七話 双子の光線族

 ムベンガは連続で颯の頭を壁にぶつけていた。


「どう見ても私が大好きな颯なのに……!」


 ムベンガは颯の頭を何度も壁にぶつけていると、颯は気絶した。


「あっ……!!」


 一時間後、颯は目覚めた。


「あの……大丈夫ですか……」


「ここはどこ……私は誰……」


 颯は記憶を失っている様子だった。


「颯……なんてことに……! ごめんなさい……! 私が取り乱したばっかりに……! また頭をぶつけないと……!」


 ムベンガは颯の頭を一回壁にぶつけた。


「いた……! あっ! 思い出した! 私は颯だ!」


「もしかして……私のことを思い出してくれたんですか……!?」


「ご……ごめん……! やっぱり君のことは思い出せない……」


 ムベンガは颯のその言葉を聞いた途端に倒れた。


「大丈夫か……!?」


「だ……大丈夫じゃないです……」


「あ……明日、魔法学校で一緒に勉強しよう! 無料で図書室で本読めるらしいから、みんなと楽しく過ごそう……!」


「颯に明日も会える……」


 安堵の表情を浮かべたムベンガは突然眠りについた。


「まだ私のことを幼なじみの颯だと思っていたな……そんなに似ていたのか……このままだと風邪引くかな……」


 颯は着ていた上着をムベンガに被せた。颯は家の玄関まで来て玄関の扉を開けた。


「明日魔法学校に来て欲しい……! ムベンガ……!」


 颯はムベンガが住む家から外に出た。



 颯はサンゴ町のサギフエの家に戻って来た。庭の手入れをしているサギフエの執事のオイカワが颯を見かけた。


「フラれてしまわれたのですね……」


 オイカワは颯の顔を見てそう思い、家の玄関の扉を開けた。


「中に入って下さい……」


「ありがとう……オイカワさん……」


 颯はサギフエの家の中に入って少し歩くと爽と会った。


「フラれたか。まぁ気持ちはわかるよ!」


 爽は颯の背中を一回軽く左手の掌で叩いた。


「ムベンガが小さい頃に颯という少年に会ったと言ったんだ……」


「あぁ? はやて?」


「ムベンガは颯のことが大好きだったのだが……離れ離れになってしまったらしいんだ……!」


「えー!? それは辛いな……あれ? 颯ってお前のことじゃなかったか?」


「そうだ……私の名前は颯だがムベンガが探していた颯では無い。漢字も同じだったが私にはムベンガと会っていた記憶が無いんだ……」


「ちょっと待て、何言ってんだお前?」


「つまり……私はムベンガが幼い頃に会っていた颯と同じ名前の颯なんだが違うということなんだ」


「ややこしいなぁ!」


「すまん……」


「つまりたまたま好きな男と同じ名前の人に会ってしまったのかムベンガちゃんは……」


「私は生まれも育ちも地球で過ごしたという記憶があるから……」


「それはさぞかしムベンガちゃんは辛かっただろうなぁ。マジでお前もうムベンガちゃんに会わない方が良いんじゃないか?」


「いや! とにかく明日! 私はムベンガを元気付けたい!」


「あっそ……ってお前ムベンガちゃんと会う約束したのか!?」


「少しでもムベンガを元気付けたいからな!」


「ムベンガちゃんの連絡先ゲットしたってことか?」


 爽は颯にそう聞くと颯は服のポケットに手を突っ込んだ。


「あっ……!! ガラケー無い……!!」


「え? マジか……ってこの世界でガラケーなんか使えるわけないな……」


「そうだな……」


「もしかして大切なエッチな写真でも保存してたのか?」


「う〜ん……」


「まぁ失くした物はしゃーない。どうせこの世界で使えなくなる物だろうし」


「あのガラケーは使えなかったんだ……」


「ん……?」


「……そうだ! 私はムベンガに上着を被せたからそこだガラケーは!」


「なっ!? 美少女に上着を被せたのか……! 羨ましいなそのシチュエーション……」


 爽は颯にそう言った時、その場にサギフエが現れた。


「あんた結局私の家に戻って来たの?」


