十五話 颯捕獲作戦

「ちょっと待て!! この二人今さっき会ったぞ!!」


 タラバガニは凪とライノを指差してそう言った。


「本当か……? ならもう一度会って颯を城に連れて来させろ」


「よし!! 余裕で連れて行くぜ!!」


「お前なら力ずくで連れて行くのは余裕だと思うが……うっかり殺すなよ」


「あぁ!! すぐ連れて来てやろう!! ふん!!」


 タラバガニはそう言って全身を力み、勢い良く部屋から出た。


「タラバガニ……まだ話は終わってないが……まぁ良い」


「他に伝えたい情報でもあったのか」


「コピーした写真を渡すのと、写真に写るこいつらは魔法学校の上級の生徒を卒業した者達だと言う情報だ」


「上級の授業? あぁ……魔法学校内で強いが人気が全く無い先生か。噂で聞いたな」


「上級の授業を指導する者は兄が認めた強者だ。その強者が認めた子供達に油断するなと言いたかったが」


「気にし過ぎだろ。もし俺達四つ子の傭兵がその上級の生徒になったならすぐ卒業出来るだろうぜ」


「卒業ならまだしも一人の先生がバトルで負けたらしい。その先生に勝った二人は魔力を宿したばかりだと聞く」


「なんで分かった? 上級の先生とやらを倒したと言うのは」


「ワープ施設で自慢話をしていた」


「……その二人は?」


「この二人だ」


 サソリは写真に写っている海と爽の二人を指差した。


「特にその二人を注意すれば良いってだけだな分かった」


「悪いがズワイガニ、お前には兄の娘の監視を頼む」


「え?」


「ケガニが退屈だと言ってきてな」


「そうか……気持ちは分かるから譲ってやろうか」


「話は終わりだズワイガニ」


「ムベンガはちゃんと見張っとくよ」


 ズワイガニはサソリにそう言って部屋を出た。


 数十分後、サソリがいる部屋の扉が開いて髪がどい男の二人が部屋に入って来た。


「ケガニとハナサキガニ、お前達遅すぎる」


「いや〜ムベンガちゃんが暴れ出してね〜……今大人しくしてますけど……」


「遅れた理由は女遊びのきりが丁度良くなったんで〜」


「全く……しばらく城は警戒態勢にする。ハナサキガニ……女遊びは控えてくれるか?」


「ここは女遊びする所だが……? ってかいつになったら俺はあの美少女ムベンガと遊ばせてくれるんだ?」


「まぁまぁ、サソリさんには考えがあるんだよ」


「……この写真を見ろ」


 サソリはそう言うと、颯達七人が写っている写真を目の前のテーブルに置いて颯を指差した。ハナサキガニとケガニはその写真を見始めた。


「この男を見つけて連れてきて欲しい。ハヤテと呼ばれていた男だ」


「おぉ! こいつがムベンガちゃんが良く言っているあの颯か!?」


「その颯かは定かではないが一応捕まえよう」


「ふ〜ん。なら俺はこの女でも狩って行くか」


 ハナサキガニは写真に写っているバケダラを指差してそう言った。


「相変わらずだな……ならその女から情報を吐き出させろ」


「へ〜い」


 ハナサキガニはそう返事すると、サソリは二人に颯達七人が写った写真をそれぞれ一枚ずつ渡した。


「じゃあ行ってくるわ〜」


「ぼくも行ってきま〜す」


 ハナサキガニとケガニはそう言って部屋を出た。


(あの四つ子が本気でやれば必ず成し遂げられるはずだが……)



 ハナサキガニとケガニはアワビ帝国の城の外に出て城の門の前で話し始めた。


「俺は西側を調べる。お前は北側な」


「分かってるよ。北は空き家が多いから罠も仕掛けやすいし。さらに北は城がある所だから見に来ている可能性はある。だけどなんでハナサキが西側?」


「ムベンガを奪還するにはまず城に行く必要がある。城に行く方法を知るには聞き込みをしなければならない。手分けしてグループを分ける時、女がいる組がうろうろするとしたらワープ施設がある西側なんだよ」


「なるほどね! さすが女の行動パターン分かってる〜!」


「それじゃあ……女狩ってくるわ」



 颯達七人がアワビ帝国に来てから一時間経った頃、バケダラはアワビ帝国全体の西側にある建物の影にいた。


(だいだいまとめると……城に行った人はサソリに呼ばれていたぐらいしかいないから……城に入るにはサソリに目をつけられないといけないから……う〜ん難しい!)


 バケダラはおでこに右手を当ててそう思った。


(城に突撃するしか考えられないよー……!)


 バケダラはそう思った瞬間、バケダラの視界がぼやけて足元がふらつき始めた。


(め……めまい……!?)


「アワビ帝国は始めてか?」


 そバケダラの目の前にハナサキガニが現れた。


(敵が……いる……!?)


「純な女の匂いだけだなと思ったが、やはり男とかがいなくて一人か。かわいそうになぁ〜……女を一人にして」


(え? 匂いでバレた……!? って純な女の匂いってなに!?)


「俺さぁ、はやてとか連れて来いとか言われてもどうでもいいんだわ。だから俺と一緒に呑みに行かない?」


(颯のことを知っている……!? ってことはサソリが送りこんだ敵……!?)


「あっ……年齢教えてくれない? もしかして未成年?」


(……逃げないと!)


 バケダラは息を止めてフラフラになりながら走り出した。


「逃げんなよ獲物!」


 ハナサキガニはバケダラを追いかける様に走り始めた。


「あんたの体のことや色々答えてくれたら俺はなんでも答えるし何でもする。俺の元に来いよ」


(どうしよう……逃げた方が凄く良いような気がするけど……なんでもって言ったから……いや駄目だ……信用出来ない……)


「俺が怖いのかい? じゃあ足を止めたら特別に何もせずに一つだけ質問に答えてやる」


 ハナサキガニはそう言うとバケダラは足を止めた。


「……城に入るにはどうしたらいいですか?」


「城にねぇ……やはり狙いはそれか」


 ハナサキガニは毒の魔法で巨大なカニのハサミの様な物を作って右手で握った。


「槍……!? 違うハサミ……!?」


「俺がこいつで挟みながら城へ連れて行ってやるよ」


「やっぱり逃げよう……!!」


 バケダラはハナサキガニから逃げようと走り出したが、バケダラは転んだ。


「気体の毒の魔法……あんまり吸ってないつもりだけど魔力が強い……!」


「逃げるのか? 俺が楽にして連れて行ってやるのに」


「……ごめんなさい!」


「ちっしょうがねぇ。逃げるなら捕まえるだけだ」


 バケダラは立ち上がって走ろうとしたが再び転んだ。


「そもそももう逃げることも出来ねぇか?」


(毒の気体を操る……それはかなり高度な技……この人ヤバい……!)


 ハナサキガニは作った武器をバケダラに向かって振るったがかわされた。


(危ない……!)


「へぇ……かわせるのか。だが捕まるのも時間の問題だな」


(くノ一の私を捕らえる直前まで……!! こうなったら……!!)


 ハナサキガニは手にしている武器を伸ばしてハサミ部分でバケダラを挟んだが、それはバケダラでは無くて小さい丸太だった。


「はぁ……!? なんだこれ!? これって身代わりの術か!? く……くノ一って超レアじゃねぇか……!」


 ハナサキガニの武器のハサミ部分が開いて丸太が落ちた。バケダラはその場にいなくなっていた。


「面白い! 俺はくノ一と遊んだことねぇから絶対に捕まえてやる!」



 爽と颯はアワビ帝国の北側を歩いていた。


「なぁ颯……強行突破してみねぇ?」


「え!? いや! 強行突破はだめだ! 大きな騒ぎになるからだめだと話しをしたただろう!」


「じゃあ……こっそり行けばなんとかなるんじゃないか?」


「こっそり……なるほど……こっそりなら大丈夫かも知れない……!!」


「一回さぁ、こっそりと城の近くに行ってみないか? 行こうぜ。覗くくらい良いだろ……」


「覗くくらいなら行ってみよう!」


「よし! 城に行ってみようぜ!」


 爽と颯はアワビ城の近くに来て、二人は木に隠れながら城を見ていた。二人とアワビ城の距離は50メートル程あった。


「あそこにムベンガがいるのか……」


「俺は乗り込みたいが……俺と颯じゃあ心もとなさ過ぎるからな……」


「ムベンガ……」


「ムベンガちゃんを助ける方法は絶対あるはずだ……! 戻ろう」


 爽はそう言った瞬間、近くの地面に矢が一本刺さった。


「え? バレた!?」


 爽は驚きの表情でそう言って地面に刺さった矢を見ると、溶けて消えた。


「颯逃げるぞ……!!」


 爽と颯は城がある方向とは逆の方向に向かって走りだした。


「私達がムベンガを救出することがバレたのか!?」 


「城の近くに来ただけだが……これはまずいっ……!!」



 数分間走り続けた颯は爽とはぐれて人気が無い住宅街にいた。


「しまった……!! いつの間にか爽とはぐれた……!! 爽はどこだ!?」


 颯はそう言いながら周りを見渡した。


「ここらへんはね。空き家が多いんだよ」


 颯の視界からは映らないどこからかケガニの声が聞こえてきた。するとどこからか毒の魔法で出来た矢が飛んできて地面に刺さった。


「矢!? 敵か!?」


「写真で見た颯じゃん。絶対に仕留めるぞ」


 何処かの家のバルコニーにいるケガニはそう呟くと、颯に向かって弓を引き絞って毒の矢を一本放った。


「連続で行くよ!」


 ケガニは颯に連続で毒の矢を放った。颯はケガニから放たれた矢をよけようと走ったが、いくつか体に刺さった。


「これは……毒か……!!」


「やったね」


「うっ……!! なんとかこの場から離れないと……!」


 一軒の家の玄関の扉からケガニが出て来て颯の前まで歩いた。


「ねぇ君さぁ。ハヤテって言うんじゃない?」


「えっ……!? なんで私の名前を……!?」


 颯はケガニにそう聞き返すと、ケガニはニヤついた。


「やった! 当たりだ!」


 颯は弱って倒れながらもケガニに向かってブーメランを投げたが、ケガニは軽々しくよけた。


「ムダだあがきだね。大人しくしてなっ!」


 颯は風の魔法で作った刃をいくつもケガニに向かって飛ばしたが、ケガニは全てかわして颯に何本も毒の矢を刺した。


「うぅ……」 


 颯は苦しみの表情を浮かべながらうずくまった。


「安心していいよ。颯は呼ばれていたから」


「呼ばれていた……?」


 颯の意識が遠くなっていき、颯は気を失った。


「あ〜終わった終わった。まさか兄弟の中で一番弱い僕が颯を捕まえられるとはね! タラバを呼んで颯を連れてってもらおう!」


 数十分後、爽はアワビ帝国の城の入口付近に戻って来ていた。


(くそ……颯いないか……もしかしたら颯が囮になっている内に城に入れるかと思ったが……それは止めとくか……)


 爽がそう思ったその時、城の入口の扉が開き始めた。扉から兵士を数人引き連れているサソリが出てきた。


「なんか魔法学校の学長室で見たことあるような雰囲気の顔だな……って! サソリか!?」


「隠れている者の魔力を感じるな……」


 そうサソリは呟いた。


(魔力を感じる……!? ヤバい……! 魔力で俺がバレてる!? 抑えろ!! 抑えるんだ俺の魔力!!)


 爽は心の中でそう叫ぶとサソリと共に行動している兵士達がサソリの前に出て並んだ。


「やべー! って兵士達全員女性!? 捕まりたい……じゃなくて逃げなきゃ!」


 爽は逃げようと走り始めたが複数の兵士に囲まれた。


「配置はえぇ……! いくらなんでも早すぎる……! 魔法でも使ったのか……!?」


 爽はそう思っていると、サソリが爽の目の前に現れた。


「お前は……颯の知り合いだな」


(近っ! なんだこの移動速度……!)


「早く答えろ」


「……さぁ」


「颯と言う者はどこにいる?」


「颯……? それは誰だ?」


 爽はとぼけた顔でサソリの質問にそう答えた。


「知らないフリをするな」


(俺……ピンチじゃね)


「早く答えろ。私がどれだけの男か知っているだろう。大人しく言えば見逃してやる」


「どうせバレてんのか……実は俺……颯とはぐれたんだ……」


「ならば連絡を取れ。知り合いなのは分かっている」


「俺さぁ……なるべく女の子と連絡したいんだよね……なんて」


 爽はサソリに向かってそう言うと、サソリは手にしている杖の杖先から爽に子供の腕くらいの太さの光線を当てた。


「いてぇな……!」


「答えろ」


(なんか知らんが颯を探しているっぽいな……城に入れるチャンスだけど……捕まりに行くようなもんだし……取りあえず連絡して逃げろと伝えるか……)


 爽はそう思いガラケーを取り出していじり始めた。


「分かった……颯と連絡する……颯……? あれ……繋がらない……」


 爽はスマホで颯と連絡を取ろうとしたが、全く繋がる気配がなかった。


「繋がらない……! なんで出ないんだ……!」


「繋がらないか……考えられるとすれば私が雇った者が捕まえたか」


「え……!?」


「颯を捕まえたのなら報告が来るはずだが……」


「……あんたなんで颯を捕まえようとするんだ?」


「兄の娘がどうしても颯に会いたがっていてな」


「やっぱり……ムベンガちゃんは城にいるんだな……」


「あぁ、私が攫ったからな」


 サソリは爽に言うと、爽は右拳を強く握った。

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