十七話 忍者バケダラ

「正直あのバトル大会荒らしの二人への対策をいくら考えても二人同時に倒すことは無理でな。分散させることにした」


「はっはっはっ。クマムシは普段でも全身強力な魔力をまとっておるからどんな不自然魔法も防いでしまうからのう! そのクマムシを飛ばすとは流石じゃな!」


「笑っているが……お前は一人になってしまったぞ」


「クマムシならどこに飛ばしても大丈夫じゃ」


「私は人のことを気にしても良いのかと聞きたい」


「……何が言いたいんじゃ」


「お前ら二人はどんな争い事にも首を突っ込み、あっさりボスを倒して解決していると聞く。だが今は暴れん坊なが抜けた」


「強い方……それは言えてるな……じゃが儂をなめとると負けることになるぞ?」


「お前一人なら勝てる」


「自信満々じゃな……魔力を高める杖が無くても良いと言うのか?」


「素手で十分だ」


 サソリはそう言うと、シャチは右手の人差し指から小さくて細くて尖った石を一つサソリに向かって飛ばした。


「シャチは石属性の最強レジェンド……私の毒でもすぐには溶かせない魔法だな……」


 サソリはそう思い、シャチが放ったトゲがある小さな石をよけた。


「よけるとは……警戒心が強いのう」


「無駄な魔力を使わないだけだ」


「なら……体力と魔力……両方大幅に使ってもらうとするかのう」


 シャチはそう言うと、十本の指から小さいトゲの石をサソリに向かって連続で放ち始めた。それを見たサソリは自身をワープ魔法でその場から消した。


「ビームよりもワープの方が魔力の消費が激しそうじゃのう……」


 シャチはサソリにそう指摘すると、サソリがいる背後の壁からサソリに向けて石の魔法で出来た大木くらいの大きさのトゲを出現させた。


「居場所がバレてる……魔力の察知能力は流石だな」


 サソリはそう思うと、自身をワープ魔法で消して大きなトゲをかわした。


「逃げてばかりか? サソリ」


 シャチはサソリに向かってそう言うと、シャチの背後の壁から子供の腕くらいの太さの紫色の光線が放たれた。


「これにはワープの魔法……では無さそうじゃのう」


 シャチは頭の中でそう分析すると、石の魔法で両腕を覆うように真っ赤な鉱石の様な物をまとわせて光線をガードした。


「猛毒で来いサソリ。出来ぬのか……?」


「猛毒を使ったら城が溶けるだろう。それに猛毒を使わなくともお前を倒せる」


 サソリはそう言うと、シャチの後ろにある壁から子供の腕くらいの光線が放たれた。シャチはそれをかわした。


「今度はワープの光線……!」


「よけられたか……ちゃんと分析はされるな……」


 サソリがそう思った瞬間、背後に物凄い衝撃を感じた。サソリの背後を襲ったのは石の魔法で出来た大木くらいのトゲの先を伸ばして突かれたものだった。


「速い……!! シャチは石の魔法を光の魔法並に速く撃てるのか……!」 


 吹っ飛ばされたサソリはシャチの目の前まで飛ばされ横たわった。それを見てシャチはサソリの首を右手で掴んだ。


「うっ……!」


「お主はワープで逃げられるから捕まえるとしよう。儂がお主に触れていればお主がワープの魔法を使って逃げようとしても儂も共にワープされるじゃろう。違うか?」


 シャチはサソリにそう質問すると、石の魔法で作ったいくつもの細くて赤い色をした鉱石の様な物を自身ごとサソリの全身を巻き付けた。


「まずいな……確かにシャチの言う通り私の不自然魔法は触れている人を飛ばすものだ……」


 サソリはそう思うと、シャチは赤い石による締め付けを強くしていった。


「ゔっっ……!」


 サソリは全身に強い毒の魔力を込めたが、自身を巻き付ける赤い石は溶かせなかった。


「さぁ……儂が猛毒で落ちるかウルツァイトで落ちるか我慢比べじゃ……」


 シャチがサソリにそう言った瞬間、突然シャチとサソリがいる場所が四方八方うみの中になった。


「これは……!?」


 シャチは驚きの表情になって口から息が溢れた。一方でサソリは息を止めていた。


「共に沈もうか」


 サソリとシャチはうみの下へと沈んでいった。


 数秒後、サソリ一人がアワビ城の大広間に倒れる様にワープした。


「危なかった……息が溢れながら私を締めようとするとは……だが同様したお陰で魔力が弱まり、光線でシャチを下へ押し出して一人になれた……」


 サソリは真剣な表情から笑い顔へと変わった。


「私一人でバトル大会に出れば優勝必然と言われるあの二人を出し抜いたぞ……!!」



