十六話 バトル大会荒らし
(すまないみんな……!)
爽は心の中で謝り、サソリに向かって思いっ切り右拳を振るったが爽の右拳によるパンチは空を切った。
「うっ!!」
爽はサソリが放った子供の腕くらいの太さの光線に当たって倒れた。
「サソリ様!!」
サソリと一緒にいた兵士達はそう言ってサソリの元に駆け寄った。
「私はワープでパンチをかわし、カウンターで毒の光線を当てた。あいつはもう動けまい……捕まえておけ」
サソリがそう言った時、倒れていた爽が立ち上がろうとしていた。
「ム……ムベンガちゃんは何十年も颯を待ってたんだ……! それなのにお前……拐ってんじゃねーよ……!」
「私の毒を喰らっても喋れるとは……そこそこやるな。毒属性か」
(ごめん……やっぱ俺……女の子を傷付ける奴は許せねぇ……! だから……ここでぶん殴る……!!)
爽はゆっくりと立ち上がった。
「私の毒を喰らって立てるのか……!」
爽は毒の魔力を込められた右拳を振るってサソリの腹に当てた。
「……効かんな」
サソリは腹の部分に硬くて紫色の毒の塊を作って爽のパンチを受けていた。
(いてぇーー!! 触れた瞬間激痛が……!! なんだこの感覚は……!!)
「私は最強の毒の使い手。お前に勝ち目など無い」
「最強の毒……」
「そして最強の光線族でもある」
サソリは爽の髪の毛を掴んで爽の体を持ち上げて離し、素早く持ってる杖から爽に大木くらいの太さの光線を出して当てた。爽は近くの家の壁にぶつかるまで吹っ飛ばされた。
「これであいつはもう動けないだろう。捕まえておけ」
サソリはそう言うと、アワビ城に仕える兵士達が爽に向かって歩き始めた。
「サソリ!! 颯を捕まえたぞ!!」
その場に気を失っている颯を右腕と右肩で担いでいるタラバガニがケガニと共に現れた。
「お前らにしては仕事が早かったな……やるではないか」
「まぁな!」
「颯を捕まえたのは僕だからね」
「あぁ、ごくろう」
*
アワビ城の一室にあるベッドで横になっている颯が意識を取り戻し、飛び上がるように勢いよく起き上がった。
「起きたか」
颯がいる部屋にある椅子に座っていたズワイガニが颯にそう話しかけた。
「ここはどこですか!!」
「起きたなら黙って俺について来い。ムベンガに会いたいのならな」
「厶……ムベンガ……! ここにいるんですか……!」
「さっさと靴はけよ」
颯は近くに置いてあった靴を履き、ズワイガニと共に部屋を出た。
*
数分後、颯はズワイガニの案内でムベンガがいる部屋に入った。
「しばらく二人だけの空間にしてやる」
ズワイガニは部屋に入らずにドアを閉めた。
「ムベンガ……いるのか……」
颯はベッドで横になって眠りについているムベンガを見つけた。
「寝ているのか……実はムベンガを助けに来たんだがどうやら私も捕まってしまったんだ……!! すまん!!」
颯はムベンガを起こさない様に小さな声でそう言って頭を下げた。
「颯に……会いたい……」
「え……? 寝言か……? 私に会いたいのか?」
「颯に……会えた……!」
「え……え? 目を瞑っているように見えるが……!? もしかして夢で私と会った……!?」
颯はそう言ってムベンガを覆う布団をめくった。
「起きろムベンガ〜!! 現実にいるぞ!!」
颯は大きな声を出しながらムベンガの肩を何度も揺らした。
「うぅ……うぅ……」
ムベンガの体が揺らされたことによって、ムベンガの夢の中にいる少年の頃の颯の姿がボロボロと崩れ始めた。
「止めて……! 颯いなくならないで……!!」
ムベンガは消えそうな幼い姿の颯に触れる様に右手を伸ばした。
「大丈夫か!!」
ムベンガが伸ばした右手を颯は両手で優しく握った。その瞬間にムベンガがゆっくりと両目を開けると、目の前に成長した颯の姿があった。
「起きたか……!」
ムベンガは目の前の颯を見て一気に目が覚めた様に表情が変わった。
「は……颯!? 颯なんですか!?」
「実は私は子供の頃の記憶が戻ったんだ!! ムベンガが知ってる颯に戻ったんだ!」
「颯……会いたかった……!」
ムベンガはベッドから跳び上がって颯を抱き締めた。
「やっと再会出来た……やはりこの人は私の好きな颯そのままでした……」
「ごめんムベンガ……! 前に会った時には記憶が無くて……」
