第28話 禍津神、楽しく間引く
街外れにある【
壁といい、屋根といい、絢爛豪華な装飾が施されている。まるで周りの建物から生命を吸い取っているかのような、寄生虫さながらだ。
屋敷の眼前に立ち、イトは溜息をつく。
「まだミーダスの方がマシだったのう」
どちらも残忍さではいい勝負をしているが、ミーダスは神の為という殊勝な心掛けがあっただけ、イトの評価は高かった。こちらは自分の欲求に従って動いている。宗教を建前に、パズスを後ろ盾に、人殺しを楽しんでいるだけ。
別段、イトからすれば目糞鼻糞の差でしかなく、どちらにしても間引くこと確定の外道なのだが。
そこで門番をしていた騎士が気づく。
「おい、そこの。何者だ」
「我は神なるぞ」
イトの指と門番の胸が、線で繋がる。
「神威解放【傀儡】」
神の前に、門番など意味がない。
何かどんちゃん騒ぎが聞こえる窓を仰ぎ見ながら、イトが命令する。
「【
「——私も行くよ、イト様」
ついてきたツクミが言うが、イトは首を横に振る。
「お主は逃げる輩がいないか、ここで見張っておれ」
同じ魔族がまた残虐に殺されたせいだろうか。
あるいは、ジバールの
だが、イトとしてはパズスの情報も欲しい。
そして、元禍津神としては【間引くときは直接】が鉄則だ。
屋敷の破壊ならその後でも問題ないだろう。
「何より、少しこの後の惨劇は、お主にとっても目に毒だ」
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「いやー、善いことをした後のワインは格別だな!」
「それにしても見たか? あの魔族の最後の命乞い! 『お母ぁさん、死にたくない』だとよ、がっはっはっは……いや惜しいな。アレの母親を連れてくるべきだったか」
「それを言うなら俺の殺し方だって得点高い筈だぞ? まずは指先を――」
イトが踏み込む数秒前。
聖職者に有るまじき宴会場だった。
【
先程、この【
魔族を殺した。ついでに人も殺した。
それが金ヅルであり、彼らのバックであるパズスからの命令だったからである。
「ま、俺たちとしてもあの現人神とかいう訳分からん奴がのさばられると、色々宗教としての立場も弱くなるしな」
「パズス殿は俺達のこと、よーく理解してくれてるしな」
「これからもあの人には天下を取っててもらいたいものだ。おこぼれでこんな美味しいモノが食えるんだから。なぁ? お前らも食べろよ」
だがどんちゃん騒ぎしていた【
【
リーダーを中心としたベテラン達は「これだから最近の若い奴らは」と言おうとした時だった。
扉が開く。
イトが平然と、堂々と入ってきた。
「な」
何者だ、とか。なんだお前、とか言わせる気はない。
扉を開いたと同時、【罪悪感に苛まれている者】と【武勇伝で浮かれている者】を見分け、後者に
「神威限定解放【傀儡】」
途端、
ただし、通常の【傀儡】と違い、心までは操っていない。肉体だけが
故に、金縛りにあっている不自由さを、正常な意識で【武勇伝で浮かれている者たち】——【
「ひい、ふう、みい、
「き、記憶……?」
「ああ。死の間際までよーく映っておったぞ? お主らの楽しそうな顔が」
確信を得て頷く闖入者に、顔以外の全てが凍り付いた【
「こ、こいつ、現人神イト……!?」
「左様だ。自己紹介は不要と見える」
「お、オネスト様に敵対し、よくもロックドアに邪教を広めてくれたな……」
「別に我の前で雌犬を立てずとも良かろう。信仰心なぞ無いくせに」
「何……!?」
「あるのは金銀財宝の装飾程度で悦に浸る虚栄心と、御しきれぬ暴力と殺戮への憧れのみだろう」
世界の裏側まで見透かすような澄んだ眼に歯軋りすると、【罪悪感に苛まれている者】——若手たちへ口汚く命令する。
「な、何をしている貴様ら、早く奴をやれっ……!」
一応は彼らも【
30人。それなりに多い。
1人目が斬りかかろうとした瞬間だった。
「い」
神の殺気が、場を潰した。
この空間を、深淵の彼方に追いやっていた。
「か、あ、あ……」
暗闇に放り込まれた子供の如く、焦点の定まらぬ眼で怯え始める。あるものは膝を抱え、あるものは胸を抑え、あるものは頭を抱える。
イトにとっては、まだこの者達は外道に堕ちきっていない。だから悔い改める余地は無限にある。
だが、今
間引くしかない。
「そこのお主。聖書にはオネストが禁じた三つの戒律があったな。その二つ目を示して見せよ」
「【自殺してはならない】、じゃろう。さすれば神の御許にはゆけず、永遠に暗黒へ回帰することになる、と……お主ら、二週間前にこの世界に来た我とて、一回読んだだけで覚えることぞ?」
「そ、それがどうした」
「さあ、祭りの時間だ」
薄らと笑むイトは。
両手から伸びる神威限定解放【傀儡】に、ある
「自害せよ」
「!?」
体が勝手に動く。剣を構える。
ただし、逆手に握った刃は、自分に向けている。
「や、やめ……」
「直ぐにとは言わん――5分かけて自害せよ」
その言葉で、切っ先がそれぞれ左胸に接触した。
深くまでは沈まない。だが確実に心臓目掛けて、剣が進んでいる。
悲鳴と恐怖が木霊し、ただ見ているだけの若手さえ竦みあがる残酷な光景を前にして、イトは深く頬を吊り上げた。
「かか、途中で出血多量で死なぬよう、我の神術がかかっておる。安心して五分間、死への恐怖と激痛を楽しむがよい」
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