二十二話 帰省の風

「……結構遠くに飛んでもバレるか」


「ムベンガが居場所を教えてくれたんだ! もうムベンガはどこにも連れて行かせない!!」


 颯はムベンガをおんぶしてムベンガに消毒の魔法を込め始めた。


「厶ベンガ! 三十秒後には毒が消えてるから安心してて!」


「やはり……兄の娘を殺す前にお前の息の根を止めねばならんようだな……」


「サソリ! 私は絶対にムベンガを守り通す!!」


「いや……私が二人仲良くあの世に飛ばす」


 サソリは颯に向かって濃い紫色の光線を放ったが、颯はワープ魔法で濃い紫色の光線を横に跳んでよけた。


「再び現れた瞬間を狙う……! ワープで逃げる隙も与えんぞ……!」


 サソリは近くに颯がその場に戻った瞬間に濃い紫色の光線を放ったが、その瞬間に颯は消えた。


「戻る瞬間を狙っても逃げられるか……!」


 サソリがそう思った瞬間に背後に颯が出現して背中に二つの風の魔法で出来た刃を当てられて吹っ飛ばされた。


「風の刃が当たる瞬間に背中に毒の魔法を込められてガードされた……!」


「ワープの魔法はかなり魔力を消費する……いくら賢王の力を持っていても猛毒の光線をよける度にワープすれば私より先に魔力は切れるはず……それを狙う……!」


 サソリは右手から颯に向かって連続で濃い紫色の光線を放ち、颯はそれらをワープ魔法でよけていった。


「ワープでよけるだけじゃ駄目だ! この光線を跳ね返すくらいしないと……!」


 颯はそう思い、サソリが放った濃い紫色の光線に向かって魔法の強風を当てた。


「いくら魔力を上げても無駄だ! 私に溶かせない物は無いのだからな!」


 颯はサソリが放った猛毒の光線を反らすことができずに直撃した。


「うっ……!!」


 颯は苦しむ表情になって膝を地面に付け、サソリは颯に向かって濃い紫色の光線を放った。


「また逃げるしかない……!」


 颯はワープの魔法で姿を消した。それを見てサソリは目を閉じた。


「逃げたら追うだけだ……なるほど……賢王は察知しやすいな」


 サソリは颯がいる付近にワープした。颯はムベンガをおんぶした状態で立ち上がろうとしていた。


「まだ猛毒は消せてないな……」


 サソリは颯に向かって右手から濃い紫色の光線を放った。颯はその光線を風の魔法を当てて軌道を逸らした。


「なにっ!?」


「消毒の魔法を込めた風ならなんとか曲げられた……!」


「やるな……なら……これはどう対処する」


 サソリ足が触れている地面の色が濃い紫色になり、地面の濃い紫色の部分がサソリを中心に広がり始めた。


「これは……!?」


 颯の足元が濃い紫色の地面に変化しそうになると、颯はムベンガをおんぶしながら飛んで5メートル上の空中に浮き始めた。


「空中に浮く魔法も覚えたか……だがそれも魔力の消費が激しそうだな」


「一旦ここはこの場を離れる……!」


 颯は心の中でそう決断し、100メートル先の荒野の空中にワープした。颯は下を見るとただの荒野から濃い紫色の地面に変わった。


「ここにも猛毒の地面……!? 違う……地面を覆う猛毒ごとワープしたのか……!」


 濃い紫色の円の地面の中心にいるサソリは空中にいる颯に向かって、右手から濃い紫色の光線を連続で放った。それを見た颯はサソリが連続で放った猛毒の光線を自身とムベンガに当たらない様に次々に反らしていった。


「サソリは……!?」


 颯は地面を見てそう言った瞬間、真後ろにサソリがワープして来た。


「後ろ……!! 光線が来る! ワープだ!」


 颯がそう思った瞬間にサソリは颯に濃い紫色の光線を放った。すると颯はワープ魔法で消える前にその光線に当たった。


「ワープが遅れた……!?」


「やはり空中に浮きながらのワープはいくら反応が早くても遅れる……ということか」


 サソリは地面に戻りそう思った時、空中にいる颯は猛毒の魔法で苦しみの表情を浮かべながらおんぶしているムベンガと共に落下し始めた。


「……とにかくワープだ……!!」


 苦しみの表情を浮かべている颯は100メートル先の地面にワープした。颯のワープ先の足下は猛毒で広がっていた。


「地面にワープしても猛毒……! でも空中だと素早く連続でワープ出来ない……! どうする……!」


 颯は考え事をしている間に目の前にサソリが現れ、サソリが颯に向かって連続で濃い紫色の光線を放った。


「うっ……!」


 颯はサソリが放った濃い紫色の光線を連続で受けていった。


「とにかく全身に消毒の魔法を……そうだ! 地面全体に消毒の魔法をかければ!」


 颯は地面全体に消毒の魔法を流し始めたが、数秒後に100メートル上空にワープした。


「地面に消毒の魔法を流しながら戦いずらいから止めよう……!」


「消毒の魔法を地面に流すのを止めたか……いや……ワープした場所が高い……別の狙いがあるのか……」


「ならこれだ!」


 颯はサソリに向かって風を送って範囲がかなり広い風圧を落とした。


「強い風の魔力……!! ワープでよけるか……いや私がワープした先に飛ばすかもしれん……! 掻き消す!!」


 サソリは周りに猛毒の地面を作り、颯が放った範囲が広い風に向かって地面から巨木波の太さの濃い紫色の光線を放った。その瞬間、サソリの前方に颯がワープした。


「飛んで来る……!」


 サソリは両手から颯に向かって濃い紫色の光線を放ち、走り始めた颯はそれを全身に消毒の魔法を込めて受けながら、サソリに向かっていった。


「上から強い風圧……前から消毒の拳……二方向で攻撃すれば良いと思ったのか……!!」


 サソリが上に向かって放っている光線が颯が放った風圧に押されていた。


「ぐっ……!!」


 サソリは物凄い強さの風圧に押し潰されて仰向け倒れて地面に激突した。


「行くぞ! 消毒かかと落とし!!」


 颯は消毒の魔法が込められた右足でサソリの腹にかかと落としをした。その時、地面を覆っていた濃い紫色の毒の魔法が消えた。それと同時に颯は地面に膝を付けた。颯は自身の体全体に消毒の魔法を30秒かけ続け、体に込められた猛毒の魔法を消した。


