二十一話 健闘

「魔力の量もパワーもいつの間にか上級者レベルに上がっている……だがクマムシやシャチと比べれば大したことはない。油断しなければ倒せる敵だ」


 サソリは颯を見てそう思うと、持っている杖に魔力を込めて杖を消した。


「杖が消えた……!?」


「これで私は本気を出すことが出来る。お前は賢王の力を使っても私に勝てないということを教えてやる」


 サソリはそう言うと、全身に強い魔力を込め始めた。


「杖を使わない方が本気を出せるのか……!? いや……気にしてる場合じゃない! 集中だ!」


 颯がそう意気込んだ瞬間、部屋の扉が勢い良く開いた。


「サソリ!! また来たぜ!!」


 そう言って部屋に入ったその者はクマムシだった。共にシャチも部屋に入って来た。


「しまった……! 颯に注目してクマムシとシャチの魔力に気が付かなかった……!」


「今度こそ勝負だサソリーー!!」



 数十分程前、ケガニは倒れている潮の体に毒の魔法で作った矢を命中させた。


「さぁ、これで本物の弓矢を使ってトドメだ。自然魔法だけだと生き物は死ににくいからね」


 ケガニは本物の矢を引き絞って目線をサヨリに向けた。


「まずは兵士にかけられた空腹魔法を消すために……お前から死ね!」


 ケガニはサヨリに向かって本物の矢を一本放った。しかし大人の拳の大きさのダイヤモンドの塊が飛んで来てケガニが放った本物の矢を弾いた。


「なにー!? 僕の矢が!! 誰だ!? 強い魔力を感じるぞ!!」


 ケガニはそう言って大広間の入口を見ると、そこにはシャチとクマムシガいた。


「げっ!! あの二人はヤバいヤバい! 退散だ!!」


 ケガニはそう言ってその場から離れる様に走り始めた。


「……クマムシ、敵が逃げるぞ」


「おぅ!!」


 クマムシは火の魔法で自身の右拳から右拳の形をした物を作ってそれをケガニに向かって飛ばした。


「うわー!!」


 ケガニはクマムシが放った火の拳が当った瞬間に爆発し、ケガニは吹っ飛んで倒れた。


「クマムシ、四つ子傭兵はわしらと同じヒトデの民じゃ。ケガニは今の一撃で終わったか分からん。お前は先に行っとれ」



 数分後、凪とライノはタラバガニによって気絶させられていた。


「よし!! 二人を倒した所で上に行ってみよう!!」


 タラバガニはそう言って三階へ繋がる階段を登ろうとした。


「おい!! お前タラバガニだな!!」


 タラバガニは自身の名を呼ぶ声を聞いて振り返ると、遠い距離の場所からそう言うクマムシの声が響いた。


「クマムシ……!! 一番のバトル大会荒しがまさか来ていたとはな……!!」


「あぁ来たぜ!!」


「俺は……あんたに憧れて鍛えまくったんだ……!! あんたと戦える日をどれだけ待っていたことか……!!」


「それは嬉しいなぁ!」


 タラバガニは毒の魔法でハンマーを作って右手で持った。


「よし来い!!」


 クマムシはタラバガニにそう呼びかけると、タラバガニはクマムシに向かって走り出し、クマムシに近付いたタラバガニは毒のハンマーをクマムシに向かって振るった。


「パーンチ!!」


 クマムシは右拳に火の魔力を込めて、右拳でタラバガニが持つハンマーを破壊しながらタラバガニの顔をパンチした。


「……さすがだ……!!」


 吹っ飛ばされて壁に激突したタラバガニは倒れた。


「まだまだだな!!」



 一方、爽はハナサキガニのハサミ部分が胸部分にぶつけられて後ろに飛んだ。爽はメイドに触れない様に地面に手を触れて逆立ちし、すぐさまその場の地面に足をついて立った。


「はい隙だらけ〜」


 爽はハナサキガニの武器に腹を挟まれて壁に激突された。


「くそ……!! メイドちゃんを踏まないで逃げるのが精一杯だ……!!」


「このまま壁にめり込んでやろうか。なぁ」


 ハナサキガニは両手に持つ武器から爽にかける圧力を強くしていった。


「危ねぇ……! 何とかメイドちゃんを踏まずに済んだが……ハサミを壊さないと潰される……!」


 爽はそう思った時、倒れているメイドの泣き顔が視界に入った。


「仮に脱出出来たとしても足の踏み場がある俺と足の踏み場も無いお前には勝ち目は無いんだよ」


「……おんりゃあぁぁぁ!!」


 爽は叫びながら自身の体を挟んでいたハサミ部分を精一杯の力を両手で込めてハサミ部分を開き、前に大きく跳んだ。


「本気の俺が作ったハサミから抜け出しやがった……! だが……その程度のジャンプじゃメイド踏むぞ!」


 爽の右足は倒れているメイドが触れていない床に着き、右手に毒の魔力をチャージし始めた。


「悲鳴が聞こえなかった……まさか踏まなかった?」


 ハナサキガニは武器のハサミ部分を爽に向けて伸ばしたが、爽は横に跳んで左足を倒れているメイドが触れていない床に着いた。