「あぁ……すまん……ここに帰って来てしまった……!」


 サギフエは颯の顔を睨む様に見つめ始めた。


「あんた顔色悪いわよ……部屋で休みなさい」


「わ……分かった……」


「サギフエちゃん! 俺も診て!」


「あんたは元気」


 サギフエは爽の顔色を見ずにそう断言した。


「じゃあ俺と遊ぼう〜!」


「悪いけどあんたと遊んでる暇はないわ。部屋に行きなさい」


「へーい!」



 数時間後、時刻は午後六時を回って空が暗くなり始めていた。この頃に部屋で寝ていたムベンガが目覚めた。


「颯……」


 ムベンガは颯と言って目覚めると、部屋に掛けてある時計を見た。


「私……こんなに寝ていた……?」


 ムベンガはその場に颯がいないことに気付いた。


「颯はどこ……!?」


 ムベンガはそう言って立ち上がろうとした時、颯が着ていた上着を被せられてそれが床に落ちたことに気付いた。


「これは颯の……」


 ムベンガは被せられていた上着に顔を当てた。


「くんくん……颯の匂い……」


 ムベンガが颯が着ていた上着を嗅いでいると、その上着のポケットに濃い緑色のガラケーが入っていることに気付いた。


「この色のガラケー私が颯にあげた物と色が同じ様な……」


 ムベンガは颯が着ていた上着のガラケーの電源を入れると、パスワードを入力する時の画面になった。


「私の知ってる颯の誕生日を入れてみましょうか……」


 ムベンガはそう言ってガラケーをいじっているとパスワード画面が解除された。


「パスワードが合ってました……一応彼女らしき人がいないか調べますか……」


 ムベンガはガラケーをいじっていると登録されている連絡先が一つも無いことが分かる画面が表示された。


「誰も連絡先を登録していない……私の連絡先は……?」


 ムベンガはさらにガラケーを調べようと指を動かすのを再開した。


「ピンポーン」


 インターホンの音が部屋全体に鳴り響いた。


「今は颯のことを調べているので居留守を使いま……もしかしたら颯かもしれません……! 向かいましょう……!」


 ムベンガは急ぎ足で玄関の扉の前まで歩いた。


「ムベンガ、開けてくれ。鍵を失くしてしまったんだ」


 玄関でそう言う男の声を聞いたムベンガは玄関の扉の覗き穴を覗くと、自身の父の顔の様な姿が写っていた。


「はぁ……お父さん……鍵は無いのですか?」


「……無くした」


「え……?」


 ムベンガは扉の前の男を見ながら何かに違和感を感じた様だった。


「開けてくれ、父のウオノエだ」


「……本当にお父さんですか?」


「あぁそうだ。疑っているのか?」


「あの……颯について何か話してくれませんか……?」


「ハヤテ……何だったか……?」


「颯のことを忘れるなんて……有り得ません」


「何を言っている。お父さんではないか」


「私はお父さんに颯のことを何度も話した筈なのに……」


「あぁ……! そう言えばいたなぁ。忘れていた」


「結構許せないのですが……別の質問をしましょう」


 ムベンガは扉の前にいる男へ新たな質問をする為に口を開いた。


「お父さんは颯のことを全く好きではないのでもしかしたら忘れていた可能性はあるかもしれないです……なら私の母の名前は分かりますか?」


「……プラティだろ?」


「母の名前は知っている……」


「何を怪しがっている……? 早く開けるんだ」


(怪しいけど……どうしたら……)


「全く……双子でも駄目か」


「双子……!?」


「派手なことはしたくなかったがまぁいい。お前の言う通り私はお前の父ではない」


 ムベンガの父の顔をしている男は手にしている杖から紫色で子供の腕くらいの太さの光線を出して扉を貫通させた。


「光線……!」


「性格の違いに勘付かれてバレたんだろうな……二卵性の定めか」


 ムベンガ玄関の扉の前に立つ男は持っている杖から連続で光線を出して扉に穴を空けていった。


(扉が……!! 扉にはかなり魔法に強い素材で作られているのに……!)


