六章 一途な光線族

  二十三話 双子同士の出会い

 数時間後の真夜中、颯は勢い良く起き上がった。


「颯……!? どうしたんですか……!?」


「地下に今まで感じたこと無い魔力を感じる……!」


「えっ……?」


「うっ……!」


 颯はベッドから降りたが、倒れてしまった。


「颯……! 無茶しないで下さい……!」


「なにか……嫌な予感がする……! 普通じゃ無い魔力が……!」


 一方その頃、サソリの目の前に一人の真っ黒い服を来ている男が立っていた。


「兄への復讐が出来ずか……どうせ……復讐を成し遂げたとしても兄が自ら命を絶てば天国で家族が揃う……悲しい話だ……」


 数分後、サソリがいる部屋に入ったクマムシが死体となって倒れているサソリの姿を発見した。


「なんだと!! これはどういうことだ!!」


「恐らく……シーラカンスじゃろう」


 そう言いながらその場にシャチが現れた。


「シーラカンス!? ずっと闇属性の最強レジェンドに居座っているやつか!」


「恐らくのう……」



 一週間後、魔法都市サザエの学長室でサソリが手にしていた杖を持つウオノエと颯とムベンガが話をしていた。


「犯人はあのシーラカンスになったそうじゃた……サソリ……まさかシーラカンスに狙われる存在になっていたとは……」


「シーラカンス……それがサソリを殺した犯人なんですか!?」


「シーラカンスはこの世界に生きる暗殺者で守護者とも呼ばれている人だ」


「暗殺者で守護者……?」


「シーラカンスに依頼するにはかなりのお金が……サソリはもしかしたら自ら依頼して私に復讐したあとすぐ死ぬつもりだったのかもしれん」


「え!? それってどう言うことですか……!?」


「サソリは私への復讐が完了すればもうどうでも良かった……分からないが」


「復讐って……ムベンガのお父さん何か悪いことでもしたんですか……!?」


「……私はサソリ側からしたら私は憎い存在かもしれん……私は何も助けてあげられなかった人なんだ……」


「あの……」


「知りたいか颯君……」


 ウオノエは颯にそう聞くと、颯はゆっくり静かに首を縦に振った。


「それは……このサソリが手にしていた杖に関係している……」


「その杖……金魚の絵が……」


「キンギョ……私の母の双子の妹の名……」


「ムベンガそうなのか!?」


「颯君……私の亡き妻のプラティの双子の妹のキンギョは……サソリと恋人関係にあったんだ……」


 ウオノエとサソリが小学四年生の頃、ウオノエとサソリが当時住んでいたコンブ村にある学校のとある教室で転校生を紹介しようとしていた。


「転校生を紹介します。なんとウオノエ君とサソリ君と同じ双子のプラティちゃんとキンギョちゃんです!」


 ウオノエとサソリの担任の女の先生はそう言うと、双子の姉妹が二人教室に入って来た。


「双子の姉妹か……」


 席に座るウオノエはプラティとキンギョを見てそう呟いた。


「双子同士ならサソリと友達になれるのかも……」


 一時間後の休み時間にウオノエは二人でいるプラティとキンギョに話しかけた。


「私はウオノエ。君達は双子の姉妹なんだ」


「そうだよ!」


「えっと……どっちがどっちだったっけ……ごめん……」


「元気な方の私がキンギョで妹で、喋らない方が姉のプラティだよ!」


「喋らない方って私は喋るから……」


「実は私とサソリも双子なんだ」


「えぇ〜! そうなんだ!? 双子双子だね!」


「その……弟は?」


「あぁ……人がいる教室は苦手で……いつも休み時間は人気の無い所にいるんだ」


 ウオノエは教室の出入口を見るとサソリが教室に入って来た。サソリは両手の掌に何かを乗せていた。


「あ……まずい」


「え? なにがまずいの?」


 サソリはプラティとキンギョの前に立つと大きめの虫のクモをプラティとキンギョの前に一匹ずつ投げた。


「ギャーーー!!」


 プラティとキンギョは悲鳴を上げた。


「あぁー! またかサソリ!」


「ふん」


「幼稚園の頃から全く良くならないなサソリ……四年生になっても友達が出来ないのか……」


 プラティとキンギョと出会った日の夕方、サソリとウオノエは家の茶の間で話し始めた。


「サソリ! 双子が転校してきたんだ! 仲良くしようとは思わないのか!」


「驚く方が悪い」


「どうしたら良くなるんだサソリは……」


「私は話すのは苦手だと何回言えばいいんだ」


「苦手どころではないなぁ……」


 次の日の朝、サソリは自身のクラスの教室に入った。


「おはようサソリ!」


 キンギョは笑顔でサソリに挨拶した。


「あぁ……おはよう……」


「体調大丈夫? 平気?」


「お前なんで私に話しかける?」


「だってお姉ちゃんがウオノエと仲良くしてるから〜!」