「まさかメイドを常にメイドを踏まない様に移動する気か……!」


 ハナサキガニは連続で爽に向けて武器のハサミ部分を伸ばしたが、爽は魔力チャージしながら連続でメイドが触れていたない床に足を着けてよけた。


「おおおお!!」


 爽はハナサキガニの目の前に飛び、右拳にかけている魔力チャージを解放してハナサキガニの腹を思いっきりパンチし、ハナサキガニを倒れているメイド達がいる外側に大きく吹っ飛ばした。


「く……そっ……!!」


「こっから本気の勝負だ! ハナサキガニ!!」


 爽にそう言われたハナサキガニは顔をニヤつかせた。



 一方その頃、バケダラはズワイガニに毒の剣で全身を斬られた。


「速すぎる……!」


「中々にしぶとかったな。くノ一」


「サギフエから送ってもらった毒耐性の服を着ていても苦しい……さすが最強レジェンドが雇う人……」


「本物の剣でトドメを刺すか」


「……待て」


 ズワイガニはそう言われて後ろを見ると、海がいつも持っていた剣より刃が少し長い剣を手にしていた。


「あの剣は……もしかして神が作った布都御魂剣!?」


 バケダラは海が持つ刃が少し長い剣を見てそう思った。


「……その剣で俺と再戦しようってのか」


 ズワイガニはそう言って海に向かってウオノエの体に切り傷を与えた剣を振るった。海はその剣を手にしている剣で受けた。


「ん……!?」


 ズワイガニが持つ剣は粉々になった。


「ガチの神剣か……!? いすれにせよそんな代物を持っていたとは……」


「これは……突然現れた……」


「は?」


「海……もしかして神剣に取り憑かれてたの……!?」


 ズワイガニは濃い紫色で毒の魔法で剣を作って両手で構えた。


「聞きたいことは山々あるが……その剣を使っても俺を倒せないと言うことを教えてやる!」


 ズワイガニはそう言うと海は手にしている布都御魂剣と呼ばれる剣を手放した。


「あ?」


 ズワイガニは海に斬り掛かると、海は石の魔法で鋼鉄の剣を作って両手で握った。


「なぜチート級の剣を手放す!?」


 ズワイガニと海は互いの剣をぶつかり始めた。


「くっ……」


 海は押され気味で全く優位に立てずにいた。


「あの剣を使わないならお前は死んでいろ!」


 ズワイガニの毒の剣で海が持つ鋼鉄の剣を溶かした瞬間、海の手に先程海が地面に置いた布都御魂剣が握られた。


「これは……!!」


 海は布都御魂剣と呼ばれた剣を振るい、ズワイガニに斬り傷を与えた。


「うっ……」


 ズワイガニは苦しむ表情に変わって右膝を床に着けた。


「捨てたと見せかけて布都御魂剣をまた戻したのか……! くそ……まんまと引っかかった……!」


「違う……海は神剣に動かされていた……」



 数分後、爽はハナサキガニの武器に挟まれながら壁に押し付けられた。


「くそっ……! まただ……! やはり武器の挟むスピードが早すぎる……!」


「おと少しでお前を落とせる……!」


 ハナサキガニはそう言って爽の全身を連続で殴り始めた。その途中、爽は右足に毒の魔力を込めてチャージし始めた。


「こいつ……当たり前に魔力チャージを使いこなしてるな……」


 ハナサキガニはそう思った時、爽は魔力チャージを開放して勢い良く毒の魔法を右足から噴出して蹴りを繰り出したが、ハナサキガニは横にかわした。


「狙いが見え見えだ! バーカ!」


 爽はハナサキガニが持つ武器に挟まれ、その直後に思いっきり壁に叩き付けた。爽は白目向いて倒れた。


「はぁ……はぁ……やっと落ちたか……」


 息切れしながらハナサキガニはそう言って横を見ると、クマムシとシャチが立っていた。


「お前らは……!!」


 ハナサキガニはクマムシとシャチに向かってそう言った瞬間、クマムシに右足で蹴られてハナサキガニは白目向いて倒れた。


「……蹴り一発か」


「中々粘ったのう。この若者は」


「あぁ! そうだな!」


 数分後、海とバケダラとズワイガニがいるその場にクマムシとシャチが現れた。


「くそ……来やがったか……」


「あなた方は……」


「小娘、その男を連れてこの場を離れろ」


 シャチはバケダラにそう指示すると、バケダラは海をおんぶした。


「俺は……動ける……」


「だめ!」


 バケダラは海を降ろさずにその場を後にした。


「お主が斬られるとはなズワイガニ」


「これはたまたまだぜ村長……!」


「ズワイガニ……終わろうか」


 シャチはそう言うと両手の全ての指に魔法でダイヤモンドの長い爪を付ける様に出現させた。


「こうなったら村長だけでも倒す……!」


 ズワイガニはシャチに当たるように濃い紫色の剣を振るい、シャチは両手に付けられたダイヤモンドの爪をズワイガニに当たるように振るうと、ダイヤモンドの爪の攻撃が当たったズワイガニが倒れた。


