二章 光線族の悲壮

    六話 颯に出会うムベンガ

 ムベンガが小学五年生の頃のある日、ムベンガは魔法都市サザエにある小学校から下校中に複数の男の子達に囲まれた。


「また来た……」


 そう言ったムベンガは囲ってくる男子達に嫌気が差している様だった。


「やーい! ムベンガー!」


「お前なんでいつも俺達を無視するんだ? いい加減止めろよー!」


「仲良くなりたいと思えないから……」


 ムベンガを囲ってる男の子達は全員怒りの表情になり、ムベンガに小石を連続で投げてぶつけ始めた。


「いたい……!」


「おらー! 一緒に帰れよー!」


「止めて下さい……」


「お前達! 石を投げるのを止めろ!!」


 突然その場にそう叫ぶ男の子の声が響くと、ムベンガに小石を投げつける男の子一人に、プラスチック製のブーメランが当たった。


「いたっ!! なんだ!?」


 ブーメランをぶつけられた男の子はブーメランが飛んできた方向を見ると、一人の男の子が堂々と立っていた。


「お前達! 女の子に石を投げつけるのを止めろ!」


 その場に現れた男の子はそう言うと、返って来たブーメランをキャッチした。


「私の名前は颯だ! その女の子をいじめるな!」


「お前何それ!? ブーメラン!?」


「ブーメランだって!?」


「ブーメランだ!!」


 颯という名の男の子はムベンガを囲っている男の子達にブーメランをぶつけてブーメラン回収してブーメランを投げてを繰り返した。


「うわぁぁ!! なんだこいつ!!」


 ムベンガに嫌がらせをしていた男の子達は全員、その場から逃げるように立ち去っていった。


「なんですかこの人は……」


 ムベンガは颯に対して警戒している様だった。


「君! 家まで送ろう! 帰り道が危なくならない様に!」


 ムベンガは首を横に振った。


「あの……大丈夫です……一人で帰れます……」


「そうか! 道中気を付けるんだぞ!」


 颯はムベンガにそう言うと、ムベンガは一人で家に向かって歩き始めた。


「困ったことがあったらすぐ駆けつける!! また会おう!!」


(も……ものすごく変な人……)



 次の日、颯の他のクラス中に颯が暴力を振るったと言う噂が流れて、その噂を聞いた颯の担任の男がその直後に廊下で見かけた颯に話しかけた。


「颯君、ブーメランをぶつけるのは暴力だよ。暴力はいかんな」


 颯の担任は颯にそう注意した。


「すみません!」


 颯は素直な表情で担任にそう謝った。その様子を廊下を歩いていたムベンガが見ていた。


「あの人……私のことで叱られてる……かわいそう……」



 その日の下校時間、ムベンガは颯のクラスの教室の前の廊下で壁によしかかって立っていた。


「せめて……あの人にお礼を言わなきゃ……」


 ムベンガはそう思った時、昨日颯に追っ払われた男の子達がムベンガを取り囲んだ。


「おいムベンガ! 今日こそ一緒に帰ろうぜ!」


「……今日も一緒に帰らないです」


 ムベンガは話しかけてきた男の子に向かってそう返すと、一人の男の子はムベンガの右腕を掴んだ。


「一緒に帰れよ!」


 ムベンガを囲っている男の子全員、ムベンガの腕を掴んで引っ張り始めた。


「止めて下さい……!」


「君達止めろ!!」


 そう言う颯の声が教室から響き、颯は教室から出て来た。


「お前は!! よくも昨日は俺にブーメランを当てやがったな……!!」


「お前より女の子の方がひどい目にあってたぞ!」


「うるせぇー!」


 ムベンガに嫌がらせをしていた男の子は、颯に向かって襲い掛かって来た。


「一緒に帰りたいならいじめないで仲良くしよう!」


「黙れ!」


「あっ! あそこに先生!!」


 颯はそう言ってある方向を指差した。


「え!?」


 ムベンガを囲っている男の子全員、颯が指差した方向を見た。


「今だ! 逃げるぞ!」


 颯はムベンガにそう言うと、ムベンガの手を引っ張ってその場から去ろうと走り始めた。


「ってほんとに先生いるし!」


 ムベンガにちょっかいをかけていた男の子達は、颯が指差した方向に怖そうな見た目の先生がいたことに気付いた。ムベンガを囲っていた男の子達は颯とムベンガを追わずに怖そうな見た目の先生をただ見て突っ立っていた。