「サソリ……倒れたままだ……倒したのか……?」


 サソリは素速く立ち上がって颯に向かって濃い紫色の光線を放ったが、颯はサソリが放った濃い紫色の光線を消毒の魔法を込めた風で反らした。


「この程度では私は倒せんな……!!」


 サソリは付近の地面に猛毒の魔法を流し始めた。


「危ない……!!」


 颯はワープ魔法で光線をかわして地面から100メートル上の上空にワープした。


「もう一度強い風圧だ!!」


 颯はサソリに向かって再び範囲が広く、強い風圧の風を落とした。


「もうそれは効かんぞ……!」


 サソリは地面から大木程の太さの濃い紫色の光線を放った。その光線は颯が放った風圧をものともせずに颯に迫っていった。


「さっきよりも大きいのに速くて強い……!!」


 颯はワープ魔法で80メートル横の上空に移動した。すると颯の目の前にサソリがワープで現れた。


「サソリ……!! こんなに高いのに……!!」


「私はワープ魔法に慣れているからな」


 サソリは右手の掌から颯に向かって濃い紫色の光線を放った。


「うっ……!!」


 颯はサソリが放った光線を消毒の魔法を込めた胸当たりで受けた。


「やはり空中では動きがにぶるな!」


 サソリは颯の50メートル上空にワープし、右手から颯に向かって濃い紫色の光線を放った。


「どうする……! 大きい風圧じゃ駄目ならこれでどうだ!!」


 颯は自身の付近に超高速で回転する消毒の魔法を込めた竜巻を出現させ、サソリが放った濃い紫色の光線はその竜巻に巻き込まれた。それを見てサソリは地面の上にワープした。


「次は消毒の竜巻か……」


「よし……これで……」


 30秒間颯は空中で自身に消毒の魔法をかけ続けて安堵の表情を浮かべた瞬間、空中に浮いている颯は少しずつ下がり始めた。


「あれ……下がってる……!?」


 颯はスピードを増しながら落下していった。


「……だめだ!! ワープ魔法が出来ない!!」


「あいつの魔力がわずかしか感じない……ようやく底が来たか……背負っている兄の娘と共にあの世に行くがいい」


「頼む……!! みんな!!」


 颯は心の中でそう叫んだ時、颯の地面への落下スピードがだんだんと遅くなり出した。


「これは……!? 多くの魔力が……一体何が起こっている……!?」


 颯に向かっていくつもの颯の魔力を宿す風が吹いていた。


「私の一番最初に決めた不自然魔法……“帰省„が発動してくれたんだ!」


 颯が不自然魔法を一番最初に決めた時期は魔法学校の上級の生徒の頃で、その内容は自身の魔力が無くなってピンチになった時に放っていた風の魔法が帰ってくるものだった。


「みんな帰って来てくれてありがとう!」


 颯は帰ってきた自身が過去に放ってきた風の魔法にお礼を言うと、帰ってきた風の魔法を受けて魔力が回復し始めた。


「何が起きている……何故あいつの魔力が回復したんだ……!」


「よし! 私を押してくれ!」


 颯はムベンガを風の魔法で背中に押し付けながら帰省して来た風に押されて左足を突き出し、サソリに向かって落下し始めた。


「いちいち疑問に思っている場合ではないな……!」


 サソリは颯の左足による蹴りをよける為にワープ魔法で100メートル先の場所にワープした。しかし颯はサソリを追って帰省してきた風と共にサソリの前にワープした。


「後ろの追い風ごと……!!」


 サソリは腹部に颯の左足が直撃した。


「ぐっっ……!!」


 サソリは颯に蹴られた衝撃でサソリは三十メートル程地面を転がった。


「今の蹴り……ワープで移動しても後ろから来る風の魔法も一緒にワープするから威力が全く落ちなかった……! とてつもないな……!」


 颯は100メートル上空にワープした。


「今のあと一回しかできない……! 次で決める!」


「こうなれば……私の……最大の光線で颯を吹き飛ばす……!!」


 颯とサソリは胸の内に最後の攻撃をする覚悟を決めた。


「行くぞサソリ!!」


 颯は右足だけを下に突き出してサソリに向かって勢い良く降下し始めた。


「……行くぞ」


 そう呟いたサソリは目の前の足場から巨樹並の太さで形が生き物のサソリの尻尾の形をした濃い紫色の光線を颯に向かって放った。


「一番強い光線……!! だけどワープの可能性もあるから勢いそのまま逃げない方が良い……!!」


 勢い良く降下する颯の右足と上昇するサソリが放った巨樹並でサソリの尻尾の形をした濃い紫色の光線がぶつかり合って激しい衝突音が鳴り響いた。


「うっ……!!」


「耐えるな……! 苦しみ悶え吹き飛べ……!!」


「き……気合だ……!!」


 颯は巨樹並の太さの光線に押されずに前に進み始めた。


「弾き飛ばす!!」


 サソリは巨樹並の光線の勢いを増して颯を押していった。


「押される……!! ここで絶対に負けるわけにはいかないんだ……!!」


「必ず押し勝つ……!!」


 サソリはそう思った時、颯が降下する力が急激に強まった。


「一気に魔力が……強くなった……!?」


「これが日々の努力の結晶だ! サソリ!!」


 この時、颯が最初に受けた帰省して来た風は魔法都市サザエがある方向から来ていた。最初に颯が帰省してきた風を受けたのはアワビ帝国から来た風のみだった。


「行けーー!!」


 颯は巨樹並の太さの濃い紫色の光線を一直線に突き破った。サソリは物凄い速さで迫る颯の右足で腹部を蹴られて数十メートル跳ばされた。サソリは気を失ったかの様にうつ伏せに倒れた。


「やったのか……」


 颯もサソリと同じくうつ伏せに倒れた。ムベンガをおんぶした状態のまま。



 数時間が経過した頃、どこかのベッドで眠っていたムベンガは目を覚ました。


「……颯は?」


 ムベンガは颯を探す様に回りを見始めた。ムベンガがいる部屋には爽・潮・凪・サヨリがいた。


「おっ! ムベンガちゃんが目覚めた〜!」


「……颯は?」


「颯なら隣で寝ているぞ」


「良かった……取りあえずムベンガちゃんが目覚めて……」


 サヨリがそう言った時、ムベンガは急いだ様子でベッドから降りて部屋の外に出た。


「おい……! 休んでいた方が……いや……切羽詰まった顔を見たら引き止めない方が良いか……」


 ムベンガは颯が寝ている部屋に入った。ムベンガは優しく颯の右手を両手で握った。


「いました……良かった……颯……」


 一時間後、瞑っていた颯の両目が開き、颯の視界に天井が写った。


「ここは……?」


「颯っ……!! 記憶はありますか……!?」


「あぁ! もちろんあるぞ!」


「良かった……」


「それよりムベンガは大丈夫なのか? 元気か?」


「私は……颯が近くにいるので元気です……あの……颯……助けてくれてありがとうございます……!」


「礼はいらない! ヒーローだからな!」


「うっ……この……颯の小さい頃と全く変わらない優しさ……たまらないもの……」


「そうだ……サソリは……!」


「サソリは……この建物の地下にいます」


「地下!? ってそもそもここはどこなんだ!?」


「ここはアワビ帝国のクマムシさんが経営するトレーニングジムです」


「あっ……! お世話になった特訓場か!」


「サソリは魔法を封じる縄に縛られた状態です。サソリはクマムシさんとシャチさんが見張っていますので落ち着いてここにいて大丈夫です」


「そうか……魔法を封じてるなら安心か……私が倒れた後にクマムシさんが駆けつけてくれたんだな……」


 颯はそう言うと安堵の表情になって再び眠りについた。


「また眠って……颯が起きるまでずっと手を握っています……おやすみなさい」

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