 一方その頃、海・潮・凪・バケダラ・ライノの五人はアワビ帝国にあるワープ施設の入口付近に集まっていた。


「颯と爽……来てないね」


 ライノは心配そうな表情でそう言った。


「私……実は襲われたんだ……! もしかしたら爽と颯にバレてたのかもしれない……!」


「バレてたってムベンガ救出をか?」


「なんか颯について知りたがってたけど……」


「颯だと?」


「なんか……やっぱりこの件に首突っ込むべきじゃなかったかも……」


 凪がそう思った時、バケダラはガラケーを取り出した。


「連絡が来ている……爽か颯かもしれない……!」


 バケダラは通信機器の画面を見ると、サヨリの名前が表示されてあった。


「サヨリさん……! ここに来てくれるのかな……?」


 バケダラはサヨリと電話をし始めた。バケダラはスピーカー通話に設定した。


「私もアワビ帝国に来たけど……みんな大丈夫? どこにいるの?」


「それが……爽と颯が連絡出来なくなったんです……!」


「え!? どうしましょう……まさか勝手に城に乗り込んでいる訳は無いだろうし……」


「それはかなりあり得るな」


「とりあえず私がいる店に来て。場所を教えるから」


 サヨリは電話越しにバケダラへ自身がいる場所を伝え終えた。


「場所は分かった?」


「分かりました!」


「無理はしないでね」


 サヨリはそう言うと通話が終わった。


「とりあえず……サヨリさんが伝えてくれた店に行こう。そこに行けばサヨリさんが来てくれるはずだから」


「その店名を教えてもらったが地図でも無いと分からんぞ」


 潮はそう言うと、バケダラはアワビ帝国の地図を取り出した。


「ここ!」


 バケダラは店がある所に赤ペンで丸付けて潮にその地図を渡した。


「ここか……よし! 取りあえず行くぞ!」


 潮はそう言ってまもなく、バケダラ以外の四人は歩き始めた。


「ん? どうしたバケダラ行くぞ」


「私……くノ一だから城に侵入して爽と颯を助けるね!」


 バケダラはそう言うと、城がある方向へと走り始めた。


「おい! 止めとけ!」


 潮はバケダラに向かってそう言ったが、バケダラは走るのを止めなかった。


「行ったぞ……大丈夫なのか……」


「……あいつなら大丈夫だろう」



 颯達がアワビ帝国に来た日が真夜中になった頃、颯達が捕まっている牢屋に誰かが入って来た。


「え……バケダラちゃん……!?」


「バケダラ……!!」


 爽と颯はバケダラが牢獄部屋に入って来たことに似付いて驚きの表情になった。


「今出られるようにするから」


「バケダラ……助けに来てくれたのか……」


「えっ! 凄っ! バケダラちゃん凄っ! さすがバケダラちゃん!」


「まさか……誰かが助けに来るとは……ご厚意に感謝します……」


 ウオノエはバケダラにそう言って頭を下げた。


 数分後、バケダラは刀を使って捕まっている三人の手首に巻かれてある縄を切った。


「みんな、脱出ルートを確保したから行こう」


「まじで凄いなバケダラちゃん……」


「しかし……ムベンガを置いて逃げるなんて……」


「颯君……残念ながらここは一旦引くべきだ……」


「……ムベンガは私が連れて行くから!」


 バケダラはそう言うと周りの三人は驚きの表情になった。


「えっ! バケダラちゃん……! 危なすぎるって!」


「私は大丈夫……エリートだから! 一人でムベンガを助け出せるから……!」


「本当に一人で大丈夫なのか!?」


「一人でやれるから……! その方が……やりやすい……!」


 バケダラは笑顔でそう答えると、爽は下を向いて悔しそうな表情になった。


「くそっ……! ダメだ俺は……! なんの助手助けも出来る気がしねぇ……!」


「そんなこと言わないで爽……! 爽は強いからもし私が失敗したら頼むね!」


「バケダラちゃんっ……」


 数十分後、一人のバケダラはムベンガがいる部屋に来て外から窓を開けた。


「は……颯……」


 ベッドで寝ているムベンガはそう呟いた。


「かわいそうに……好きな男から引き離されて……」


 バケダラはそう呟いて部屋に侵入した瞬間、毒の剣を右手で握るズワイガニから攻撃を受けた。


「うっ……」


 バケダラは苦しんだ様子になって膝を付いた。


「一応部屋の角の影に潜んでいてバレずにすんだな。まさか窓から来るとは……ここ城の四階だぜ」


「気配が分からなかった……忍者並に……」