「昨日クモ渡されて平気だったのか?」


「もう気にしてないよ!」


「じゃあはい」


 サソリは虫のクモをキンギョの右手の掌に乗せた。


「んぎゃーー!!」


「サソリーー!! またか!!」


 ウオノエはそう言いながら鬼の形相でサソリに近付いた。


「いつもごめんキンギョ……!! 私は何回も言ってるのに……!」


「双子なのにサソリは全然ウオノエに似てない……私達と同じく二卵性なのかな……」


「……ねぇサソリ!」


「お前あっち行け! 話しかけるな!」


「私が友達になってあげる!」


「いらん!」


「えぇ〜……」


「お前凄く嫌い。非常に嫌い」


「そんな……」


「駄目だサソリは……」


 半年間キンギョは嫌われながらも懲りずにサソリに話しかけることを毎日続けていった。


「サソリ今日は元気?」


「普通」


「やった! 昨日はあっち行けだったから嬉しい!」


「ならこれあげる」


 サソリはキンギョの右手の掌に虫のクモを乗せた。


「もう慣れた!」


「えぇ〜……」


 二年半後、二組の双子が中校生になり、四人は同じ学校に通っていた。ある日キンギョはサソリに恋愛的感情をぶつけていた。


「付き合うの駄目?」


「断ってもしつこそうだからいじめていつか別れよう……」


 サソリはそう思い、キンギョと右手で握手した。


「別に良い」


「嬉しいよサソリ! よろしくね!」



 その日の下校中、一人でいたサソリは四十代くらいの男に話しかけられた。 


「お前かサソリは……」


「……誰だ?」


「私はキンギョの父親だ」


「キンギョの父親だと?」


「お前キンギョと恋愛関係にあるらしいな」


「今は……そうだったかな」


「お前の噂は娘達が小学生の頃から聞いている。成績は良いが人への嫌がらせは絶えない男だとか」


「あぁそうだ」


「お前に! 娘はやらん!!」


「な……凄いベタな……」


「キンギョは今……辛い時期なんだ……だからお前はキンギョと関わるな!」


「は……? 辛い時期……? そんなの聞いたことないが……別に貰わんしどうでもいい」


「どうでもいいと思ってるなら今すぐ別れろ!」


「だが……命令されて別れるのもお断りだ。私は私のタイミングで別れる」


「とにかくすぐにキンギョと関わるのを止めるんだ! 分かったな!」


「はいはい」



「くそ! サソリめ……!」


 どこかの家の茶の間でイラついてる様子のキンギョの父はそう言った。


「あなた……大きな声を出さないでね……キンギョの体に響くから……」


 その場にいる四十代くらいの女性はそう言った。


「あぁ……済まない……キンギョは不治の病を患っているのに……きっとキンギョが不治の病にかかったのもサソリが原因に違いない……」


 家の部屋ではキンギョが具合悪そうにベッドで眠っていた。



 次の日の学校終わりにサソリはキンギョと二人きりで話し始めた。


「キンギョの親がうるさいんだが……彼氏彼女の関係を止めた方が良いのか?」


「え……」


「早く答えろ」


「サソリは……私のことが嫌い?」


「最近は嫌いではない」


「せっかく……そこまで行けたのに……」


「キンギョ……何か辛いことでもあるのか?」


「本当は……隠したかったけど……私は不治の病に侵されているんだ。高校生になってからやせ我慢してたんだよ……」


「やせ我慢って……いつも元気だろキンギョは……確かに体育の授業は休むなぁとは思っていたが……」


「やっぱり私が体育の授業休む所見てたんだ……」


 キンギョは暗い顔からニヤけ顔に変わった。


「あぁ……たまたま見ていた」


「私のこと気になってたんだね……!」


 サソリとキンギョはキンギョの誘導で恋人繋ぎをした。


「本当は私もうすぐ死ぬからこんな頼みしない方が良いと思うけど……サソリは私が死ぬまで私と恋人になって欲しい……」


「もうすぐ死ぬか……高校生の時もずっとキンギョに絡まれるのかと覚悟していたのだが……」


 サソリがそう言った時、キンギョの目から涙が溢れ始めた。


「それってサソリ……私のこと……」


「泣かれると困るな……」


 サソリがそう言うとキンギョはサソリに抱きついた。


「死にたくないよ……!」


「……お前らしくない」


 キンギョに抱きしめられているサソリは両手を優しくキンギョの背中に回した。


「寒いのか?」


「寒くない……怖い」


「今日ぐらい家に連れて帰ってやる」


「……ありがとう。サソリ温かい」



 次の日の朝、サソリの担任の先生からキンギョは不治の病に侵されて今日から学校に行けなくなるとクラス全員に発表され、その後の休み時間にサソリはキンギョの姉のプラティに話しかけた。


