第4話 4

 1987年、隼人は3歳になり、毎日活発にサッカーボールを蹴るのが日課になっていた。父の正和は息子の情熱を感じ取り、積極的に隼人のサッカーの練習をサポートしていた。


 ある日の朝、家族全員が食卓を囲んでいると、正和が隼人に言った。


「今日はパパが仕事を早めに終わらせて、公園で一緒にサッカーをしようか?」


「本当?やった!パパとサッカーするの大好き!」


 隼人の目は輝き嬉しそうに叫んだ。


「じゃあ、お昼はお弁当を持って行って、ピクニックにしようかしら」


 母の恵子も微笑みながら提案した。


「それはいい考えだね。みんなで楽しもう」


 正和は賛成して答えた。


「ぼくも行きたい!にいにと一緒にサッカーしたい!」


 弟の光太も元気よく言った。


 昼食の後、家族全員で公園に向かった。公園に到着すると、隼人はすぐにサッカーボールを取り出し、準備運動を始めた。


「まずはパスの練習をしようか」


 正和は言い、隼人にボールをパスした。


「パパ、見て!ちゃんとパスできるようになったよ」


 隼人が言う


「上手だよ、隼人。次はもっと強く、正確に蹴ることを意識してみよう」


 正和はアドバイスした。


 隼人は父の言葉に従い、力強くボールを蹴った。


「よし、その調子だ!」


 正和は褒め、二人は何度もパスを繰り返した。


 しばらくして、光太が近づいてきた。


「にいに、ぼくもやりたい!」


 光太がお願いする。


「いいよ、光太。まずはボールを止めるところから始めよう」


 隼人は優しく教えた。


「光太、がんばってね。ママも応援してるわよ」


 恵子も見守りながら声をかけた。


 練習の合間に、家族全員でお弁当を広げてピクニックを楽しんだ。


「今日は本当に楽しいね。みんなでこうやって一緒に過ごす時間が大好きだわ」


 恵子がサンドイッチを配りながら言った。


「そうだね。家族と過ごす時間はかけがえのないものだ」


 正和も賛同した。


「パパ、もっとサッカーを上手くなりたいんだ。どうしたらいい?」


 隼人はサンドイッチを食べながら尋ねた。


「毎日の練習が大切だよ。継続して努力すれば、必ず上手くなる」


 正和は答えた。


「隼人、あなたの努力をママも応援してるわ。一緒に頑張ろうね」


 恵子も励ました。

 

 午後になり、再びサッカーの練習を始めた隼人は、父の正和と共にシュートの練習にも取り組んだ。


「隼人、ゴールの隅を狙ってみて」


 正和がアドバイスする。


「わかった、パパ!」


 隼人は言って集中し、見事にゴールを決めた。


「すごい!その調子だ、隼人!」


 正和は拍手しながら褒めた。


 夕方、公園から帰る道。


「今日は本当に楽しかった!もっとサッカーが上手くなりたいな」


 隼人は言った。


「君ならできるよ、隼人。これからも一緒に頑張ろう」


 正和は肩を叩いて励ました。


 家族の温かいサポートと共に、隼人のサッカーへの情熱はますます深まっていった。毎日の練習と家族との絆が、彼の成長と未来の可能性を広げていくのだった。


 その年の夏、隼人は近所の公園で新しい友人、リサ・クラインという名の女の子に出会った。彼女の家族は数年前にウクライナから日本に移住してきており、リサはまだ日本語が流暢ではなかったが、隼人はすぐに彼女に興味を持った。


 ある日の午後、隼人はいつものように公園でサッカーボールを蹴っていた。ふと目を上げると、少し離れたベンチに座っているリサが見えた。彼女は波打つ栗色の髪と大きな茶色の瞳で、隼人のサッカーをじっと見つめていた。