「いいんですいいんです……記憶が戻ればそれで……」
「なんか……ムベンガの手が冷たいな……」
「私……颯と別れてからずっと震えていました……」
「ごめん……」
「謝らなくて良いです……これで温まりますから……このまま離れないで下さい……」
部屋の扉が開いた。
「二人は離れてもらう」
部屋のドアを開けてそう言ったのはサソリだった。サソリは部屋に入って来た。
「ムベンガのお父さんと顔が似ている……あなたがサソリ……!!」
「やはりお前が兄の娘の意識を取り戻す鍵だったか」
「なんでムベンガを拐ったんだ!」
「幸せなお前等には気付けないことだ」
サソリはそう言い、持ってる杖の杖先から子供の腕くらいの太さの無毒の光線を颯に当てた。颯はその衝撃で倒れた。
「颯……!!」
そう叫んだムベンガは颯の元に駆け寄ろうとしたが、部屋にズワイガニ・ケガニ・タラバガニ・ハナサキガニの四人が入って来て、ハナサキガニは手に持っている毒の魔法で巨大なカニのハサミの様な武器でムベンガの首元を挟んだ。
「うっ……」
「抵抗すんなよ〜! ムベンガ!」
「……止めろ!!」
颯はムベンガの元に駆け寄ろうとしたが、背中に毒の魔法で作った矢が一本刺さった。
「ゔっ……これは……!」
颯はケガニの毒によってふらついたその時、ズワイガニが毒の魔法で右手で握るように剣を作りって毒の剣で颯を二回斬った。颯は倒れた。
「タラバガニ、颯を牢屋に運べ」
「分かった任せろ!」
タラバガニは颯を右腕で担いだ。
「止めて……! 颯をまた引き剥がそうとしないで……!!」
タラバガニは颯を担いだまま部屋から出た。
「颯はお前のいわば精神安定剤……お前がおかしくなったら会わせてやる」
ハナサキガニはムベンガを挟んでいる武器の毒の魔力を高めた。
「うぅ……」
「本当はお前と彼女になって遊びたかったが……一人の男に一途な光線族じゃ無理だな。遊ぶ代わりにいたぶってやろう」
「ほどほどにしろ。またすぐに壊れて颯を呼びに行かなきゃならんからな」
「へぇーい」
「後で僕とも遊ぼう〜ね〜」
サソリ・ズワイガニ・ケガニの三人はムベンガがいる部屋から出た。
*
数十分後、縄で両手を縛られた状態の颯はタラバガニにアワビ帝国城の牢屋の中に入れられた。
「うっ……!」
タラバガニは颯が入った牢屋の鍵を閉めた。
「すぐに開放するかもしれないからまたいつか会おう!」
タラバガニは颯に向かってそう言い放って部屋を出た。
「せっかく記憶が戻った状態でムベンガに会えたのに……!!」
「……そ……その声は颯か……!!」
そう言って颯に話しかけたのは颯と違う牢屋に入れられている爽だった。
「この声は爽か!! 爽も捕まったのか……!?」
「あぁ……不甲斐ないことに俺は……やらかしたんだ……」
「私もだ……なんとかしてここから出ないと……!」
颯は手に力を込めた。
「無駄だぜ颯……手を縛っている縄が魔力を封じる道具っぽいからな……」
「魔法は封じられているなら……もう誰かが助けに来てくれるのを待つしかないのか……!?」
「そうだな……俺がいくら力を込めても固く縛ってて無理だったから……待つしかないかもな……」
「そうか……」
「ってそうだ颯! ここに魔法学校の学長でムベンガちゃんのお父さんがいたんだ!」
「ムベンガの……お父さん!?」
驚いた時の表情をした颯は周りを見て別の牢屋にいるウオノエを見つけた。
「ムベンガのお父さん! 大丈夫ですか?」
ウオノエに颯が心配の言葉を投げかけると、ウオノエは顔を上げた。
「颯君……君もムベンガを助けに来てくれたのか……」
「俺はさっきまでムベンガちゃんのお父さんと話してたんだ」
「私がサソリを止めていれば……」
「謝らないで下さい……! とりあえずさっきムベンガに会ってきました……! ムベンガの心は少し良くなった様な気がするので……!」
「颯君……! ということは記憶が戻ったのか……!」
「そうなんです! 私はこの世界出身でムベンガと仲良しだった颯です!」
「と言うことは……颯君は両親に会ったことに……それか分身を飛ばしたのか……」
「ムベンガのお父さん……私の両親と知り合いなんですか……!?」
「あぁ……過去にお話をしたことがあってな……今も生きているはずだ」
「良かった……! やっぱり私の両親は生きているんだ……!」
「いやあの……今俺達が殺されそうなんだが……」
小さな声で爽はツッコんだ。
「そうだ確かに!! ムベンガのお父さん!! なんとか出られませんか!?」
「いや……私も早く出たいと思っているが……魔法を封じられては……二人共済まない……魔法学校の学長ともなった者が何も出来ないとは……本当に情けない……!!」
「何とかしないと……!! ムベンガが心配だ……!!」
「落ち着くんだ颯君……私が捕まっても良いように最高に頼れる方々に頼んでおいたんだ……」
「そうだぜ颯! ムベンガのお父さんによると学長には別の作戦があったんだ!」
「別の作戦……!?」
「私は私より遥かに強いお二人にサソリ討伐の依頼をしておいたんだ」
「ムベンガのお父さんより遥かに強い二人って……」
「依頼したのは私と同じ最強レジェンドの二人……その二人に依頼すれば相手がどんな強者でも倒して解決する……」
「その二人……もしかして……クマムシさんとシャチさん!?」
「お前知ってたのか」
「クマムシさんとシャチさんはお父さんが過去に仲良くしていた人って聞いたことがあったんだ……」
「颯君に詳しく説明しよう……現在シャチさんはヒトデ村の村長をやっている」
「村長……」
「あぁ……そしてもう一人のクマムシさんはバトル大会に出れば優勝必然と言われている男だ……二人共年齢が四十を突破した時にすぐ最強レジェンドに選ばれた……」
「優勝必然ってヤバぇよな……」
「そうだ……! クマムシはよくバトル大会で優勝したって聞いたことあった!」
「私が依頼したときは二人は既に何かのトラブルに突っ込んでいる途中と言われ……引き受けるのに二週間程かかると言われた……」
「え……もう二週間経ってますよ……!」
「あぁ……もしかしたら今日来てくれるかもしれない……」
*
一方その頃、アワビ城の入口の扉の前に髪の毛が全く無くて筋肉ムキムキの者と白髪で上半身がTシャツだけの者の四十代くらいの男二名がいた。
「すまぬな魔法学校の学長……遅れてのう」
白髪の方の男がそう言った。
「ここがアワビ城か……!!」
「……連絡を受けた学長の秘書によると学長も捕まったらしい……じゃから儂らだけでサソリを倒すぞクマムシ」
「……分かった!!」
クマムシと言う名の男はそう意気込んで右拳に魔力を込めてアワビ城入口の扉に向かってパンチしてアワビ城の入口の扉を一瞬で灰にさせた。
「よし! 突撃だシャチ!!」
シャチとクマムシは城の中に入っていった。城に入ってすぐ大広間に出た。
「凄い戦いやすい所だな!」
「おいクマムシ……気付いておるか」
「あぁ! 入ってすぐ強い魔力を感じたぜ!!」
クマムシはそう言って斜め上前を見ると、目の前にある広い階段を登った先に杖を手にしているサソリがいた。この時サソリが手にしている杖は兄の前で手にしていた物とは違う物だった。
「サソリ!! 俺と勝負しよーぜ!!」
「兄が無策でここに来たのはおかしいと思ったが……やはりお前らが控えていたか……」
「降りて来いサソリ! 勝負だ!!」
「うるさいな」
サソリはクマムシに向かって物凄く強い魔力を込めて大木くらいの太さの光線を放った。
「さすが強い魔力だ! 受けてやる!」
クマムシはそう言って右拳に火の魔力を込めた。
「なんじゃ……あの光線からは毒の魔力を一切感じぬ……まさか不自然魔法……?」
「良いぜ来い!!」
「受けるんじゃない!!」
「……え?」
クマムシはサソリが放った光線が当たった。するとクマムシはその場から姿を消した。
「……何とか消せたな」
サソリはそう言ったその時に持っている杖が粉々に砕けた。
「やるなお主。クマムシを消すとは」
「うるさい者が消えた所で話だ。お前らがここに来た理由は魔法学校の学長からの依頼だな?」
「そうじゃがお主……見事にクマムシ対策をしたな。クマムシを消したのは不自然魔法か? それとも不自然魔法の効果をまとった今さっき折れた杖か?」
「どちらも正解だ。私はお前達二人がいつ来ても良いように杖に強い魔力の不自然魔法を込めていた。杖が壊れるギリギリまでな」
「なるほど……不自然魔法がワープとは厄介じゃな……」
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