「キンギョは本当に不治の病に侵されているのか」


「うん……最近急に体調が酷くなって……」


「……病院は」


「病院……?」


「キンギョがいる病院を言え」


「……キンギョは家にいます」


「家はどこだ」


「まさか学校終わりに行くのですか……?」


「いや……今行く」


「今ですか……!?」


 プラティはサソリの真剣な表情を見た。


「……分かりました。住所を教えます」


 サソリはプラティの住む家の場所を教えてもらってすぐに学校を出て走ってキンギョの家の前に来た。


「キンギョと話さなければいけない! 扉を開けてくれ!」


 サソリはキンギョの家の前で扉を叩きながらそう叫ぶと、玄関の扉越しにキンギョの父と話していた四十代くらいの女の人の声がした。


「サソリ君……?」


「頼む開けろ!!」


「キンギョは……サソリに会いたがっている……けれど……」


 キンギョの母にサソリは土下座をした。サソリが土下座した瞬間をシルエットで見たキンギョの母は玄関の扉を開けた。


「土下座……!? 噂ではかなり悪い子って聞いたけど……いいわ……入りなさい」


 キンギョの家にお邪魔したサソリはベッドで眠っているキンギョの部屋に入った。サソリはキンギョの顔を覗くように見た。


「キンギョか……」


「サソリ……会いに来てくれて嬉しい……」


 目を開けてそう言うキンギョの声はか細かった。


「なんで……!」


「ごめん……」


「朝……キンギョに会えなくて気付いた……私のキンギョに対する想いが……」


「サソリ……やっと……」


「……なんか今まで悪かった」


「別に……! 気にしてないよ……!」


 サソリは右手で優しく寝ているキンギョの右手を握った。


「昨日キンギョに手を繋がれて私は分かった……何度もクモをキンギョに渡すのは手を繋ぎたかったのだと……」


「サソリ……だんだん素直になっていくね」


「素直……」


「サソリは私のこと好き?」


「違う……私はキンギョのことを愛している……恐らく」


「ふふっ! 好きじゃなくて愛しているなんだー」


「キンギョは私のことを好きだとは言ったが愛しているのか?」


 サソリはキンギョにそう聞くと、キンギョはベッドから勢い良く飛び上がってサソリに抱き着いた。


「本当は愛していたい……サソリと楽しく過ごしたい……」


「寝ていろキンギョ……」


 サソリはキンギョを寝かすようにベッドに戻した。


「ずっと手を繋いでやる」


「ありがとう……」


 キンギョはサソリにお礼を言った後、右手で何かを指差した。


「サソリに渡したい物があるんだ……」


 キンギョが指差した方向には1メートルの長さがある細長い箱があった。


「あの箱はなんだ……?」


「開けてからのお楽しみ……!」


「ここでは駄目か」


「サソリが家に帰ってからお願いね……!」


「……気になるな」


 その後、サソリとキンギョは楽しく会話をしていったが、その日の午後七時頃にキンギョの側に居続けたサソリの前に仕事から帰って来たと思われるキンギョの父が現れた。


「家に帰れ!」


 キンギョの父はサソリを何度も突き飛ばして玄関から外に出した。


「くそっ……!! 全く人の話を聞かないな……!! キンギョ……父に殴られたりしてないか……心配だ……」



 次の日の朝、サソリはどこかの牢屋で目覚めた。


「なんだ……ここは私の部屋ではない……ここはどこだ!?」


 サソリの隣の牢屋に入っている二十代くらいの男はサソリに話しかけた。


「お前……親に捨てられたんだよ」


「は……!?」


「ここはアワビ帝国……おそらく君の親の判断でアワビ帝国に売りに出されたんだ……」


「アワビ帝国……!? 嘘だ!! アワビ帝国は十八歳を超えないと住めないと聞いたことがあるぞ!!」


「それはアワビ帝国以外に生まれた子供のことだ。つまりお前は……そういうことだ」


「嘘だ……!! キンギョに会えなくなるってことなのか……!?」


「パニックになってるな……誰か来て麻酔でも打たれるなありゃあ……」


 サソリは数人の大人にどこかの建物の部屋に連れ出された。


「お前への荷物は故郷から送ってもらっている。さぁ住め!」


 そう言われたサソリは急いだ様子で置かれた荷物を調べ始めた。


「この箱……あった……!! 何が入っているんだ……」


 サソリはキンギョからのプレゼントと思われる箱を見つけて開けると、中に金魚柄の杖があった。


「なぜ……なぜ父と母は私を捨てた……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る