければ、また棘だらけになっていたかも知れませんね?」



 二人で微笑みあって、オーレリアさんは花束と指輪の材料が入った箱を胸に抱く。


「私からも、最後の依頼を受けてくれるか。この材料で指輪を作りたい。その役目は親分にお願いすべきだと思う。

 それから、『家族が増えてもいいか』と伝えたいが一人では怖いんだよ。ソロならきっと上手く話してくれるだろう?手伝ってくれるな?」

 

「オーレリアさんが言うなら仕方ありませんね。お受けしましょう。

 あぁ……親分からも最後の依頼が届きました。の結婚祝いを届けて欲しいって」



 赤い瞳からポロリ、と滴が溢れる。窓から差した陽光が、それに反射してキラキラ輝く。

 オーレリアさんの涙は…とても綺麗だと…俺はそう思った。

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