第四話 ポーションの使い途
重たい瞼を押し上げると、視界が揺れる。ひどい頭痛と眩暈が訪れてもう一度目を瞑りなおした。
「痺れ薬の解毒薬は飲んでいる。じきに動けるだろう。まだ、目眩がするか?」
「はい…って誰ですか?俺、倒れたのか…?」
「あぁ、無法者がいてな…。災難だったが、痺れ矢は死に至ることはない。安心してくれ」
「マジか…ありがとうございます」
穏やかで優しい、少し低めの声が聞こえる。俺が気を失う前に、背中側で喋ってた人だろう。声の感じからして女性だと思う。柔らかくてよく通る優しい音の響きだ。
「目を開いて見せてくれるか。多少医学の齧りがある」
「はい、すみませんがお願いします」
クラクラするのを抑えつつ、目を開く。視界いっぱいに広がるのは鮮やかな金色…真ん中に青い色が二つ。
ぼんやりしていて全容が見えないが、さっき話してた人が俺の顔を覗き込んでいるようだ。
「眩暈がするのは眼振があるからだな。一過性のストレスによるものだ。いいか、この光を集中して見てくれ」
目の前に差し出された黒くて細い何かの先に白い光が灯る。それがすう、とだんだん遠ざかり、近づく。何度か繰り返すそれが段々とクリアに見えてきた。
人差し指を立てた手が俺の視線を誘導していた。
黒い革手袋は使い込まれてしなやかに持ち主の手を包み、細い指の先に光を灯しているようだ。
魔法なのかなこれ?じっと見ていると目玉がじわじわ暖かい。もしかして治癒魔法的な物だろうか?
金色は髪の毛、青い色は俺をじっと見つめる瞳の色だった。突然現れた美人さんにドギマギしてしまう。
「私の顔が見えるか?」
「見えます…金髪碧眼美女さんが」
「ぷっ、何だそれは。目覚めていきなりナンパかい?なかなかの御仁のようだ」
サラサラと髪の毛が顔に落ちて、背中を抱え起こされる。アレ、これってとんでもない棚ぼた状態なのでは?
女子が密着しています、はい。
今朝行った神社には、必ずお礼参りをしなければならない…俺はそう思った。
「あっ!?目が覚めましたか!?」
「あぁ、サラ嬢。小回復ポーションはありますか?体力が減少しているようだから飲ませたほうがいいだろう」
キィ、と部屋の扉が開いてさっき泣いてた受付嬢さんが慌ててかけてくる。
周囲をようやく見渡した俺は、ベッド複数が並んだ室内…病室みたいな場所に寝かされていたと気づく。
大の大人の男は結構重たかっただろうに、この二人で運べたのかな…?
「小ポーションは受付カウンターに置いてあるのですが、今は大混乱で取りに行くのは難しいかもデス。ギルド長から言われて受付窓口を完全に閉じてしまいましたから」
「あ、俺さっきまでNPCの依頼やって、ポーションなら山程持ってます」
「そうか、ではそちらを使おう。」
「お手数かけますー」
起きあがろうとすると、金髪美女に抑えられて俺の小さな布袋を持ってきてくれる。初心者装備についてた帆布のショルダーバッグだ。
「取り出せるか?」
「大丈夫…ポーションしかないから」
「……君はゲームを始めたばかりなのになぜこんなにポーションを?」
「わ、すごい数ですね?」
女の子二人に囲まれながら、バッグの中のガラス瓶を無造作に掴んで取り出す。ものすごい数だから呆れられてしまった。
「NPCさんの依頼しかしてなくてですね。俺は冒険向きのスキルもらえなかったからそうなりました」
「ふむ…我々の出す依頼をこなすプレイヤーがいるとは驚いたな」
「ほんとですねぇ。さっきは庇ってくださいましたし。」
そう言う二人の頭の上にはNPCという表記がついてる。やっぱこのゲーム、変だよ。俺が知ってるNPCの行動じゃない。個人を助けて回復してくれるNPCが居る筈もない。何が起きているのやら。
「受付のお姉さんはサラさん、旅人のお姉さんはアリシアさん?でいいんですよね?」
「はい!」
「そうだ。君は?」
「俺は
「受付の時にも聞きましたが、本当にいいんですか?それ」
「ゲーム内ではまぁまぁの意味合いだと思うが」
「覚えやすいし、俺は特別業務…仕事でゲームやってるんですよ。長くやるかはわかんないのでいいんです。」
ふーん?と複雑そうな顔色を浮かべた二人に苦笑いを返し、緑色の若干ハーブ臭い液体…小回復ポーションの蓋を開ける。
「…これ、美味しいです?」
「美味とは言えない味だ。今回は飲むのではなく違う使い方をすれば良い。冒険者は知らない……秘密の使い方だ」
「何ですと?そんなのあるんですか?」
「試してみればわかりますよ!ポーションは飲まなきゃならないってわけじゃないです。毒消しとか魔力、霊力回復に小、中、大の区分もありますが、飲んで効くものがそれだけの効能なわけないじゃないですか」
「た、たしかに?でも、みんなそれを知らないんですね」
「そうだな、プレイヤーたちはマニュアル通りにしか受け取らない。まるでNPCのように考えもせず、説明されたまま使用するのだから」
マニュアル通りの…NPCか。
不敵に笑うNPCの二人は、とてもじゃないがNPCとは思えない。
呆然としながら、俺はその二人を眺めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます