第12話 派閥の戦争
自宅……もといロータス宅に戻り一休みする。
ロータスも早速設置された猫タワーに登った。
昨日のうちに設置され、壁一面と言っていい規模を見た時には圧巻だったが、ロータスはかなり気に入ったらしく、ご飯の時以外降りて来なかった。
いつも寝る時間になっても降りてこないので、ベッドで「ローたーん」と泣いているとのそのそと降りてきてサイドにピタッと付いてくれた。
なんたるジェントルマン、と感動に浸たりながら眠りについた。
翌日も朝から猫タワーに登って見下ろしていたが、散歩は行きたいようでカートには乗ってくる。
タワーが気に入りすぎてそっぽを向かれるのではないかと心配したが杞憂だったようだ。
ロータスは美来と一緒にいることを喜んでくれている。
散歩について来てくれているのはメリーがお目当てかもしれないが……。
タワーに付いている巻藁で爪を研いでいるロータスに満足し、美来は携帯を取り出す。
あれから――と言っても数日だが――特に用途がなく、ただ持っているだけの日々だったのだが、今日テレビ番組なら見られると聞いたのだ。
テレビ局は稼働していないが、ネット番組や動画投稿サイトなら見られると聞いていた。
美来は部屋に設置された大画面テレビに携帯をミラーリングする。
久しぶりのテレビだーとワクワクしながら動画投稿サイトを開いた。
動画投稿サイトは投稿しているのが一般人なこともあって、メンテナンスのみで稼働できる部分のみ稼働しているようだ。
アップデートはないだろうが、それはこれからに期待だろう。
だけど見られるのはネコに関する動画ばかり。それも「お世話の仕方」や「こういう仕草の時はネコはこんな気持ちです」など、いわゆるお役立ち情報系。
おそらく美来が彩乃にやったように、こういった動画を投稿して役に立つとGGが増えるのだろう。
だが美来からしてみれば「今更」というようなものでしかなく、新たに役に立つようなものではない。
むしろ「いや、それは違うだろ」と思うことも多い、ストレスの貯まるようなものでしかなかった。
他の動画も探してみるが、トップに流れてくるものや紹介されているものがそれらばかりなので検索するのも一苦労だ。
面倒なのでネット番組を見ることにする。こちらは一つしかない。
つけてみると海外の、ネコにネズミが噛みついて、あべこべなネコ叩きをするアニメが放映されていた。
懐かしいし面白いのだが、これしかないのかな……と思いながらしばらく流していると、ロータスがタワーから降りてきて横に並んで一緒に見始めた。
らんらんとした目でテレビ画面を凝視し、動くネズミとネコを興味津々目で追っている。
なんか瞬きせずにテレビを凝視するのは目に悪そう……と思ったが、お猫様は大丈夫なのだろう。
なんの気なしに見始めたものだったが、ロータスが気に入ってくれたのならいいか、とロータスが飽きるまでテレビを見続けていた。
翌日からも世界は平常に動いていた。
イヌの異星人がやってきたとは言っても、状況的にはこれまでと変わらず。
イヌ派の人達にとってはついにやってきた支配の手というところだろうが、ネコ派にとっては何も変わらない日常だった。
ただ街の外れまで散歩するとイヌをよく見かけるようになったというだけだ。
イヌ派の人達も、今は新しい生活に慣れるのが精一杯で、侵略戦争どころではないのだろう。
こちらも特に領域を侵すようなことをしなければ、何も起きない平和な日常そのものだった。
「やっぱスター・ウォーズですよ」
「いや、スター・トレックだと思うな」
「何の話よ」
いつものホームセンターに行くと、克平と遊谷が何やら議論している様子だった。
それを彩乃が呆れた様子で眺めていた。
「いったいどうしたんです?」
さらに離れたところから見ている櫛引に聞いてみるが、
「いや、それが僕にもサッパリ」
こちらも内容についていけてない様子だった。
「あ、古川さん。ちょうどよかった。古川さんはどっちだと思います?」
美来を見つけた克平が声を掛けてくる。
「いや……、何の話だか……」
「地球は今、ネコ派とイヌ派に分かれてるじゃないですか」
そういう話を遊谷としていたのだが、「それってスター・ウォーズ派とスター・トレック派みたいですね」という話になったと言う。
そこまでは「そうだねー」だったのだが、ではどっちがどっち派なのか? で揉めているという。
「僕は断然ネコ派がスター・ウォーズだと思うんですよ」
「いや、そんなことはない。スター・トレックの方が面白い」
「いやスター・ウォーズですよ」
派閥の話ではなかったのか? いつの間にかどちらが面白いのかという話に変わっている。
「いやぁ、どっちも面白いでいいんじゃないですか?」
キッと克平は真剣な表情を向ける。
「ルーカスは最初の、エピソード4を映像化した時点であの膨大なストーリーを完成させていたんですよ。それが後の続編、スピンオフに現れているんです。こんなこと普通できるもんじゃありません。スター・ウォーズの勝ち」
それに遊谷が応じる。
「初期の携帯電話のデザインはな。スター・トレックに出てきた通信機からきてるんだ。あの当時から未来を予見したSF作品なんだよ。つまりそれだけ理に適った設定だったんだ」
その後もああだこうだと話が続く。
喧嘩に発展しそうな勢いだったので、口を挟んだ方がいいのかと逡巡していたが、そのタイミングを掴めないでいた。
「スター・ウォーズでは量子通信と電波通信を使い分けるというリアルな描写がされているんですよ」
「いや、高速を超えて惑星間移動をするのに、時間軸の歪みを完全に無視したご都合主義だ」
「それはスター・トレックも一緒でしょう!!」
それを皆遠巻きに眺めるしかなかったが、そこへのっそりとした足音が近づいてくる。
それに気がついた遊谷が、やってきた宇宙服に水を向けた。
「そうだよ。実際それを知っている存在がいるじゃないか。直接聞けばいいんだよ。なあ監督官さん。アンタらが惑星間を移動する時、一般相対性理論における時間軸はどうなるんだ? 地球まで来て、母星に戻った時、実際問題、時間はどうなってるんだ?」
克平もその提案に異論はないようで、ランファの黒いガラス面を注視する。
ランファがしばらく固まり、美来の方へ体を向ける。
聞くまでもなく「何を言っているんだ? コイツらは」という反応だろう。
「そうか。相対性理論の名称は違うかもしれませんね。物体の運動が、光の速さに近づくほど、物体に流れる時間が遅くなるという現象ですよ。ネコの母星に帰った時、お友達は歳を取ってるんですか?」
克平が補足、と言わんばかりに付け加える。
ランファはやはり一度美来に目線を向けるように動き、男二人に『よくは分からんが……』と前置きする。
『恒星間をどう認識して移動を
そこで音声が止まったので、説明は終わったのだろう。
遊谷と克平は、しばらく動かずに固まっていたが、少し目を泳がせながらそれまでやっていたであろう作業にゆるゆると戻り始めた。
ランファもしばらく動かなかったが、また美来の方に体を向ける。
今の説明で合っていたのかどうかを聞きたいのだろうが、それは美来にも分からない。
ただ口論は終わったようなので、
「いいと思いますよ。ありがとうございます」
と言っておいた。
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