「まぁまぁじゃったのう」


「……シャチ。手当してやれ」


 ズワイガニが倒れて数分後、シャチは気を失っているズワイガニの傷を負った部分に全て包帯を巻き終えた。


「こんなところじゃな。後は頑張って生き延びろ」


「さぁ! 最後はサソリだ! 行くぞシャチ!」



 現在に戻り、シャチとクマムシがムベンガを抱っこしている颯とサソリがいる部屋に入った頃、シャチは倒れているウオノエの側に立った。


「さぁ勝負だ!! サソリ!!」


 クマムシはそう言ってサソリに向かって右拳を振るったが、サソリはワープしてその場から姿を消した。


「おい! 逃げるな!」


「あの……!」


「颯! 俺の近くにいろ!」


「……はい!」


 颯はそう言ってムベンガを抱えたままクマムシの側に寄った。


「サソリは必ず戻って来る。気を付けろクマムシ」


 数十秒後、ムベンガの抱えた颯の背後にサソリがその場に現れて颯の肩に右手を乗せた。その瞬間にクマムシは燃やした右拳をサソリに向かって振るった。しかしサソリは颯とムベンガと一緒にその場から消えた。


「しまった……!!」


「くっ……本当に厄介じゃな……ワープ魔法……」


「俺は急いでサソリを探す! シャチは風の最強レジェンドを頼む!!」


 クマムシはそう言って部屋を出た。


「クマムシには悪いが追っても無駄じゃろう……浜辺と賢王の子……サソリを止められるのはその子だけなのかもしれん……」



 ムベンガを背負った颯とサソリはアワビ帝国から少し離れた場所にある荒野に飛んだ。


「ここは……!?」


「まずは兄の娘を離してもらおうか」


 サソリは右手の人差し指から指の太さの光線を放った。颯はその光線を風の魔法を当てて反らした。


「……ムベンガは渡さない!」


 颯は風の魔法で強風を吹かせ、サソリを吹っ飛ばした。


「もはや普通の光線では曲げられるか……!」


 サソリは吹っ飛ばされてそう思いながら右手を濃い紫色に染め、その右手から濃い紫色の光線を颯に向かって放った。


「この光線は……!! 遅いのに風で逸らせない……!!」


 濃い紫色の光線は颯の右肩に当たり、颯は苦しみの表情になって仰向けに倒れた。


「颯っ……!!」


「私のの魔法を喰らっても倒れるだけか……」


「猛毒……」


「あぁ毒属性の奥義だ」


「毒属性の……奥義……?!」


「私の猛毒を喰らったらもう終わりだ」


 サソリにそう言われた颯は全身に消毒の魔法を込めた。


「話には聞いていたが賢王は不自然魔法を複数使えるのは本当らしいな……だが」


「全身に消毒の魔法をかけたのに消えない……! これが猛毒……!?」


「さぁ、兄の娘と離れてもらうぞ」


「離れ――」


 颯はサソリが放った光線に当たって床を転がり、ムベンガと離された。


「賢王の力を持ってしても魔法を覚えたばかりの者が私に勝てる筈が無い」


 サソリはムベンガの肩を摑んでワープし、その場は颯だけになった。


「しまった……! ムベンガを……連れてかれた……! ま……まずは毒を消さないと……」


 颯は全身に消毒の魔法をかけ始めた。


「とにかく……消毒の魔法を込め続けるんだ……!」


 颯がサソリの猛毒の光線を喰らってから三十秒後、颯は立ち上がった。


「サソリはどこにいるんだ……広範囲に……アワビ帝国の外も探るんだ……!」


 颯は目を瞑って人の魔力を探す新たな不自然魔法でサソリの魔力を探り始めた。


「サソリ……どこにいるんだ……!」


 サソリは颯から1キロメートル離れた荒野にいた。サソリは横になっているムベンガの首に両手をかけて力を込めていた。


「さっさと息の根を止めねば……」


「苦しい……止めて……」


 苦しみの表情のムベンガは全身に魔力を込めた。


「無駄だ……」


 サソリは両目からムベンガの顔に濃い紫色の光線を当てた。


「は……颯……来て……」


 ムベンガは目を閉じて全身に魔力を込めなくなった。


「まだだ……もっと首を……!」


 その場に颯が出現し、颯はサソリの胸を風の魔力が込められた足で蹴ってサソリをムベンガから突き放した。


「ムベンガ! 大丈夫か!」


 颯はムベンガにそう訪ねたが、ムベンガは反応しなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る