二十 話 実力十一分の一
「……ムベンガ!!」
ウオノエはムベンガの元へ駆け寄ろうと足を動かした瞬間、目の前に颯が出現した。
「うぅ……!!」
「颯君!?」
「チョロチョロされても目障りなのでここに飛ばした」
サソリはウオノエの前に姿を現してそう言った。
「すみません……突然サソリが現れて……!」
「私と兄が引き分けた後、颯で私を倒すなどと考えていたのだろう」
「ムベンガのお父さん……! 私に気にせずに攻撃して下さい……!!」
「……残念だが兄は魔法学校の屋上で1対1で戦い、私に敗けている。対決など意味の無いことだ」
「なんだと!?」
ウオノエは驚きの表情になってそう言った瞬間、サソリはムベンガの首を掴んだ。
「サソリ! 手を離せ!!」
ウオノエは怒りの表情になってそう言った瞬間、背中から誰かに
「な……に……」
切り傷を負ったウオノエは右膝を地面に付けた。
「ムベンガのお父さん!? なんであなたが……!!」
「流石だなズワイガニ」
ウオノエの背後に本物の剣を持ったズワイガニがいた。そのズワイガニの背後に姿を現したバケダラが苦しみの表情で立った状態から膝を床に着けた。
「バケダラ! 大丈夫か!」
「その生きていた忍者は扉の前にいたぜ。隙を突いてサソリを暗殺しようとしていたかもしれねぇな」
「やっぱり君……忍者……?」
「忍者ではないが俺は忍者の里で体験したことがある。それだけなんだがな」
「せめて私がサソリを……!」
バケダラは刀を手にしてサソリを斬りかかろうと向かって行った。
「止めときな」
ズワイガニはそう言って本物の剣でバケダラの刀を受け止めた。
「この女は俺に任せてワープで消してもらえるか?」
「分かった任せるぞ」
サソリはズワイガニとバケダラにワープの魔法を当てて二人をその場から消した。
「他に忍者が来れない様にするか」
サソリはそう言って全身から毒の魔法で出来た霧を噴出させた。部屋にいる颯とウオノエは咳き込み始めた。
「これでこの部屋に誰かが入って来てもお前達の様になる」
「ゲホッゲホッ! 海は……!?」
「俺に倒されたやつか」
「海が……負けた……!?」
「サソリ……残念だが……私の不自然魔法は消毒だ……」
ウオノエはそう言うと全身から風の魔法を部屋全体に送り、毒に侵された空気を元に戻した。
「ムベンガのお父さん……!!」
「不自然魔法が消毒? なんだそれは……私に対抗する為か……?」
サソリがウオノエにそう聞いた時、ウオノエの背中からの出血が止まった。
「傷に風圧を当て続けることで出血を止めたか……」
「颯君……どうやら私は全力で戦えそうにない……済まない颯君……!」
「そんな……!!」
*
一方その頃、ズワイガニとバケダラは城の四階の部屋で戦っていた。
「お前はあの男と違って手強そうだな」
「海は……四つ子の傭兵のデータを見て海で倒せると思ったのに……!!」
バケダラはそう言うとズワイガニに背を向けて走り出した。
「もしかして彼氏だったか? だったら悪いことしたな」
三階と四階を繋がる階段を降りたバケダラは血を流して倒れている海を見つけた。
「海……!!」
バケダラは巻かれてある包帯を取り出した。
「さっきデータでは俺に勝てると言ってが、残念ながらそのデータは完全では無かった。俺達四つ子の傭兵の不自然魔法はあろうことか一致していた……四人同時に発表して四人全員が驚いた」
階段を降りながらズワイガニは語り始めた。
「その不自然魔法は実力を11分の1にすることだった。後で他の兄弟に真の実力を出して驚かせようと言う目的も一致。10じゃない理由はもし被っても数字で上回る為だったが……それもまた被っていた……今となってはその話は兄弟全員の笑い話だ」
ズワイガニはそう話している間にバケダラは海の傷を付けられていた部分全て包帯でグルグル巻きにし終えた。
「……なんで攻撃しないの?」
「自分が包帯グルグル巻きの姿で目覚め、目の前に彼女が死んでたら……あの感情がなさそうな男はどう反応するか楽しみだからなぁ」
バケダラは立ち上がって刀を抜いた。
「私は……絶対に死なないからね」
「ふっ……お前に勝てるかな、本気の俺に」
*
一方その頃、アワビ城の一階と二階を繋ぐ階段付近にいる多くの兵士全員がお腹を抑えて倒れていた。
「なんとかここにいる全員空腹にさせることが出来たな」
「私……もう魔力がない……」
そう言ったサヨリはかなり疲れている様子で床に座っていた。
「……今だ」
誰も聞こえないくらいの声でケガニはそう呟くと、一本の毒の魔法で作られた矢をサヨリに向かって放った。
「秘書! よけろ!」
潮はケガニが放った毒の矢に気付いてそう叫んだが、その毒の矢はサヨリの腹の部分に命中した。
「うっ……!」
サヨリは毒の矢が命中した衝撃で倒れた。命中した部分の服が破れてサヨリのお腹が出てへそが丸見えになった。
「ケガニか!!」
潮は毒の矢が放たれた方向を見るとケガニが立って毒の魔法で作った弓を手にしていた。
「二人に眠らされたが……もう許さないよ〜。こっから本気出すから!」
「本気だと……!?」
「感じる魔力が……事前に調べていたデータと違う……」
「僕の不自然魔法は実力を11分の1にするってやつだからね。こっから平常だよ」
「まずい……! 秘書がやられたらせっかく動けなくさせている兵士が立ち上がってしまうではないか……!」
*
一方、タラバガニは毒の魔法で作ったハンマーでライノの顔に付けているツノを溶かしてライノの顔を殴り飛ばした。
「うっ……!」
「大丈夫か……ライノ……」
「ハーハッハッハッ!! 俺に不自然魔法を解除させるとは中々やるな!! だが安心しろ!! こうなったら一瞬で楽にさせてやる!!」
「タラバガニに攻撃するチャンスを作るにはまた僕の不自然魔法を決めないと……」
凪はそう思っている内にタラバガニの毒の魔法で作られたハンマーで顔を殴られて吹っ飛ばされた。
「ハーハッハッハッ!!」
*
一方その頃、爽はメイド達の群れの中に入ってハナサキガニの目の前まで来た。
「おりゃ!!」
爽はハナサキガニの左頬を右拳で殴った。
「……よく俺を見つけたなぁ」
「お前良い匂いしねぇんだよ!!」
「はっ! おもしれー!」
爽はハナサキガニに向かってもう一度右拳を振るったがハナサキガニに当たる寸前で爽は止めた。
「あいつの魔力が急激に上昇……!?」
「まさか……不自然魔法を解放することになるとは……」
「不自然魔法……? 本気を出すってことか……」
「あぁ。さっきまでの俺とは違う……強さが11倍だ」
ハナサキガニはそう言った時、その場にいたメイド全員が倒れた。
「足場が……!!」
「さぁ……お前は踏めるか?」
*
颯・ウオノエ・ムベンガ・サソリがいる部屋では颯が手にしているブーメランを投げようとしていた。
「ムベンガ……すぐに縄を解いてやるからな……!」
颯はサソリにブーメランを投げ、その後颯はムベンガに向けて風の魔法で作った刃を放った。
「……簡単に兄の娘の縛りを解けると思うな」
サソリは颯が投げてきたブーメランをよけ、颯が放った刃に光線を当てて消し、颯に向かって子供の腕くらいの太さの光線を一本当てた。
「うっ……! 速い……!」
「すまん颯君……! 私のカバーが遅れた……!」
「哀れな……今では兄の方が足手まといとは……」
ウオノエは颯に消毒の魔法を込めた風を送り、颯はサソリに向かって走り出した。
「なんとしてもムベンガを救出する!」
「雑魚にくせに威張るな。さっさと諦めて倒れていろ」
颯はサソリに向かってブーメランを投げた。
「……はぁ」
サソリは子供の腕くらいの光線を放って颯が投げたブーメランを溶かして消し去った。
「ブーメランが……!」
「颯君! とにかく突っ込むんだ……! 毒に侵されたら私が治す!」
「分かりました……!」
颯はサソリに向かって走り出した。
「はぁぁ……お前はもういい。ワープ先の
サソリは手にしている杖に強い魔力を込め始めた。
「まずい……! 颯君が飛ばされる……!」
サソリはワープの魔法が込められたと思われる子供の腕くらいの太さの光線を颯に向かって放った。
「ムベンガのお父さん!?」
床に膝を付けていたウオノエは立ち上がってサソリと颯の間まで風の魔法をまといながら飛び、ワープの光線が当たったウオノエが消えた。
「ムベンガのお父さん……! なんで……!」
「何故庇った……こんな頼りない男を……まさか私は復讐で兄を殺したいから私が助けに来ると思っているのか……」
サソリはムベンガの首を掴んだ。
「……だったら親子共に沈んでいけ!!」
「まさかムベンガも……!? 止めろ!!」
サソリはムベンガにワープの魔法を込めた光線を当て、ムベンガをその場から消した。
「私の目で最期を見たかったが……兄の思い通りにはさん。魔力が弱まって完全に感じ無くなるまでここで待つ」
「サソリ! ムベンガとムベンガのお父さんをどこにやったんだ!」
「知りたかったらお前も二人と同じ場所に沈むか……いや……お前には飛ばす気にもならん」
「どうしたら……どうしたら……!!」
「お前には何も出来ないだろう」
「……そうだ!! 私がワープの魔法を覚えれば良いんだ!」
颯はそう思い、全身に魔力を込め始めた。
「何をする気だ……?」
「覚えろ覚えろ覚えろ覚えろ……!!」
颯は心の中で強く念じていると、その場から姿を消した。
「消えた……!? まさか飛ばされた二人を助ける為にワープの魔法を今覚えたと言うのか……!?」
サソリはそう思って数秒後、その場にびしょ濡れの颯・ムベンガ・ウオノエがワープで部屋に戻って来た。
「ハァ……ハァ……助かったのか……!?」
「バカな……あり得ない……」
「よし! ワープ魔法習得したっ!!」
「私がワープの魔法を覚えるのに何十年掛かったと思っている……」
サソリはそう思った瞬間、颯の右手の掌から放たれた風に飛ばされて壁に激突した。
「ゔっ……!」
サソリが壁にぶつかった衝撃音が鳴った瞬間、ムベンガの目がゆっくりと開き始めた。
「うぅ……は……颯……颯はどこ……颯に会いたい……」
「ムベンガ! 今縄を解くからな!」
颯は風の魔法で出来た刃でムベンガを縛っている縄を全て断ち切った。
「あっ……颯っ!!」
颯に気付いたムベンガはすぐさま颯に抱き着いた。その時サソリは手にしている杖に魔力を込めていた。
「サソリの光線が来るぞムベンガ! 離れてよけないと……!!」
「嫌です……絶対に離れたくありません……」
「えっ!?」
ムベンガは全身に力を込めて颯に抱き着いている様だった。
「危ない!」
サソリが放った光線を颯はムベンガと共にワープ魔法で消えてかわした。すぐに颯とムベンガは共にサソリの背後に出現した。
「あ……危なかった……」
「兄の娘を別の部屋に隠せばどうだ?」
「……ダメだ! ムベンガを避難させてもサソリはワープで追いかける……!」
「ふっ……ならばその状態で戦うか……?」
「どうする……! 考えるんだ……!」
サソリは颯とムベンガに向かって光線を放った。その光線をまた颯はムベンガと共にワープ魔法でかわした。
「あと何回ワープ出来るだろうな」
颯はワープ魔法で光線をかわし、現れた所にサソリが光線を放つ。それを十回繰り返した。
「……ワープの魔法は至近距離の移動でもかなり魔力を消費する筈だが……しぶといな」
「こうなったらこのままムベンガを抱っこしたまま戦ってやる……!」
「女一人抱えながら私を相手にする気か……」
サソリは颯に何度も光線を放ち、颯は何度もワープでよけた。
「何故魔力を宿したばかりの者が何度もワープ出来る……何かがおかしい……」
サソリがそう思っていると、目の前に現れたムベンガを抱っこしている颯に蹴られた。
「くっ……! 何者だ颯……お前は……」
「颯君……すでに……目覚めていたのか……賢王の力が……」
仰向けに倒れているウオノエはそう言った。
「賢王……!?」
「そうだサソリ……颯君はサザエの子孫だ……!」
「サザエ……最初にこの世界に転生してきた者達の中で一番の天才と言われた者の名……そのサザエの血が流れる者を賢王と言うが……まさか……」
「賢王……まさかそれがお母さんが言っていた力なのか……?」
「アワビの子孫はそこら中にいるが……サザエの子孫はかなり稀だと聞くが……」
「つまり私の先祖はサザエと言う名前なのか!」
「確かに……私が何十年かけて覚えたワープの魔法をお前見たいな若者が簡単に使えるのも納得出来る……だが残念な話だ。賢王の血を引いている者がこんなバカだとは」
「バ……バカだと……! 確かにそうだが……」
「颯君……! 賢王の力がすでに目覚めているのなら……もしかしたらサソリを……」
ウオノエは颯に何か伝えている途中でサソリから速い速度の光線を当てられた。
「くっ……!」
「黙っていろ」
「と……とにかく頑張るんだ! 颯君!!」
「うるさいぞ兄!」
サソリはウオノエに光線をぶつけてウオノエを吹っ飛ばして壁に激突させた。
「……頑張ります!!」
颯はそう意気込んだ瞬間、サソリは物凄い速さの細い光線を颯に向かって放った。
「速い……!! ワープが間に合わない……!! ぶつかる!!」
颯はそう思った瞬間、直前にウオノエから言われたことを思い出し、サソリが放った光線に風を当てて光線を曲げて直撃を防いだ。
「光線に風を当てて反らした……!」
「とにかく頑張る!! サソリを倒す!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます