八話 半透明の親
「なんとしても地面への激突は避けなければ!!」
ウオノエは地面に光線を当て始め、落下のスピードを遅くしていった。
「魔力よ……もってくれ……!!」
ウオノエは数分間地面に光線を当てて落下していき、地上に体に強い衝撃を喰らわせずに着地した。着地した場所は魔法学校の近くにある公園だった。
「はぁ……はぁ……なんとか無事に地上に降り立ったが……魔力がほとんど無くなってしまった……サソリがいる魔法学校に戻らなければ……」
ウオノエはふらふらな状態で目の前にあったベンチに座った。
「これから……どうする……ムベンガ……サソリ……」
声の音量がだんだん小さくなっていくウオノエは疲労のせいか眠りについてしまった。
*
次の日の朝、自宅に戻っていたウオノエは自身の部屋でガラケーを耳に当てて魔法学校にいる女性と通話を始めた。
「サヨリ……今日から私はいなくなる。その間私の代わりを頼む」
ウオノエはサヨリという名の者にそう告げた。
「急に!? そんな困ります!!」
「行かなきゃいけないんだ」
「ど……どちらへ行かれる予定なんですか!?」
「アワビ帝国……」
「え!? 欲求不満……とかですか? 引きます……」
「娘がそこに連れてかれたんだ……」
「え!?」
サヨリはウオノエの娘が攫われたことを告げられて驚きの表情になった。
「大丈夫……なんですか?」
「あぁ……もう娘を奪還する為の準備は出来ている。突然ですまない。私は行かねば……」
ウオノエはサヨリとの連絡を切った。
*
一方その頃、海・爽・颯・サギフエの四人はサギフエの家の中の玄関にいた。
「よし颯!! ムベンガちゃん家の案内を頼む!」
「分かった! 私は寝て元気になったから任せて欲しい!」
「やっぱり行くの? ムベンガの家に」
「直接向かいに行った方が良いだろう!?」
「颯……直接行くのは良いけど家の場所は覚えているののよね?」
「あぁ! 魔法学校の学長の家がどこか訪ねれば良いんだ!」
「やっぱり覚えて無いのね……」
「サギフエ、海も私達と付いていくのか?」
「えぇ、あんたも付き合うのよ海。あなたはもし爽と颯が暴走しだしたら止めるのよ!」
サギフエにそう言われた海は嫌そうな表情をしていた。
「凄く嫌そうね海……私もムベンガには興味無いから気持ちは分かるけど……」
「いやいらないって! 俺と颯の二人だけでムベンガちゃん家に行くから!」
「本当は冷静で頼りある人が見張って欲しかったけど……あまりにも海が嫌な顔をするから二人でいいわ。颯と爽以外のみんなは魔力を宿した教室の階にある図書室で勉強してるから」
「分かった!」
「行ってくるぜ! サギフエちゃん!」
*
一時間程経った頃、颯と爽はムベンガが住む家に来ると扉の修理が行われていた。
「なんか扉を修理してないか!? 颯! お前扉壊したのか!?」
「いや……そんなにチカラ強く閉めて無かったはずだが……」
爽と颯は扉を修理しているおじさんに訪ねようと近付いた。
「あの……何かあったんですか?」
颯は扉を修理しているおじさんにそう聞いた。
「さぁ……学長さんからはいたずらを受けたと聞いただけで……くわしい話は学長に聞いてみたらどうだい?」
「おっさんムベンガちゃんは?」
「学長さんの娘かい? 見てないねぇ……」
「……分かりました! ありがとうございます!」
颯は話をしてくれた扉を修理しているおじさんにお礼の言葉を贈った。
「まさか……ムベンガちゃんに何かあったんじゃ……!」
「取り敢えずムベンガちゃんの父がいる魔法学校に行ってみよう!!」
「分かった行こう!」
*
数分間走って移動した颯と爽の二人は魔法学校の前に到着して魔法学校内へと入っていった。
「ムベンガいないな……」
「ってかお前……ムベンガちゃんとどこで待ち合わせしてるか決めてたのか?」
「……しまった! 決めてなかった! もしかしたらどこかの図書室に行ってるかもしれない!」
「何やってんだよ……じゃあみんながいる所に行ってムベンガちゃんを探してもらうよう話してみるか?」
「すまん……! 一回みんなと話そう……!」
「あぁでも俺トイレ行きたくなったから先に行け!」
爽は颯にそう言うと、二人は別行動となった。
*
一人の颯はサギフエ達がいる魔法学校内の図書室に向かおうと歩いていた。
「ムベンガ……魔法学校に来ているといいが……」
「颯……颯……こっちを見て……」
颯の耳に静かな声でそう言う女性の声が響いた。
「……え?」
颯は女性の声がした方に向かって歩き、人目が付き辛い所まで来た。そこには半透明の男女が二人立っていた。
「す……透けてる!!」
「颯……あなたのお母さんとお父さんよ……」
半透明の女性は颯に向かってそう主張した。
「え!? お母さんと……お父さん!?」
「しっ……! 静かに頼む颯……!!」
半透明の男は颯に小さい声でそう注意した。
「はい……ってあれ……私に親はいなかったような……」
「颯は親はいなかったと
「え?」
「颯、お前は地球生まれではない!」
「えーー!?」
「わけあって颯は小学五年生の頃にこの世界から地球に転移したんだ!」
「……どういうことなんですか!?」
「颯や母さんは……人に狙われる力を持っている……だから私達は神と約束した。颯が大きくなるまで地球に住まわせることを」
「何を言ってるか分からないです!」
「……まずは颯にかけていた記憶を改変する魔法を消しましょう」
半透明の女性はそう言って颯の頭に右手を乗せて掌に魔力を込めた。
「これで元に戻ったはずです」
「うわぁ……! 色々思い出したぁ……!」
颯はそう言うと、半透明の颯の母は目から涙を流して颯に抱き着いた。
「颯……会いたかった……」
「お……お母さん……」
「大きくなったな颯!」
「お父さん……」
「颯……寂しい思いさせてごめんなさい……!」
颯は母にそう言われて涙目になった。
「そんなことないです!」
「悪い……もう消えなきゃいけないんだ」
そう言った半透明の颯の父の顔は真剣な表情に変わっていた。
「え!? もうですか!?」
「今……私の本体は私の力を狙う者に追われていて……本当は昨日颯に映像を飛ばそうと思ったのだけど……」
「え……!?」
「とにかくだ颯! 安全な時に必ず会ってゆっくり話そう!」
「え!? 待って下さい!!」
「ごめんなさい颯……またゆっくりお話しましょう……!」
半透明の颯の両親二人は颯の前から完全に姿を消した。
「お母さん!? お父さん!? 消えた……」
颯は両親がいた場所に手を伸ばしてみたが、何も触ることが出来なかった。
「どうなっているんだ……!? でも元気そうで良かった……! どうかお無事で……!」
颯は振り返って歩き始めた。
「そうだムベンガ……! 思い出した……! 私が地球に行く前に仲良くしていた女の子だ……!!」
颯は昨日会ったムベンガが会いたがっていたと言う颯が自分であることに気付いた。
「そうか……それも忘れていたんだ……! ごめんムベンガ! もう思い出したから!」
*
颯は自身が魔力を宿した教室の476階にあるサギフエ達がいる図書室に入った。
「颯か?」
颯は図書室に入って間もなく近くにいた潮に話しかけられた。
「潮……!」
「迷っていたのか?」
「みんなと話がしたいんだ。集まってもらってもいいか?」
「あぁ」
海・爽・颯・潮・凪・サギフエ・ライノの七人は一つのテーブルを囲んで椅子に座り、話し始めた。
「お前めっちゃ遅かったな……お前もトイレだったのか?」
「いや、トイレではなく記憶だ……!」
「え?」
*
颯は周りの六人に自身の記憶が戻ったことを話した。
「えぇ!? 颯はこの世界で生まれたのか!?」
潮は驚きの表情になり、その台詞を大きな声で言った。
「潮、うるさいと思う」
凪は潮にそう指摘した。
「実はそうだったんだ……」
「そうだったって……記憶でも失っていたのか?」
「失ったのでは無く、別の記憶になっていたんだ……!」
「それってその記憶を変えたのは誰? なんでなの?」
「私の記憶を変えたのは母で、理由は特別な力があるらしい……」
「つまりムベンガちゃんが好きな颯はお前だったってことだろ?」
「あぁ……ムベンガのこともはっきり思い出した……」
「じゃあムベンガちゃんに早く会いに行かないとな。扉が破壊されて嫌な予感がするし」
「扉が破壊? なにそれ……?」
「サギフエちゃん。ムベンガちゃん家の玄関の扉が失くなってたんだ……」
「えぇ……事件起きてるじゃない……」
「そうだ……! ムベンガのことや扉のことなどはムベンガのお父さんに聞いたら分かるかも知れない……! ムベンガのお父さんは魔法学校の学長だから学長室に行ってみよう……!」
*