「悪いな……忍者は体験したんだ」



 次の日の朝、バケダラは目覚めると全身が縄で縛られた状態になっていた。バケダラの目の前にはサソリと四つ子の傭兵全員がいた。部屋の窓は開いていた。


「お前は……颯と同じく魔法学校上級の生徒を卒業した者だな」


「……そうだよ」


「お前のせいで兄が脱獄した……どうしてくれる?」


「拷問だ拷問。俺にやらせてくれ。この間逃げられたから」


「拷問は無駄だと思うな。こいつ俺が忍者を体験しに行った時に見たくノ一の格好してるし。だからどうせお前は逃げられる」


「私は何も情報を漏らさないよ!」


「ズワイガニの言う通りだろうな……だったら死んでもらおう」


 サソリはそう言うと、手にしている杖に毒の魔力を込めた。


「おい、まじかよサソリ」


 ハナサキガニはサソリにそう言ったが、サソリは魔力をチャージし始めていた。


「普通の女だったらハナサキガニにでも渡すがくノ一だ。私や四つ子の傭兵が暗殺される可能性はある」


「それは確かにな……なら俺こんな危険な女いらねぇや」


「バイバーイ」


 ケガニはバケダラに向かってそう言って手を振り、サソリはバケダラに向かって光線を放った。


「うぅっ……!」


 縛られた状態のバケダラは光線に押されて窓から外に飛び出た。


「ここは四階だから相当な高さがあるぞ!! 落ちて死ぬなぁ!!」



 その日の昼、海・潮・凪・ライノ・サヨリの五人はアワビ帝国のとある店のベッドがたくさんある部屋で集まって話をしていた。


「バケダラとも連絡が取れなくなった……まさかバケダラも捕まったんじゃないか……」


 潮はそう話を切り出した。


「ってかそもそもこの店信用して良いの?」


 凪はサヨリにそう質問した。


「ここは……クマムシさんが良く来ているトレーニングクマムシジムです……」


「へぇ〜、学長が依頼した人か……相当強いだろうけど……」


 凪がそう呟いたその時、部屋に店のスタッフの服を着ている男が入って来た。


「あんた達、来たよ」


 店のスタッフはサヨリ達にそう言うと部屋に爽・颯・ウオノエの三人が入って来た。


「みんな! 無事だったんですか!?」


 サヨリはその場に来た三人にそう訊いた。


「まぁ……バケダラちゃんのお陰で……」


 元気無さそうな雰囲気の爽はそう答えた。


「では私はこれで」


 スタッフの男はそう言って部屋を出た。


「まず……学長……ムベンガちゃんは……」


「不甲斐ない……私が弱いせいで……」


 落ち込んでいる様子のウオノエは小さい声でそう言った。


「バケダラちゃんは……いないんですか……」


「はい……ここに来ていません……」


「くそーー!! バケダラちゃーーん!!」


 爽はそう叫ぶと、部屋の入口の扉が開いた。


「良かった……! 三人共ここにこれてる……!」


 部屋の扉を開けてそう言ったのはバケダラだった。バケダラの体はどこも怪我をしていない様子だった。


「バケダラちゃーーん!!」


「バケダラちゃん!! 無事だったの?」


「うん……でもムベンガは助け出せなかった……私捕まっちゃって……何とか逃げ出せたけど……」


「怪我はない!? バケダラちゃぁん!」


「うん! 怪我は無いよ!」


「良かった……!」


「よし! 後はムベンガを助け出すだけだな!! みんなで乗り込もう!!」


 颯は周りに向かってそう提案した。


「待つんだ颯君。作戦を考えよう」


「そうだな颯」


「確かに無策は無謀すぎる……」


 凪はそう呟いた。


「あの……まずクマムシさんとシャチさんを待ちませんか」


 サヨリは周りに向かってそう提案した。


「実は……私は依頼した二人がアワビ城に来たのは気付いたんだ。そして一回消えたことも……」


「消えた!? あのお二方が!?」


「二人はワープの魔法で消されたかもしれない……」


「クマムシさんは……この世界で最強の魔力を持つと言われているのに……」


「つまり……サソリの不自然魔法はワープ……」


 凪はそう呟いた。


「あぁ……一度私が単身で攻めた時に分かった」


「クマムシさんとシャチさんはどっか遠くに飛ばされたんですか……!?」


「恐らく……」


「……だったらみんな! 俺達だけでムベンガちゃんを救えるか会議しない!?」


 爽は右手を上げて周りにそう提案した。

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