 颯とムベンガは学校の外に出て、さらに学校から少し離れた所まで一緒に走っていた。


「あの……もう離して大丈夫です」


 ムベンガは颯にそう言うと二人は走るのを止めて、颯はムベンガの手を離した。


「ここまでいったら大丈夫だな!」


「あ……あの……ごめんなさい……私のせいで先生に怒られて……」


「いつものことだから大丈夫!」


「なんでそこまで私を助けるんですか……?」


「困った人を助けるのは当然だ! 君が嫌がらせを受けているのを見かけたからな!」


「……明日また嫌がらせをする人に会うので意味ないです」


「何度でも守るから!! 私のことは気にしなくて大丈夫だ!!」


「そうですか……あの……今日も一緒に帰らなくていいです……」


「大丈夫なのか!」


「……はい」


「なら私は嫌がらせをする人達を足止めしよう!」


 颯はそう言うと学校に向かって戻って行った。


「そこまでしなくて良いのに……」



 次の日、下校前にムベンガは颯がいる教室に来て颯に話しかけた。


「どうした?」


「今日は不安なので……一緒に帰っても良いですか?」


「分かった! 絶対に嫌がらせする人から逃がすから!」


「一緒に颯と帰った方が安心だし……好きじゃないけど……」


 その後、ムベンガは颯と自身の家の玄関の前まで一緒に歩いていった。


「颯……ありがとうございます……嫌がらせをする男子から守ってもらって……」


 ムベンガは颯にお礼の言葉を贈ると、颯に向けてお辞儀をした。


「それじゃあまた明日!」


 颯はムベンガに挨拶の言葉を贈ると、颯はその場を後にした。


(もうちょっとお話をしたかったけど……上手く話せなかった……)



 一週間後、ムベンガは住んでる家の自身の部屋で持っている携帯を手にし、携帯に写っている画像をじっと眺めていた。


「颯……今日も帰る時に守ってくれてありがとうございます……」


 ムベンガは眺める画像を一分に一回何度も変えていき、眺める画像は盗撮して撮った様な颯の姿ばかりだった。



 一ヶ月後、ムベンガは自身のクラスの教室に颯を招き入れた。ムベンガは壁に向かって指差した。


「え!?」


 ムベンガが指差した方向には、ムベンガが習字の授業の時に書いたであろう颯の一字が貼ってあった。颯はそれを見て驚きのリアクションをした。


「私の名前だ……!」


「今日……習字で好きな漢字を書く時に颯と書きました」


「なるほど……それはつまり私のファンってことだな!」


「ファン……」


 ムベンガは颯の両手を優しく握った。 


「どうしたムベンガ……!?」


「最近……颯は周りの人と仲良くないと聞きました……」


「平気だ! 困っている人を助けられれば!」


「そうですか……」


「心配してくれてありがとう!」


(私が……颯の人間関係を裏で管理しなきゃ……)



 次の日の学校の休み時間、ムベンガは颯の悪口を言っている男子を二名見かけて、その二名に近付いた。


「颯の悪口を言うの止めて下さい」


「……なんで?」


 颯の悪口を言った男の子はムベンガにそう聞くと、ムベンガは颯の悪口を言った男子二名を睨んだ。


「理由なんて言いません。次にあなた方から颯の悪口が発せられた場合、私があなた方の人生を確実に終わらせます」


「え……怖っ……」


「も……もう言わないよ……」



 数日後、小学校内で颯の悪口を言う者がいなくなっていた。ムベンガは颯が住む家に入り、ムベンガは家の廊下を一人歩いていた。


「昨日も颯の悪い噂を耳にしなかった……今日も平和ですね……」


 ムベンガがそう呟いた後、颯がいる部屋の扉を開けようとした。


「引っ越す!?」


 ムベンガの耳にそう言う颯の声が響いた。


(颯……? 引っ越すの……?)


 ムベンガは扉に耳を当てて、こっそりと颯と誰かの話を聞き始めた。


「すまんな颯……」


「お父さん……それはなにか事情があるからですか!?」


「あぁ……すまないが颯の為でもあるんだ……悪いな颯……せめて小学校はそのままでありたかったが……」


(……颯が引っ越すなら私も引っ越さなければ)



