第16話:心に刺さり続けるトゲとプレゼント
これは、小学生の頃の話だ。何年生だったかは、思い出せない。
僕は姉さんたちとの思い出以外、小学生時代のことをほとんど覚えていないんだ。中学生の記憶すら曖昧だ。
そんな僕の心に、刺さり続けている思い出がある。
小学生の頃、仲の良い友だちがいた。
彼は僕のことを面白いだの凄いだのよく褒めてくれたが、僕も彼に対して凄いと思っていた。彼は野球少年で、野球に対して真剣に向き合い努力していた。子供心に尊敬したのを覚えている。
そんな友達が、引っ越すことになった。
最後に遊んだ日の帰り。同じマンションの同じ棟に住んでいて、マンションの棟に到着する直前のこと。
彼が急に振り返り、二つの人形を取り出した。ポケモンの人形だ。
ミュウとリザードン。
「どっちかあげる。どっちがいい?」
その問いに、僕は遠慮してしまった。
「いや、ええよええよ」と。
帰宅してしばらくしてから、しまった、と思った。
彼が寂しそうな顔をしていたから。
思えば、最後の思い出の品としてプレゼントしようとしてくれていたんだろう。当時の僕でも、それくらいのことは理解できた。リザードンは、僕の好きなポケモンだ。はじめて遊んだポケモン赤で相棒としていたから思い入れがあった。
僕ならリザードンと言うだろうと思って、だけど一応選択肢を用意してくれたのかもしれない。
そんな彼の好意を、無碍にしてしまった。
そういうことをあまりしない子だったから、きっと勇気がいったことだろう。照れくさかったことだろう。
それから、彼とは一度も会っていない。
このことは、たまに思い返しては、胸がキュッと締め付けられる忘れられない出来事になっている。
この出来事があってから、僕は相手からの好意は素直に受け取るようになった。
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