二十四話 好きな人に会う
現在に戻り、サソリの墓の前でウオノエは颯とムベンガに高校一年生の時にサソリがいなくなった所までを話した。
「あれから三十年程経った……私の両親はサソリは人攫いに遭ったと言っていたが……どうだったのだろう……」
そう言うウオノエは悔しそうな顔をしていた。
「ムベンガのお父さんの両親はなんて……」
「もう亡くなっているから聞き出せないんだ……」
「サソリが恨んでいる人全員亡くなっているから……サソリは憎しみをぶつける相手がお父さんしかいなかった……?」
「私もプラティと結婚して幸せだったから……それに対して憎たらしく思っていたのだろうな……」
「ムベンガのお母さんも……私がムベンガに出会う前から亡くなって悲しい筈だが……」
心の中で颯はそう言った。
「一方キンギョはサソリがコンブ村から去ったあと一年も生き続けた。その一年間……恐らくキンギョは一度もサソリに会えなかったのだろう……せめてあの世で再会出来れば……」
「きっとあの世で会えます……! そう願う!!」
*
肉体に傷一つ無いサソリは周りが闇に包まれている場所に来た。
「蘇生……? いや……ここは地獄だな……どう考えても……」
「俺は悪魔のハモだが!」
サソリはハモと名乗った悪魔の姿をした者が目の前にいることに気付いた。
「ここは地獄か」
「正確には地獄では無い! ここは地獄の入口だ!」
ハモと言う名の者の背後に光が当てられ、巨大な扉が見えるようになった。
「……さっさと地獄に送ればいいのに何故入口の前で目覚める……」
「何故か……地獄に行く前に誰か天国にいると話せる制度があるからだよ!」
「なんだその制度は……」
「お前天国にいる人で誰か話したい人はいるか!? って言っても海の世界が住む天国の知り合い限定だがな!」
「話したい人……」
「いや〜地獄に行く人は天国のおっかさんとかにおっとさんとかに通話してもいんじゃねって言うのがあるんだよな〜!」
「……キンギョ」
「あぁ? 今ボソッと言ったキンギョってやつか?」
「私は……今キンギョと言ったのか?」
「あぁ言ったぞ! 無意識か? お前の周りにいたキンギョで良いんだな!」
「あぁ……」
ハモは地獄への入口と思われる大きな扉の近くの小さい建物に入り、誰かと公衆電話で話し始めた。
「キンギョは天国にいる筈だから二度と関われないと思っていたが……まさかここで……」
数十分後、ハモの通話が終わろうとしていた。
「あぁ! はい! なるほど! 分っかりました!」
キンギョの情報を聞いたハモは誰かとの通話を止めて建物から出て来た。
「サソリだっけあんた?」
「あぁ……」
「お前の言うキンギョの情報は双子で姉の名はプラティだろ!?」
「そうだ……」
「キンギョは天国にいない! そいつは成仏したんだろう! 残念だったな! 他の人にするんだな!」
「……私は!! 他に話したい人などいない!!」
「おい……急に怒鳴るなよ……それは残念だったな。話したい人がいないならとっとと先に進め」
ハモはそう言い、地獄への入口の扉を開けてサソリの背中を押した。サソリは地獄へ向かって歩いていった。
「おぉー! 新入りか!」
サソリは地獄に入った瞬間、悪魔の姿の男一人にそう話しかけられた。
「つまらなさそうな顔してるな〜! 俺は案内役の悪魔なんだ。自己紹介くらいしろよ。お前に合いそうな女でも紹介してやるからさぁ」
「……私の名はサソリだ」
「サ……サソリだと? まさかとは思うが……サソリを待ち続けている女か!」
「はぁ……!?」
「
「な……!!?」
「おぉ! やっぱりあの天国から落ちてきてずっと成仏しようとしないキンギョが言っていたサソリか!」
「ど……どこだ……!!」
「案内してやる焦るな」
その後サソリはハモにキンギョがいるという家の前まで案内され歩いた。
「ここだぜ。じゃあ俺は戻るから」
「……感謝する」
サソリは案内役の悪魔に礼を言うと、キンギョが住む狭くて一階建てのボロい木材で出来た家の中に入っていった。中には高校生くらいの女の子が一人いた。
「キンギョ……か。姿は死んだ時のままなのか」
「え……」
サソリは高校生の頃の姿をしているキンギョと目があった。
「元気なのか?」
「あなたは……」
「……そうか。四十代の姿をした私のことを分かるわけがないか」
サソリがそう思って数秒後、その場にいる高校生くらいの姿のキンギョに抱きしめられた。
「サソリ……やっぱり地獄に来たんだ! 会えて良かった……私は元気だよ……!」
「なぜ天国にいない……キンギョは……良い人な筈だ……」
「私ね……サソリは地獄に行きそうな気がして地獄に住んでたんだ! 天国の偉い人が頼みを聞いてくれたんだ」
「キンギョ……私と会うためにこんな所に……すまない……」
「気にしないでサソリ! これからずっと一緒に住もう!」
「あぁ……年齢差が凄いがな」
サソリはそう言ってキンギョと共に抱きしめ合いながら笑みと涙と笑みがこぼれた。
*
一週間後の夜、サギフエの家でムベンガ救出祝いのパーティが行われていた。その最中にムベンガの暗い顔を見た颯はムベンガをパーティ会場の外に連れ出して二人っきりで話し始めた。
「ムベンガ……体は大丈夫か?」
「心配はいりません……気分が悪くなっても颯を見ていると元気になって食欲とかも復活しますので」
「元気になるなら良いが……顔が暗くてな……」
「あの……顔が明るくないのはいつもそうです……」
「そうか……パーティなのに心配ごとがあると思って……すまんな!」
颯はムベンガにそう言うと、ムベンガの頭を優しく撫でた。
「久しぶりに頭撫ででくれましたね……」
ムベンガは頭を撫でてきた颯の手を優しく握って颯の人差し指を優しく噛んだ。
「どうしたムベンガ!?」
「すみません……」
ムベンガは人差し指だけではなく中指や薬指も優しく噛み始めた。
「歯型を残したいだけです……カミカミカミカミカミ」
「ムベンガ……もう立派な大人に近いから人の指を噛むのは止めた方がいいぞ……」
「ごめんなさい……」
「おーい! 颯とムベンガ! 主役の二人がいないと思ったらここにいたのか!」
その場に現れた潮は颯とムベンガに向かって声を掛けた。
「そうだな! 戻ろう! ムベンガも行くぞ!」
ムベンガは颯に促されて明るい雰囲気のパーティ会場に向かって行った。
「私と颯の会話を邪魔した潮……うぅ……殺意が……殺したら颯に嫌われるから……殺意だけにしておきましょう」
その日の夜、海・爽・颯・潮・凪・バケダラ・ライノの七人はサギフエの家で一人一部屋で寝ていた。
「ハァ……ハァ……」
一人になって部屋の中をうろうろしているムベンガは息苦しくなっていた。
「颯……颯……颯……私がいない方が颯も安眠出来ると気を使ったけど……颯の温もりを思い出してしまった私が颯がいないと全く眠れない……! もう無理……!」
ムベンガは自分が寝る予定の部屋から出て、颯が寝ている部屋に向かって歩き、颯の部屋に入ってすぐさま颯の寝顔を見た。
「あぁ……颯……寝顔……良い……もしまた颯が……記憶喪失に……なったら……あぁ……想像するだけでも怖い……!! 颯……大丈夫? 大丈夫でしょうか……逆に私も……記憶を無くす……可能性も……ある……忘れたくない……明日……朝起きたら……確認を……颯好き好き……私は颯好き好き……一生颯好き……一生颯好き好き好き……」
*
次の日の朝、颯が目を覚ますと、目の前に眠っているムベンガの姿があった。
「うわっ!! びっくりした……!! 一人で眠れなかったのかな……」
「颯……おはようございます……私は颯のことが好きです……」
ムベンガは颯に挨拶してすぐに眠りについた。
「やっぱりムベンガの表情が暗い気がする……やっぱりまだ心が傷付いたままなんだ……! 良くなるまで元気付けてあげるからな!」
颯は心の中でそう誓うと、ムベンガの頭を優しく撫でた。
一時間後、ムベンガは目を覚ますと颯はベッドにいなかった。
「は……颯……!? いない……一体どこに……」
ムベンガは部屋の周りを見ていると、颯が部屋に入って来た。
「颯……!! 勝手にどこか一人で旅立たれたのかと思いました……!!」
「私がそんなことするわけが無い……ムベンガに黙って旅立つなんて……」
「と……とにかく……今日も会えて良かった……」
「私もムベンガに会えて嬉しいよ!」
「あの……颯……一回私の髪を濡らすので見てもらっても良いですか?」
「濡らす?」
服を着たままムベンガはシャワーで髪を濡らすと、ムベンガの髪の色が濃い緑から昆布茶色に変わった。
「髪の色が変わった……!」
「はい……コンブの子孫で光線を撃てる人は髪を濡らすと昆布茶色になるんです」
「凄いな! 初めて見た!」
「あぁーー!!」
突然ムベンガは大きな声を上げると、颯は驚きの表情になってビクッと一回全身が反応するように動いた。
「十歳の時に一回見せたはずなのに……まさか記憶が……」
「ごめん……! 覚えてなくて……」
「……ごめんなさい颯……それが正しいです」
「え?」
「髪が濡れて昆布茶色になるのは……光線を撃てる人……つまり魔力を宿さないと無理なんです……」
「あ……じゃあ私の記憶に無いは正解だったんだ!」
「え……」
「……え?」
「颯……昆布茶色に変わる説明なら十歳の時に聞いた筈です……やっぱり記憶がぁ……」
「うわー! そうなるのかー!」
颯はそう言って頭を両手で抱えた。
「あぁ……やっぱり颯は颯だから良い……やっぱり好きな人に会って普通に会話出来るって凄い幸せなんですね……私が颯の全てを把握して……一生颯の側にいるつもりなので……これからよろしくお願いいたします……」
ムベンガは困り顔の颯を見ながらそう思った。
*
ムベンガがサソリの元から救出されてから数日後の朝、サギフエの家の玄関へと通じる扉の前に外からクマムシが一人で立っていた。
「あなたはクマムシかしら?」
クマムシの背後に来たサギフエがクマムシにそう質問した。
「おぅ!」
「何か用?」
「王の力を持った子供達と話したい。いいか!?」
「え……?」
「サギフエ様……とにかく客として家に入れましょう……」
その場に現れたオイカワはサギフエにそう耳打ちした。
数十分後、サギフエの家の広い部屋でクマムシを海・爽・颯・潮・凪・バケダラ・ムベンガ・サギフエ・ライノ・オイカワの十人で囲んで全員床に座った。
「まず颯! それと颯と同じタイミングでこの世界に来た四人! お前らは王の力を宿している!!」
「王の力?」
爽はクマムシにそう言葉を返すと、クマムシは真剣な表情へと変化した。
「お前らは王の力を持っているから狙われている!」
「お母さんが追われている話と関係があるのですか!?」
「颯! 浜辺とハクレンに会ったのか!?」
「直接じゃ無かったけど……」
「そうか……だが良かったな!」
「でも直接会いたい……」
「安心して会うには王の力を消そうとする集団を倒さなければならない!」
「その王の力を狙う集団ってなんですか……?」
凪はクマムシにそう質問した。
「正体は分からない!」
「じゃあ……俺を含めて俺と同じタイミングでこの世界に来た五人は颯と同じくこの世界生まれってことか!?」
爽は驚きの表情でクマムシにそう質問した。
「そうだ……!」
「面影でバレるか心配だけど……」
そう凪は心の中で呟いた。
「それでだ……お前等に二つ選択肢をやる! 一つは俺の家に住み、俺に守られるか! もう一つは自由に過ごすか」
「ど……どう言う意味ですか……!?」
「いやぁ〜颯……この提案をしろと言ったのはハクレンでな……」
「ハクレンって颯のお母さんか?」
潮は颯にそう質問すると、颯は首を縦に振った。
「え〜……でも俺は嫌だな……おっさんに守られるとか……」
爽は自身の意見を周りに伝えた。
「自由になれないし、クマムシさんの家に居続ける五人ってかなり疑われるわよね……」
「とにかく俺は自由を選ぶぞ!」
「俺も遠慮する」
爽と海はクマムシに守られることを拒否する意思を示した。
「颯はクマムシと過ごそうとしないのか?」
潮は颯にそう質問した。
「う〜ん……」
「……私は嫌です」
ムベンガは悩みの表情の颯に向かってそう主張した。
「ムベンガが嫌なら私は遠慮します! すみません!」
「そうか颯もか……」
「我は家に引きこもってないで親を探すぞ!!」
「じゃあ……僕も」
「なら良いんだな! みんな俺に守られなくて! なら俺は帰る!」
「クマムシさんすみません! せっかく来てくださったのに!」
「だがせっかく来たんだ! 颯! 親について話さないか!?」
「親!?」
「どうだ!?」
「お願いします!」
「よし! じゃあ二人っきりで話そう!」
ムベンガは颯とクマムシの間に立ってクマムシを睨んだ。
「ん〜……!」
「颯のガールフレンドか!」
「はい……そうです」
「ムベンガは幼馴染です!」
颯はそう言った時にムベンガはショックを受けた表情に変わった。
「そうか! なら三人で話すか!」
「お願いします! クマムシさん!」
「あ……まだ私颯の彼女になれていなかったのですか……」
「ってかあのバトル大会荒らしのあんたが会いに来る俺達危なくないか?」
爽はクマムシにそう聞いた。
「心配はいらない! 俺は最強レジェンドに会いに行く癖があるからな! 今日も怪しまれないだろう!」
「あぁ……そう言えばサギフエのお父さんは最強レジェンドなんだっけ……確か……」
「なぁ! いつになったらピラニアとバトルさせてくれるんだ!?」
クマムシはサギフエに向かってそう質問した。
「し……知らないわよ……」
「そう言えばサギフエの父と会ったことがないな……」
潮はそう呟いた。
「よし! 颯!! 話をしよう!」
別の一室に移動した颯とムベンガとクマムシの三人は囲んで椅子に座った。
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