 颯と颯の父が話し終えた後、颯はムベンガを自身の部屋に入れた。


「はい……さっき颯が『引っ越す』と言ってましたが本当なんですか……?」


「ムベンガ……聞いていたのか……」


「なんでですか……?」


「理由は言ってくれなかったが……言えない事情があるんだろう……」


 落ち込んでいる表情の颯はムベンガにそう言うと、ムベンガは首を横に振った。


「私は嫌なので親を説得させて颯と同じ街に住みます」


「え!? それは大丈夫なのか!?」


「私は……颯と離れたくないのでなんとか父を説得させます」


「そうか……ムベンガは私のファンだったな……ただ親に迷惑かけない方が……」


「絶対に説得させます……必ず」



 その日ムベンガが帰宅して数時間後、父が帰宅するとムベンガはすぐさま颯と同じ街に引っ越すよう父にお願いした。


「それは無理だ」


「無理ですか……それはやっぱり魔法学校の学長だから魔法都市サザエから離れられないというわけですか」


「……そうだ」


「なら私だけでも颯と同じ街に引っ越します」


「それも駄目だ」


「お父さん……なんでですか」


 ムベンガは父を睨み始めた。


「悪いなムベンガ……」


 ムベンガは父にそう言われてまもなくキッチンに行って包丁を持ち出した。


「包丁……!? ムベンガ……分かった……! その颯君の父親と話をしてみる……」


 ムベンガは父を睨むのを止め、包丁をあった場所に戻した。


「お願いします」



 次の日、ムベンガは颯の家にお邪魔して颯に話しかけた。


「颯……これを差し上げます」


 ムベンガは颯に濃い緑色の携帯電話を渡した。


「使い方を教えますので絶対に使いこなして下さい……」


 ムベンガは涙を流しながら颯にそう伝えた。


「大丈夫かムベンガ……!」


「私……父を説得することは出来ませんでした……だから颯に携帯電話を渡して遠くにいても連絡しあうことになりました……」


「なるほど……! 携帯か!」


「お願いします颯……」


「分かった! 絶対に使いこなす!」



 そして颯が引っ越す日、颯と颯の両親の三人は荷物を車にまとめ終えた。それにムベンガの父は手伝っていた。その場にいたムベンガは荷物をまとめ終わるのを見ると、颯を抱き締めた。


「颯……絶対にまた会いに来てください……連絡も絶対お願いします……」


「じゃあ……時間がないので……」


 颯の父はムベンガと颯の話を遮ると、颯の家族は車に乗っていった。そしてまもなく車は走り出した。


「ムベンガ! 元気でなー!!」


 颯は車の窓から顔を出し、ムベンガに向けて大きな声でそう言って大きく手を振り返した。


「連絡だけは……絶対に途絶えさせないようにお願いします……!」


 ムベンガは颯に向けてそう言って手を振り返した。



 颯と別れてから数分後、ムベンガは部屋で颯のことばかり呟いていた。


「颯いなくなるの辛い……颯が会えない生活なんて寂しい……」


 ムベンガは颯と連絡しようと携帯電話を手にした。


「さっき颯を見送ったばかりなのに……颯の声がもう聞きたい……」


 ムベンガは颯に連絡しようと携帯電話をいじり始めたが、数分経ってもムベンガは颯と連絡が繋がることはなかった。


「繋がらない……?」


 ムベンガは颯と連絡が取れないことで焦っている様子に変わった。


「もしかして颯は電波が繋がらない所にいる……?」


 ムベンガは息遣いが激しくなり始めた。


「ハァ……ハァ……早く繋がって……」


 数分後、ムベンガの父は家の玄関で倒れて苦しんでいるムベンガを見かけた。


「ムベンガ!? 大丈夫か!?」


 ムベンガの父はムベンガの体を何度も揺すったが、ムベンガが目覚めることはなかった。



 数時間後、ムベンガの父は病院に行って連れて来た自分の娘が息苦しくなったことを病院の方から聞かされた。


「まさか……人間に……」


 ムベンガの父は絶望したかの様な表情になった。


「光線族の一つに対して一生一途に続く没頭が人間に向くなんて……そんな光線族が現れる確率は1%以下と言われているのに……」


 ムベンガの父はそう言って頭を抱えた。


「しかも相手がよりによってあの颯君……光線族にとって没頭するものが無くなると自殺する人が多いらしいが……ムベンガは大丈夫だろうか……」


 それからムベンガは十八歳になるまで大好きな颯と連絡が取れない状況であったが、自ら命を絶つことはしなかった。いつか必ず颯に会えるとムベンガは毎日信じ続けていた。



 そして現在に戻り、ムベンガは過去に会った颯のことをその記憶が無いという颯に話し終えた。


「私のこと……まだ分かりませんか……?」


「すまん……」


 颯は頭を抱えながらそう返すと、ムベンガは颯を抱きしめた。


「私の細胞一つ一つが今喜んでいます……早く思い出して下さい……」


「ムベンガ……」


「私……あの頃から大きくなりました……そのせいで思い出せないのでしょうか……私はあの頃の髪型も髪色も変えていないのに……」


「……ごめん! やっぱりどうしても小学生の頃にムベンガと言う女の子に会った記憶は無いんだ……!」


 颯はムベンガから少し距離を取った。


「……誕生日に颯と再会したと思ったのに」


「こういう時……どうしたら良いのだろう……」


 困り顔の颯はそう呟くと、ムベンガは


「え? どうした!?」


 ムベンガは両腕を振るって颯の頭を壁にぶつけた。


「痛い……!!」


「記憶を失ってるかもしれません。頭をぶつけて……記憶を取り戻せば……!」

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