 玄関の扉は溶け始めた。ムベンガは振り返って逃げるように走り始めた。


「逃げられると思うな」


 男は杖から放った光線をムベンガに当てた。


「これは……毒……!」


 ムベンガは倒れ、目を閉じた。


「ちょうど十八歳になったお前は私の帝国に連れて行ってやる」



 数時間後、ムベンガの本当の父のウオノエは家に帰ろうと歩いている途中、家の玄関の扉が失くなっていることに気付いた。


「なに……!? 扉が無いだと!?」


 ウオノエは急ぎ足で家の中に入っていった。


「ムベンガは無事か!!」


 慌てた様子のウオノエが家の中を見ていくと、手紙がテーブルの上に置いてあることに気付いた。


「まさか誘拐!?」


 ムベンガの父は手紙を手に取ってその手紙の内容を読み始めた。


「兄の娘……ムベンガを攫った……!? 返す気は無い……話だけなら魔法学校の屋上で待っている……一人で来い……」


 ウオノエの顔は青ざめた。


「まさか……サソリがムベンガを……!? そんなバカな……三十年くらい前に失踪したサソリが今になって……!? とにかく魔法学校の屋上に急がなければ……!!」


 ウオノエは自身の部屋に入り、飾ってある杖を手にした。


「プラティ……もしかしたらサソリと会うかも知れない……あの世で姉妹はどう思っているのだろうか……」



 ムベンガの父であるウオノエが魔法学校の屋上に到着すると、杖を持って後ろ姿が見える男が一人立っていた。


「娘を攫ったのはお前か!!」


 ウオノエは屋上にいる者に向かってそう呼びかけるとその者は振り向いた。振り向いた者の顔はウオノエと似ていた。


「私と顔が似ている……本当にサソリか!?」


「顔で答えは出ているだろう。私はお前の双子の弟……サソリだ」


「まさか本当に……三十年くらい前だな最後に会ったのは……」


「あぁ……魔法学校の学長か……偉くなったな互いに」


「互いに……!? どいう意味だ……!?」


「そうだ。に連れて行った」


「我が帝国……!? この世界で帝国はアワビ帝国しかないが……まさか……」


「そうだ。私はアワビ帝国で一番偉くなったんだ」


「アワビ帝国……!? 正当な王族が国から消え……誰でも一番偉くなれると聞いたが……まさかサソリが……!?」


「そのアワビ帝国はどんな所か知っているだろう」


「サソリ……お前は何が目的なんだ!」


「お前の娘を壊し、お前に絶望を与える。それが目的だ」


 サソリは持っている杖の杖先に強い魔力を込めた。ウオノエも同様に持っている杖の杖先に強い魔力を込めた。


「サソリ……!! 三十年で何があった……!! なぜ娘をアワビ帝国に連れて行った……!!」


「全ての質問に答えて欲しければ私を倒してみろ」


 サソリは手している杖の杖先からウオノエに向かって一直線で子供の腕位の太さの光線を放った。


(光線から毒を感じる……毒属性か……!)


 ウオノエはサソリが放った光線に同じ太さの緑色の光線をぶつけた。


「兄は風属性か……笑えるなぁ。魔法学校の学長が大雑把な考えで強くなる風属性とは」


「属性はあえて変更したんだ……! 風属性の光線の特徴は変幻自在……それを見せてやる……!!」


 ウオノエはサソリに向かって杖から無数の光線を放った。サソリはウオノエが放った全ての光線に向けて光線を放っていったが、ウオノエが放った光線は蛇の様に曲がってサソリの光線をかわし、サソリに全て命中させた。


(まるでヘビの群れだな……だが毒が無い。無毒のヘビだ)


 サソリは放つ光線の速度を上げてウオノエが放った何発ものの光線に当てて、ウオノエが放つ光線を連続で溶かしていった。


(恐らく光線を撃ち合うだけなら互角の戦いになり長引くだろう……近付くか。兄はどんくさいだろうからな)


 サソリはウオノエに向かって走り出した。


「接近する気か……!」


 ウオノエは走って来るサソリに向けて大木くらいの太さの光線を放ったが、サソリは全身に毒の魔法を込めてウオノエが放った光線に体当たりして溶かしながら進んでいき、ウオノエの目の前まで来て首を掴んだ。


「うっ……!」


「やはり兄はどんくさいな……! 近付いたら簡単に首が掴める」


「手を離せ……!!」


 ウオノエはサソリに強い風の魔法を当てると、サソリはウオノエの首から手が離れ、魔法学校から落ちる寸前の所まで転がっていった。


「ただの風も強いな……!」


 サソリは杖に強力な魔力を込め始めた。


「なら今度は逃げ場が無くなるほど巨大な光線を放つとしよう」


 サソリはウオノエに向かって屋上にいて逃げ場が無い程の巨大な光線を放った。


「逃げ場ならある……! 上だ!」


 ウオノエは上を見てそう言うと、光線を地面に当てて衝撃で高く跳び、サソリが放った巨大な光線をかわした。


「……双子だから読み易いな」


 サソリもウオノエと同じく地面に光線を当ててウオノエがいる地点に向かって飛んでいた。


「落ちろ!!」


 サソリはウオノエに光線を当てた。その衝撃でウオノエは


「しまった……!!」


「世界一高い建物から落下して死ね!」

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