第九話 クエストの褒章


「…………もう一度話を、聞きます」


 目の前に浮かんだ選択肢、俺は『もう一度説明を聞く』の項目を選択した。


 

 

「何だ、聞こえなかったのか?ちゃんと聞くんだぞ。俺たちの仲人キューピッドをしてくれたソロがこの指輪を受け取るんだ。これが俺、防具屋クリフからの褒賞だ。全属性状態異常の無効化付きだぞ!どこにも売ってないから大切にしてくれよな」

 

「私からもクエストの褒賞を。独身最後の銘入りだよ。傑作ではあるが、切れ味が良すぎてな…皮膚が触れただけで裂けるから、扱いには重々気をつけるように。名は『トゥルーエンド』と言う。大切にしてくれ」

 

「ワシからもあるぞ。鍛冶屋がみんな使っているマントだ。火に強く、雨を防ぐ。

 なに、テントとして使っていた端材だからな、気にする事はない。

 回復魔法も弾いてしまうから扱いには気をつけろ。大切にしてくれると嬉しい」



 NPCの三人からそれぞれクエストの褒章が届き、俺は愕然とする。

 今までのクエスト褒章は何だったんだ??何この……レア度が高すぎる物品たちは。流石におかしいと思う。



「こ、こんなに凄いもの貰えませんよ。全部レア度がSSSって書いてあるじゃないですか…。仲人って言うなら指輪は風習ならいいとして、オーレリアさんの傑作は旦那さんのクリフさんにあげるべきでは?

 鍛冶屋のテントに使ってたって…魔法全部弾くって書いてありますよ、フリントさん…」



 

 フリントさんはサンタさんみたいに白髭を蓄えた、筋肉ムキムキのおじいちゃんだ。鍛冶屋さんとして俺は知ってたけど、オーレリアさんの親御さんだとは知らなかったなぁ…。

 

 彼はいつも顰め面がデフォなことが多いが、今は珍しく満面の笑顔だ。その理由がオーレリアさんとクリフさんのご結婚だと思うと俺も嬉しいけれど、こんな貴重なものをもらうのは流石に気が引ける。


 

「切れ端だと言ったじゃろう。道具屋には出回らないものじゃし、他人には譲渡できん仕様だから返されても困る。

 モンスターからのドロップもないし、ワシは他の奴に作る予定もないぞ」

「ええぇ…」


「仲人の指輪もドロップするものではないし、俺の依頼が完遂したからクエスト自体が出てこなくなるだろうな。」

「私の傑作も独身ではなくなるから二度と同じ剣は作れない。

 写しも作らないし、唯一無二の剣になるだろう」




  

「……アリシア!何とか言ってくれ!どうしたらいいのこれ!」

「ソロ、君に諦めて貰うしかない。NPCが出す褒章は道具屋には売れなかっただろう?だから君の道具袋は小回復ポーションで溢れかえっていた。

 ついでに言うが、あれは通常のポーションと違う効能が様々あるから、取っておいて損はない」

「私のチート本にも書いてありますよ!」

「二人にまで追い討ちされた…うぅ」



 頭を抱えて唸っていると、アリシアがポン、と肩を叩く。


「まぁまぁ。路銀は増えなかったが防具は手に入ったではないか。武器までも」

「分不相応な装備品がね」

「そうでもないですよ?NPCを軽んじなかった人はソロだけですもん。もらって当然かと思いますけど」

 

「……はぁ…」




 

「ソロや、折角じゃし装備して見せてくれんか?人様が着るのをまだ見ていないからのう」

「私も見たい。剣の抜き方くらいは教えよう」

「指輪は好きな指につけていいんだぞ。つける指で付与効果が変化する。戦闘の時は付け替えてやればいい。嵌めれば指に合わせてサイズが変わるからな」



「うぅ、うう。」


 キラキラの貴重な装備達を手に取り、頭痛がしてくる。怖い。何でこんな事になったんだ。…レベル一ですらなくて、戦闘をした事のない冒険者がレア装備を身につける資格なんかあるのだろうか。



 

 期待のこもった眼差しに耐えきれず、取り敢えず指輪を手に取る。アクセサリーなんかつけたことないし、どこにつければいいのか分からない。剣を使うなら影響のなさそうな左の小指にしておこう。

 鍛冶屋のフリントさんによって作られた指輪は薄く叩かれて、幅もそこそこある物だ。嵌めてみると妙にしっくりくる感じで、ブカブカだったサイズがシュルシュルと縮まり、指に沿うサイズに変わった。


 

「剣って…どうしたらいいんだ?」

「マントを先に羽織れば、セットでソードホルダーが出てくる。鞘をそこにくくりつければいいよ」

 

「私がマントをかけよう。やり方を知らぬだろうしな」

「お願いします…」



  

 アリシアがマントを受け取り、背中側からばさっと広げて俺の肩にかける。

 真っ黒な布は不思議な光沢を持って、革のような質感だ。膝までの長さで大きなフードがついてて真っ黒だな。


 ウキウキしながらアリシアが目の前にやって来て、俺の右手側だけ捲り上げ、右肩の上にピンでマント全体を留める。

 このピンは、確かフィブラって言ったかな…バイキングブローチとも呼ばれる留め具を刺し、マントがしっかり固定された。



 

「右だけ捲り上げるのは、剣を抜くのに邪魔になるからだ。街で服装を隠したい時は戻せばいいだろう」

「マントなんか身につけたことないから所作が良くわからない…。ソードホルダーってのはこれかな?」

 

 自分の腰の左側にゴツい革の頑丈そうなケースが現れた。これも黒だ。

 ベルトも元の薄い革仕様と変わった気がする…シャツを中に入れ直してベルトをきちんと締めた。


 

「ソードホルダーの形状は、大体どれも同じ形だ。要するに剣を腰にく為のものだからな。

 留め具がここについているから、こう外して…剣を差しこむ。外れない付け方を教えよう」

 

「よろしくお願いします、アリシア先生」


 アリシアが俺のマントの左側も捲り上げ、膝を落としてベルトの金具に触れる。ズボンのベルトにくっつけた、更にゴツいベルトって感じだ。

 以前、携帯電話用のをホルダーをリアルで見たが…それに似ている。



 

「剣は…ヴァイキングソードか。ポンメルの材質は何だろう?これは見たことがない。何と軽い剣なのか…」


 

 アリシアさんに剣を渡したらそれを両手で抱えて、目が輝き出した。オーレリアさんが立ち上がり、アリシアさんの横にしゃがむ。二人は見つめあって、ニヤリと笑んだ。


「アリシア殿、剣はお好きですか」

「えぇ、大変好きです。この剣がいかに素晴らしいか…見ただけで分かる程には」

「おぉ、本当ですか!?」



 

 勇ましい系の女性二人はしゃがんだまま剣を間に挟み、はしゃぎ出した。

 リアルでも見たことあるな、こう言うの。常軌を逸した『好き』ってのは周りを見えなくするものだから。仕方ない、様子見だ。


 クリフとフリントさんは脇で俺のマントを突きながら熱く語ってるし…呆然としているのは俺とサラだけだな…。

 

 二人で目線を合わせて苦笑いを交わした。



 

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