五章 アワビ城に攻め入る

   十八話 敵全員毒属性

「待てるだけ待った方が良いと思いますけど……」


「確かに……クマムシさんとシャチさんは何回もバトル大会で優勝してるから……!!」


「しかしサソリそのお二方をワープで飛ばしたということは……サソリがまともに戦う可能性がある者は私しかいないのだろうな……」


「つまりサソリを倒せるチャンスがあるのはムベンガのお父さんしかいないということか……!」


「仮に依頼した二人が戻って来てもムベンガちゃんのお父さんがサシでサソリを倒さなきゃいけないんだな……」


「そしてサソリには四つ子の傭兵を雇っている……その四つ子の傭兵をクマムシさんとシャチさんに任せて、サソリに使える兵士などを君達に任せる……ということに決めて良いか?」


「あぁ! 受けて立つぜ! 男の兵士がいたらボコボコにしてやる!」


「絶対にムベンガ救出させましょう!」


 颯は周りに向かってそう呼びかけた。


「う……!! ゴホッゴホッ」


 ウオノエは咳き込んだ。


「学長! 大丈夫ですか!?」


「もう寝てください! ムベンガのお父さんは二週間ずっと牢屋で過ごしていたんですから……!」


 颯はウオノエに駆け寄ってそう言った。


「確かにそうだな! 学長はぐっすり寝てていいぜ!」


 一時間後、ウオノエはベッドで眠りに付き始めた。海・爽・颯・潮・凪・バケダラ・ライノ・サヨリの八人は小さい声で話し始めた。


「みなさん……学長の体調が良くなるまでこの店に居続けましょう」


「悔しいが俺はサソリと戦って一瞬で敗けた……! サソリに勝つのは学長しかいなさそうだしな……!」


「え? 爽はサソリと戦ったのか?」


 ライノは爽にそう聞いた。


「あぁ……まぁ……」


「目立つようなことはしないでって話をした様な……」


「まっ! 相手の実力がちょっと分かったからいいだろ!」


「のんきだな……」


 潮は小声でそうツッコんだ。その時、海は立ち上がった。


「どこ行くの海?」


 バケダラは海にそう聞いた。


「ここはトレーニングジムだからレーニングしに行く」


「私もトレーニングに行く!」


 颯は勢い良く立ち上がってそう言った。


「正直……俺みたいな脳筋は作戦会議は苦手だからな……よし! 作戦は任せた!」


 爽はそう言って左腕で海の肩、右腕で颯の肩に乗せて肩組んだ。


「なら脳筋どもはトレーニングに行っていろ。我はここで話す」


「ほぉ〜? お前が一番トレーニングした方がいいんじゃないのか?」


「うるさい!」


「ほどほどに……分かりました。トレーニング代は私が全部持ちます」


「サヨリちゃんあざす!」


 海・爽・颯・ライノ・バケダラの五人は店のトレーニングルームに向かった。一方、ウオノエが寝ている部屋にいる潮・凪・サヨリの三人は床に座って囲んで小声で話を始めていた。


