第15話:何も隠さない姉さんとの想い出

僕は、ランスシリーズが好きだ。創作面でも、かなりの影響を受けていると思う。


ランスシリーズとはなにか。


エロゲだああああああ!!


なんだこの筆致のテンションはあああああ!!


はい。


ランスを知ったきっかけは、姉さんだった。


ある日、姉さんが一人暮らしをするアパートの部屋に向かったときのこと。入るなり、どえらいかっこいい曲が流れていた。効果音も流れてたから、「ああゲームしてるのか」と思って上がり込んだんだ。


後から知ったが、『Rebirth The Edge』という曲だった。


実際、ゲームをしていた。


シミュレーションRPG系かな、敵はなんか信長っぽいな。いやでもなんか信長大変なことになってるな、なんだこれ。そんな風に思いながら1時間ほど見守っていると、エロシーンが流れ出した。


「エロゲだったのかよ!」


流石にツッコまざるを得なかった。


こ、こいつ……自らを姉と呼ばせている弟のような存在の目の前でエロゲをしている……!?


弟と言いつつ性的な意味で襲ってきたり、いつか結婚しようと言ってきたりするような人だから不思議じゃないんだけど、ちょっと驚いたのを覚えている。


その頃の僕のエロゲのイメージというのは、選択肢を選んで恋愛をするゲームだった。


ところが姉さんがプレイしていたのは、シミュレーションRPGだった。信長の野望のような、国盗り合戦タイプの作品だった。凄い熱い曲が流れていたし、途中から……というか結構なクライマックスからしか見ていなくても熱いストーリーであることもわかったし。


姉さんが振り返って言う。


「これ、戦国ランス」

「戦国ランス?」


そこから、姉さんによるランスシリーズ講座が始まった。


当時、僕は中学生だった。


発売からは数年経っていたようだが、「名作は何度遊んでもいつ遊んでもいい」と姉さんは言っていた。


ランスシリーズの世界観や設定などを熱く語る姉さん。


僕は「え、なにそれ面白そう」と思っていた。


シーン途中で止めていたため、その間、姉さんのPC画面にはずっとエロシーンが流れていたのがどうしても気になったけど。


「面白いのはわかったけど、弟分の前でやるか? 普通。しかもスピーカーで」

「声ついとらんけんよかやん」

「そういう問題やないような……?」

「好きなものを隠して生きるよりも、好きなものを推し貫いて生きるほうが楽しいしかっこよくない?」


その言葉を、よく覚えている。


使う場面が違えばもっとかっこいい言葉だったと思うが、目の前でエロゲをプレイするのを咎められたこの場面でも僕にはかっこいい言葉のように思えた。


当時の僕というのは、好きなものを隠す傾向があった。自分の本心というものを押し隠して生きていた人間で、好きなものはそれを好きなもの同士でのみ明るみに出す。それでも、全ての趣味や好みを前面に出すようなことはできなかった。


ただ、姉さんは違った。


たとえそれがエロゲだとしても、見る人が見れば気持ち悪く感じるようなものでも、嬉々として僕に語って聞かせた。そのときの姉さんの顔は、普段の病んでいるあの人の顔とは正反対と言えるほど、イキイキとしていた。


その言葉に感銘を受けたものの、僕はやっぱり、しばらく自分を隠し貫いていた。


中学校では冤罪事件からのいじめがあったり、病んでる姉さんを励ましたりして余裕が無かったというのもある。


高校では、オタクであることは全く隠さなくなったものの、自分自身をさらけ出していたわけではなかった。下ネタで盛り上がってると解釈違いを指摘されると思って、そういう話のときにわからない風を装ってたんだよね……。


本当は、みんなが下ネタで盛り上がるところに入りたかったさ!


ああ! 入りたかったね!


そして大人になって、僕はあまり隠さなくなった。


信用できない人の前だと自分を全て覆い隠すけれど、それ以外の場面では全く隠していない。


それでも下ネタやピンクな話をしないイメージがあるらしく、そういう話をすると解釈違いを指摘されることが度々あるんだけど、そのときに過度に凹むことはなくなったように思う。


「うるせえ! これが僕だ!」という風に思うようになった。


いや、ここまで強い口調じゃないけど。


姉さんは、世間的に見てかっこいい生き方はしていなかったと思う。


生い立ちからして仕方がない部分もあれど万年病み期のような人だったし、家ではぐうたらで僕が作りに行かないと平気で2日間ご飯を食べないような人だったし……。僕も毎日行けるわけじゃないから作り置きしなくちゃいけなくて、せっかく会えている時間のうちの何割かを料理に費やすことになってしまっていた。


だけど、僕にとってはかっこいい生き方の人だった。


僕との約束を反故にして一人で先に逝ってしまったのだけは、かっこよくないけどね。


彼女は自分を決して偽らず、隠さず、言い訳をしない人だった。


好きなものにはとことん真摯に向き合い、好きなものを好きだと叫ぶ。


けれど、相手に強要することは決してない。布教はするけど。


ちなみに、その年の誕生日プレゼントは『School Days』だった。


おい、中学生にエロゲを渡すな。


しかも当時の僕でも知っていたような、エッグいドロドロで有名なヤツ。


百歩譲って、そこはランスシリーズじゃないのかよ。


そう思って、僕は丁重に突き返しましたとさ。


めでたしめでたし。

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