第五話 希少スキル


「今回のように痺れを治すには状態無効化の魔法、希少種の薬草を使う手段しか表立っては存在しない。私が君に飲ませたのは痺れ消しの薬草を聖水に浸した液体だが、市場には出回っていないな」

 

「え …そんな物凄い秘密を教えていいんですか?情報売ったらいいお金になるのでは?」

 

「NPCは路銀など儲けたところで何にもならない。私が持っているこれは、痺れの種類によって効き目が変わる。効果が薄い場合はポーションを目薬のように使えばいいんだ。あれは使い勝手が大変良い」

「へー、目薬か…ポーションって万能役になり得るんですね」


 

 アリシアが爪楊枝を取り出して、個包装されたたビニールから封を開け、手渡してくれる。…ゲーム内にあるのか爪楊枝が。しかも個包装の物が。


 


「ポーションに浸して、目に一滴ずつ垂らしてみてくれ。」

「やってみます」


 

 言われた通りに小回復ポーションの液体に楊枝を浸し、雫を纏わせて両目に垂らす。おお、結構沁みる…!


「どうだ?」

「おっ?おっ、おっ!手も動くし目眩がなくなりました!ありがとうございます、アリシアさん」



 ふ、と微笑んだアリシアさんはどう見ても女性なのにイケメンの雰囲気を醸し出している。腰に差した細長い剣、体にまとった白銀の鎧がそう見せているのかも知れないが。

 何より口調もカッコイイし所作が綺麗なんだ。良い人だし。



 

「ソロさんは変わってますね…NPCは無視する人が普通なんですけど。こんな風にプレイヤーさんが会話してくださるのも初めてです」

 

「NPCさんだからって無碍にするのは気が引けますよ。と言うか、NPCさんって中身いないはずなのに、何でこんな会話が流暢なんですか」


「……それは、私達には言えない事だ」

 

「ふむ…NPCなりに何かしらの縛りがある、現状何かしらが起きてるってことですか?」


 

 こくり、と頷いたアリシアさんは困ったような顔で笑った。サラさんは苦しげな顔してる。

 二人とも、嘘をついている人の顔じゃない。市役所でも散々見てきたけど、俺もその程度の判別は可能だ。

 NPCにも何かバグが起きてるのだろうか?そのあたりは俺には判別がつかない。


 

 

「もしかしたら、ソロ殿がこの事象の由来を突き止めるかもしれないな。せっかくの縁だ、お互い気楽に話したい。呼び捨てでもいいだろうか?」

「あっ、私も私も!私は敬語が抜けませんけど、カジュアルに話して下さい!」

 

「うん、もちろん呼び捨てでいいよ。そうしてくれると俺も気楽だな。どうぞよろしく」

「はい!」

「あぁ」


 改めて二人と握手を交わし、微笑み合う。プレイヤーよりいい人達なんだが。中身がないと言われても、とてもじゃないが信じられない。




 

「して、ソロはスキルに何を持った?職業欄は空欄と聞いたが」

「あ、そうそう。ハズレスキルだから、職業欄が空欄のままってルールなんだよね?スキルは『戸籍情報閲覧』ってやつだな」


「初めて聞くスキルだな。希少ユニークスキルではないか?」

 

「そうだと思います。そもそもプレイヤーさんたちは勘違いしています。

 ゲームの中で役に立つスキルは誰にでも手に入る物です。それぞれ向き、不向きの次元でスキルが配備されるんですから。

 剣を持てば剣スキル、杖を持てば魔法スキルが得られます。修行次第で何でも出来るようになるんですよ」

 

「えっ、そうなの?」


 

「はい。初期スキルはご本人の属性によってランダムに配布され、職業欄が固定されて…皆さんその道を何の疑問もなく進みますけど。自由度がかなり高いゲームですしどうとでもなります。」

 

「サラの言う通りさ。ポーションの使い方一つとってもこのように出来ているのだから。普通のスキルを与えられた者たちこそハズレと言えるだろう。ソロのように希少ユニークスキルを持つ者の方が貴重なのだ」


「……ええぇ…何それ…」



 

 二人のふふん、と言う顔に微妙な気持ちになる。ゲームって、そういう物なのだろうか?俺が知ってる常識とはだいぶ違う。

 だがしかし、そうなると一人でも冒険ができるし仕事もきちんとできそうだ。希少ユニークスキルをどう使うかわからないままだが。



 

「職業欄はそのうちに発現するだろう。君がどう行動し、どうスキルを身につけ、何を成すかで変わる。プレイヤー同士で表立って表示しないのはその為だ。

 希少スキル持ちは様々な意味合いで金になるからな。

 例としては今回行方不明になっている『チケット屋』がそうだ」


  

「あ、それ聞きたかったんだ。チケット屋って何?そもそも隣町に行くのにモンスターが強すぎるって、どういう事?バグとか言ってたけど」


「バグと言えばバグなのだろう。だが、それについても我々NPCは話せない。

 現在、初心者の街から旅の始まりの街である〝大都市ノーブ〟に至る道に、かなりの強敵が出没している。今までに見ないモンスターばかりだ」

「はー、なるほどね…」


「チケット屋はそこの道順をパスして街へ辿り着く『ワープチケット』を作り出したプレイヤーでな。彼は最初から短距離の転移魔法が使えるようだった。

 転移魔法はダンジョンやフィールドから街へワープできるのが普通だが、彼は街から街へと移動できた。

 レベルを上げて短距離転移が長距離転移になり、それを紙に移して販売していたようだ」




 

 アリシアの説明をまとめると、次の街に行くためにはモンスターがいる道を通らなければならないが、バグによりそのモンスターたちが強くなりすぎて通過が困難になっている。

 それをワープで回避するために希少ユニークスキルを持った人がチケットを作って販売していた、と。


 すごいなそのスキル。俺のスキルはそんなこと出来るようになるのかは怪しいところだ。



  

「要するに珍しいスキルは使い方次第ってことか」


「そうだな。君のそれについては正直知識がないが、スキルを使わずとも冒険する事は可能だ。剣術なら私が指南できる。魔法も、中回復までなら使えるぞ」

「あ、私も秘蔵の『アイテムチート使用読本』を差し上げますよ!私が書いてる本なので、門外不出でしたが…ソロになら差し上げてもいいです!」



「ぜひにお願いしたいところだけど、俺はさっきも言ったが仕事で来てるからさ。せっかく教えてもらっても役立たせる事ができるかどうか…」



 頬をぽりぽりしながら答えると、サラは目を伏せ、アリシアは凛とした瞳で俺を見つめてくる。



 

「いいや、君は今回の仕事が終わったとしてもまたここに来ることになる。それこそ、全てを解決するまでは。

 ――NPCの依頼をこなしてきたのだろう?それを最後のレベルまでこなし、次の街に行くといい。依頼クエストをこなす最中で、冒険に必要な知識を私が指南しよう」

「何だかよくわからないが…とりあえず冒険できるようにはならないとだしな。…宜しくお願いします」



 ベッドの上から降りてぺこりと腰を折る。二人は笑顔で頷き、穏やかな空気が部屋に満ちた。


 



 

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