「やはり……学長が雇った二人を待たない方が良いのか……」


「サソリは……クマムシさんとシャチさんがアワビ帝国にまた来れば焦ってムベンガちゃんと共にワープで消え、命を奪って復讐をやり遂げてしまう可能性があるからです」


「きついな……これが強者が味方にいるリスクか……」


「サヨリさん……そもそもなんでサソリは兄を恨んでいるんですか?」


「分かりません……私も学長の過去は聞かされていないので……」


「恨んでいる理由はどうでも良いだろ」


「確かに……知っても心がブレるだけか……」


「……話を変えましょう。さっき学長が言っていた四つ子の傭兵についてです」


「知っているんですか」


「調べておきました」


 サヨリは手にしている四つ子の傭兵のことが書かれた紙をズボンのポケットから出した。


「四つ子の傭兵は全員年齢が二十代後半ぐらい……あぁ、四つ子だから全員同い年か」


「えっ……四つ子の傭兵は全員毒属性……?」


「四つ子だから属性を揃えているということか。仲が良いんだな」


「サソリも毒属性って聞いたし……」


「相手の強い敵全員毒属性ということか」


「他に雇っている者もいるかもしれないけど……」


「なぁ、バケダラに調査してもらうってのはどうだ?」


「え……!? またサソリに捕まったらどうするんですか……!」


「いや……城下町で聞き込み程度でいいんだ……」


「聞き込みもかなり危険だと思いますが……」


「なら盗み聞きをしよう」


 数十分後、話をしていた部屋を出ていた潮・凪・サヨリの三人は話をしていた部屋へと戻った。


「さっき城に仕える人がいた、サソリが現時点で雇っているのは四つ子の傭兵だけと言ってたから信じて良いと思うな」


「これで注視する敵全員毒属性で確定……兵士もいるし他の強い敵が雇われる可能性はまだあるけど……」


「サヨリさん……毒に強くなれる魔法の装備とかってあったりします?」


「あぁ……ありますね……確かに毒属性を重点的に守ればかなり有利な展開を作れそう……」


「売ってる所でもあるのか?」


「あったとしても敵に見張られる可能性が……」


「そうか……流石に毒属性しかいないから買いに行くだろうと警戒するか」


「そうだ……さっき店の人から聞いたのですが……魔法学校上級の生徒を卒業した八人がアワビ帝国で指名手配になっているそうです……」


「えぇ……! それ衝撃だな……!」


「爽達とか普通にトレーニングしに行ったけど……」


「そこら辺は店員さん気をきかせてくれたみたいらしく、さっき店員さんに他の人が全く入らない秘密の地下室で特訓することを許可したことを教えてくれました」


「おぉ……! ここの店員凄く協力的だな……!」


「秘密の特訓出来るところか……めっちゃ強くなれそう……」


「そうだサギフエだ……! サギフエに毒耐性の装備を買ってもらってここに届けてもらおう!」


「サギフエちゃんに……!?」


「サギフエはお金持ちで優しいから買う分には大丈夫だと思うけど……」


 凪はそう言うと潮はガラケーを取り出した。


「執事のオイカワに持って行かせたらどうだ? サギフエの執事は確か忍者と言っていたからな」


「少し怖いけどそれしか強い毒耐性の装備を手に入られる可能性は無いか……」


「電話したらサギフエがうるさそうだからメールにしておくか」


 潮はそう言ってガラケーをいじり始めた。潮は毒耐性の装備を買って送ってもらえるかと言う内容のメールを送った。


 数分後、サギフエからの返信の内容を潮は声に出して読み始めた。


「分かったわ。みんなの服のサイズをさっさと教えてちょうだい。超お高いのを送りつけてやるわ」


「さすが町長の娘……」


「よし……! これでサギフエから毒耐性の装備が支給されるな……! しかも超お高いのを……!」


 潮はそう言うと左手を出して凪とハイタッチを求め、潮と凪の二人はハイタッチした。


「筋トレ組の人達に服のサイズを聞きましょう。学長は目を覚ました時に聞きましょう」


 その後店の店員が海・爽・颯・ライノ・バケダラに服のサイズを確認しに回ってサヨリ・潮・凪に颯達の服のサイズを教えた。


「これで大丈夫だ。学長はさっき目を覚ました時に教えてくれたからな」


 潮はサギフエへムベンガ救出しに向かう九人の服のサイズを記載したものをメールで送った。


 数分後、サギフエからメールが帰ってきた。


「潮君……大丈夫そうですか……?」


「一週間必要ね……らしい」


「なるほど……それまで待ちましょう」


「爽と颯と学長は待てないとか言いそうだけど……」


「そうだな……学長が元気になったら即行く感じだったし、学長は一週間眠っててほしいが……なんとか爽と颯を説得させよう」


「サギフエちゃんから毒耐性の服が全員分来るのに一週間……それまで学長の体調が良くなり、なおかつサソリがムベンガちゃんの命を奪ってなければいいけど……」


「……一週間祈るしかないな」



 一週間後の朝、サギフエの執事のオイカワが少し大きめのダンボールの箱を持って海達を匿っているトレーニングクマムシジムの入口前に来た。


「私はサギフエ様の執事オイカワです」


 オイカワは店の入口の扉を開けて出てきた店員に向かってそう言った。


 店員はオイカワを海達がいる九人がいる部屋へ案内した。


「……こちらをお持ちしました」


 オイカワはそう言うと、荷物を床に置いた。