颯と七人は魔法学校の学長室の所に行って扉をノックして部屋の中に入った。
「何か用ですか……?」
学長室にいるサヨリは入って来た人達にそう聞いた。
「ムベンガのお父さんがいない……!? あなたは……!?」
「はい。私は学長の秘書のサヨリです」
「あの……! 学長のことについてお聞きしたいのですが……!」
颯はサヨリに向かってそう話を切り出した。
「また学長の娘のムベンガちゃんが攫われたことについてですか……」
「え!?」
「ムベンガちゃん攫われたんですか!?」
「知らなかったの……てっきりムベンガちゃんを追っているファンかと……」
「ムベンガちゃん美しいから攫いたくなる気持ちも分かるが……許せねぇ……!」
「爽……真面目にな」
潮は爽に小声でそう指摘した。
「あなた達もファンみたいですね……残念ながらムベンガちゃんについては教えて差し上げられません」
「ニュースになってたの……? それともファンにはすぐバレるのかしら……いやどうでも良いわね」
「何か知ってるんですか!?」
「えぇ……私は学長の秘書なので」
「ムベンガは私の幼馴染です!!」
「え? 幼馴染……?」
颯の言葉を聞いたサヨリは颯の顔を見つめ始めた。
「あなたは……颯君?」
「私を知っているんですか!?」
「いえ……知りません……」
「何? はっきりしないわね」
「とにかく! 情報を教えるわけにはいきません! 帰って下さい!」
「いいえ! 教えてもらうまで帰りません!」
「気持ちは分かるが颯……秘書は仕事があって忙しいと思うが……」
「あなた達には無理です! 帰って下さい!」
(急にキレたわね……頑固そうな秘書かしら)
「……ムベンガを攫った犯人の名前はサソリですか?」
凪が小声でサヨリにそう聞いた。
「え……!?」
「サソリ……何処かで聞いたことある気が……」
颯はそう呟いた。
「凪、サソリって誰だ?」
「さっき噂で最強レジェンドっていうのが発表されたって言ってて……その風属性に学長が選ばれてたって言ってた……」
「学長? それに最強レジェンドってなんだそりゃ。強い年寄り?」
ライノはサギフエにそう聞いた。
「最強レジェンドはね……簡単に言うと四十代以上の強い十人よ。その十人は自然魔法の属性ごとに分けられるわ」
「それで僕……最強レジェンドの全員の顔を映像で見たけど……毒属性の最強レジェンドのサソリって人が風属性の人と顔が似ていた……」
「なるほど……学長は空いていた風属性の部門に選ばれたということですか……いつの間に……」
「だから多分……そのサソリが怪しいと思って……」
「偉いぞ凪!」
「秘書ちゃんがサソリって言葉に強く反応したからそいつで間違いない筈だ!」
「学長と似ている顔の人がいるのは気になるな……確かに因縁がありそうだな」
「サソリは確かアワビ帝国の一番偉い人の名前ね」
「アワビ帝国……そこに行けばムベンガちゃんがいるかもしれないんだな!」
「アワビ帝国か……行ってみよう!」
颯は周りにそう提案すると、サヨリは机を両手の掌で強く叩いて勢い良く立ち上がった。
「サソリに会いに行こうとするのは止めた方が良いです。絶対に」
「それはやはり……アワビ帝国にムベンガがいるってことなんですか!?」
「……あなた達には一応話しておきます。多分ほっといてもアワビ帝国に行くでしょうから」
(特に爽と颯は止められても行きそうだからな……)
「ムベンガちゃんを攫ったのは学長の双子の弟のサソリで間違い無いです。まずあなた達では絶対に敵いません」
「秘書ちゃん! 俺は強いですよ!」
「爽、秘書ちゃんとか変な呼び方しないで取りあえず落ち着いて話を聞け」
「サソリは最強レジェンドなんですからまずあなた達が敵うはずがありません!」
「理由は!? 何故ですか!?」
「颯落ち着きなさい。あなたは魔力を宿したばかりでまだ弱いでしょう!」
「う〜ん……最強レジェンドってやっぱ強いんだろうけど……ちょっと歳食ってるんだろ……?」
「魔法は放てば放つほど魔力の量とパワーが大きくなります。最強レジェンドに選ばれた者は皆、魔力がとてつもなく強いはずです。運動能力で勝っても魔法によってあっさり敗けるでしょう」
「それは我達が太刀打ち出来るはずがないな。ただの若さでな」
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