「九人分の超高級毒耐性の服です」


「ついに来たーー!! 超高級毒耐性の服!!」


 爽は声を大にして嬉しそうにそう言った。


「ここ一週間……復讐するなら何か動きがあるって何度も言いながら颯と爽の説得がきつかった……」


 そう凪は思った。


「オイカワさんありがとうございます!! ありがとうサギフエ!!」


 颯はオイカワにそう感謝の言葉を伝えた。


「サギフエ様には直接感謝を必ず申し上げてください。では私はこれで」


「来たばかりでもう帰るのか?」


 潮はオイカワにそう質問した。


「このあと私は町長の業務などがありますので」


 オイカワはそう言って部屋から外に出た。


「忙しいのにわざわざ……すみません……」


 サヨリはオイカワに向かってそう言った。


「気を付けて帰ってください!」


 颯はオイカワにそう言ってお辞儀した。


 数分後、颯達九人は全員毒耐性に強いという超高級の服を着替え終えた。


「これで勝ったのも同然だな!」


 自信満々の表情をしている爽はそう宣言した。


「超高級って聞いてたからなんとかなりそうだが……まだ怖い……」


「大丈夫か凪!?」


「まぁ……ここまでの流れを見て僕だけ残ったら嫌な奴に見られるし……僕的にもかなり辛いから行くよ……」


「そうか凪……ありがとう!」


「よし……アワビ城に攻める準備をしようぜ!!」


 爽は周りに向かってそう言った。


「ムベンガのお父さんは大丈夫ですか!?」


「あぁ……結局体調が良くなったのがちょうど一週間経った頃だ……大丈夫だ」


「ムベンガのお父さん! 店の人によるとサソリが何かしたって噂が無いのでそれを信じましょう!」


「そうだな……」


 数時間後の夜、海達はそれぞれアワビ城に攻め入る準備を終えた。ウオノエは魚のプラティの絵が描かれてある自身の杖を持ち、颯は木製のブーメラン、バケダラは刀、凪は大鎌、潮は軽くて小さい斧を身に付けていた。


「円陣だ!!」


「おう!」


 爽は颯の言葉に応じると、九人は円陣を組んだ。


「ムベンガを絶対助けるぞー!!」


「おーー!」


 颯以外の八人全員、颯の呼びかけに応じた。


「よし!!」


 アワビ城に攻める準備を終えた九人はトレーニングクマムシジムの店長がいる部屋に来た。


「今まで匿ってくれてありがとうございました!!」


 颯は店の店長の男にそう言ってお辞儀した。


「クマムシさんとシャチさんは絶対に死んでないと思う……だけどその二人を待たずして行っていいの?」


「結構特訓したんで大丈夫だと思います!」


 颯は店長の質問にそう答えた。


「なら大丈夫か! みんな頑張って! いってらっしゃい!」


「はい! 今までありがとうございました!!」



 一方その頃、アワビ城にいるサソリは自身の部屋にいる四つ子の傭兵全員と話をしていた。


「俺達四人を呼ぶということは……来たのかあいつらが」


 ズワイガニはサソリにそう聞いた。


「そうだ、使いの忍者から九名が城に向かって歩いていると聞いた。その中に兄や颯もいたそうだ」


「ついに攻めて来るのか! あのトレーニングクマムシジムでどれだけ強くなったんだろうな!」


「仕事の内容を言うぞ。まずお前達四人で無傷の状態の兄を例の拷問部屋に連れて来させろ」


「俺達はサソリさんの弟以外を叩きのめせば良いんだな」


「あぁ、あともう一つは颯も例の拷問部屋に通せ」


「あの窓の無い拷問部屋にね!」


「颯も無傷か!!?」


「いや、颯も無傷で来てうろうろされたら迷惑だ。最高でも喋られる程に痛めつけろ。仕事の依頼は以上だ」


「分かった」


「うぉー!! 了解したー!!」


「女の子いたら捕まえてやるぜ〜」


「OK〜!」


「兄が一人で来ているわけではない。前と違って複数だから油断するな」


「へ〜い!」


「ついに今日……兄への復讐が終わりを遂げるのか……」


 心の中でそう呟いたサソリはウオノエと対峙していた時に手にしていた杖を見た。その杖には魚の金魚が描かれていた。



 颯達九人はアワビ城の門の前に来た。


「城に入るぞ!」


 颯はそう言って九人が城の門に入ろうとすると、城の中から何十人もの兵士が出てきた。


「なんか囲まれたし……」


「どうせ雑魚だな」


「いや! 忍者はやばいよ!」


「颯とサソリ様の兄だけ城に入って下さい」


 兵士の一人は颯達にそう言った。


「悪いが兵士ちゃん達! 俺達めっちゃ修行したから帰りたくないんだ!」


「……あなた達は大勢の者に囲まれています。大人しくした方が身のためです」


「残念ですがこうなることは予想済みで対策済みです……!」


 サヨリはそう言うと両手に魔力を込め、兵士達や忍者達に向けて大量の闇の魔法を放った。


「うっ……」


 サヨリの闇の魔法を浴びた兵士達や忍者達は一斉に膝を付いた。


「突然お腹が……腹が減っている……!?」


「私の闇魔法は浴びると感覚が空腹になるんです!」


 サヨリは周りに向かってそう説明した。


「な……なんだって……!?」


「闇属性の特徴……最初は暗くするだけかと思ったけど……それプラスである能力を一つ下げる効果も付けられると知った時はビックリしたな……」

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