 隼人はボールを持って彼女の方へ近づいて行った。


「こんにちは、僕のサッカーを見ていたの?」


 隼人は尋ねた。


「Так, я дивилася. Ви дуже добре граєте у футбол.(はい、見てました。サッカーがとても上手ですね)」


 リサは驚いた表情で答えた。


 隼人はリサの言葉が分からず、少し困った顔をする。


「サッカー、好き?」


 隼人は続けて聞いた。


「Так, люблю.(はい、好きです)」


 リサは頷いて答えたが、隼人は彼女の返事が理解できなかった。


「隼人、彼女はウクライナから来たのよ。言葉が少し違うの」


 その時、隼人の母親の恵子が近づいてきて教えてくれた。


「そうなんだ、ありがとうママ」


 隼人は言い、再びリサに向き直った。


「僕、隼人。君の名前は?」


「Я Ліза.(私はリサ)」


 リサは笑顔で答えた。


 恵子がそばにいてくれたおかげで、隼人は少しずつリサとのコミュニケーションを取ることができるようになった。


「リサ、一緒にサッカーしない?」


 隼人が誘うと、リサは喜んで頷いた。


「どうやってボールを蹴るの?」


 リサが尋ねる。


「こうやって」


 隼人は見本を見せた。


「最初は軽く蹴って、次に強く蹴るんだ。試してみて。」


 リサは一生懸命に隼人の動きを真似てボールを蹴った。


「うまくできた?」


 リサが不安そうに聞く。


「すごく上手だよ、リサ!」


 隼人は褒めた。


「本当に?ありがとう、隼人くん!」


 リサは嬉しそうに答えた。


 その後も、隼人とリサは毎日のように公園で会い、一緒にサッカーをするようになった。隼人はリサにサッカーを教え、リサはウクライナ語を少しずつ教えてくれた。


「今日は何を教えて欲しいの?」


 隼人が尋ねる。


「今日はドリブルを教えて」


 リサは答えた。


「こうやって、足でボールを転がすんだ」


 隼人はボールを持って見せた。


「じゃあ、次は君の番だよ、リサ。」


 リサは隼人の指導に従ってボールを転がし始めた。


「難しいけど、楽しいね!」


 リサは笑いながら言った。


 夕方になると、隼人とリサはベンチに座って休憩した。


「隼人くん、ありがとう。君のおかげでサッカーがもっと好きになったよ」


 リサが言う。


「僕もだよ、リサ。君と一緒にいると楽しいんだ」


 隼人は答えた。


「これからもずっと友達でいようね」


 リサが小指を差し出す。


「約束だよ」


 隼人も小指を絡めて約束した。


 隼人はリサとの交流を通じて、彼女の言語であるウクライナ語に興味を持つようになった。家に帰ると、隼人は母親の恵子に話しかけた。


「ママ、リサともっと話せるようになりたいから、ウクライナ語を教えてほしいんだ」


「それは素敵なことね、隼人。パパと一緒に図書館に行って、ウクライナ語の本を借りてきましょう」


 恵子は驚きながらも微笑みながら答えた。


 次の日、正和と隼人は図書館に行き、ウクライナ語の絵本や基本的な会話フレーズが載っている本を借りてきた。家に戻ると、恵子と正和は隼人と一緒に毎晩少しずつウクライナ語を学び始めた。


「隼人、これは'привіт'って言うのよ。意味は'こんにちは'よ」


 恵子が教える。


 隼人は「привіт, привіт」と何度も繰り返して練習した。


 正和も参加する。


「次は'Дякую'。意味は'ありがとう'だよ」


 正和が教える。隼人は「Дякую」と言いながらお辞儀をした。


「隼人、ウクライナ語を学ぶのは楽しい?」


 恵子が尋ねる。


「うん、とっても楽しい!リサともっと話せるようになりたいから、頑張るよ」


 隼人は答えた。


 家族のサポートを受けて、隼人はどんどんウクライナ語を覚えていった。


「毎晩少しずつ覚えていけば、すぐに上手になるわ」


 恵子は励ました。


 ある日の夜。


「隼人、今日は新しいフレーズを教えるよ。'Як справи?'って言うんだ。意味は'元気?'だよ」


 正和が教えた。隼人は「Як справи?」と何度も練習する。


「これでリサに元気かどうか聞けるね!」


 隼人は喜んだ。


 翌日、公園でリサに再会する。


「Привіт, Ліза! Як справи?(こんにちは、リサ!元気?)」


 隼人は、自信を持って言った。


「Привіт, Хаято! Ти добре говориш українською!(こんにちは、隼人!ウクライナ語が上手ね!)」


 リサは驚き、そして大喜びで答えた。


「ありがとう、リサ。毎晩お父さんとお母さんに教えてもらってるんだ」


 隼人は照れくさそうに答えた。


「すごいね、隼人くん!じゃあ、これからはもっとウクライナ語で話そうね」


 リサが提案した。


「うん、もっとウクライナ語を学びたいから、よろしくね、リサ」


 隼人は答えた。


 またある日。


「リサ、今日は新しい言葉を覚えたよ。'Будь ласка'って言うんだ。意味は'お願いします'だよ」


 隼人は言った。


「すごい、隼人くん。どんどん上手になってるね。私も日本語をもっと頑張らなくちゃ」


 リサは感心して答えた。


「お互いに頑張ろうね、リサ!」


 隼人は励ました。


 二人は公園での遊びを通じて、ますますお互いの言語を学び合い、友情を深めていった。


「今日もたくさんウクライナ語を話したよ」


 家に帰ると、隼人はと誇らしげに話す。


「それは素晴らしいわ、隼人。これからも頑張ってね」


 正和と恵子は励ました。


 その年、隼人は前年に出会った川原 美咲との友情をさらに深めていった。二人はサッカーを通じて、より強い絆を築いていった。


 ある日の午後、隼人が公園でサッカーボールを蹴っていると、美咲が駆け寄ってきた。


「隼人くん、今日もサッカーしようよ!」


 美咲は元気よく声をかけた。


「もちろん!今日は新しいドリブルの技を教えてあげるよ」


 隼人はにっこりと笑って応じた。二人はすぐにボールを蹴り始めた。


「まずは、このように足を使ってボールをコントロールするんだ」


 隼人が見本を見せると、美咲は真剣な表情でその動きを見つめた。


「わかった、やってみる!」


 美咲は自信を持って挑戦した。


 しばらく練習を続ける。


「隼人くん、見てて。できるかな?」


 美咲は言ってドリブルを始めた。


「うん、上手だよ!その調子!」


 隼人は励ました。


「あ、ありがとう、隼人くん。君と一緒に練習すると楽しいし、上手くなる気がするよ」


 美咲は少し照れながら言った。


「僕も美咲ちゃんと一緒に練習するのが楽しいよ。お互いに助け合って上手くなろうね」


 隼人は返した。


 夕方になると、二人は疲れたけれど満足そうな表情で公園のベンチに座って休憩した。


「隼人くん、今日はありがとう。君のおかげで少しずつ上手くなってる気がする」


 美咲は感謝の気持ちを伝えた。


「僕も美咲ちゃんのおかげで楽しく練習できてるよ。これからも一緒に頑張ろうね」


 隼人は応じた。


 その後も、隼人と美咲は毎日のように公園で会い、一緒にサッカーを楽しんだ。時にはリサも加わり、三人でサッカーをすることもあった。


 ある日の事。


「隼人くん、リサちゃんと一緒に試合をしようよ!」


 美咲が提案した。


「いい考えだね。じゃあ、僕とリサちゃんがチームで、美咲ちゃんは一人で挑戦する?」


 隼人は冗談を言った。


「それじゃ不公平だよ!ちゃんとチームを組んで戦おう!」


 美咲は笑いながら返した。


 三人はチームを組み、互いに競い合いながらサッカーを楽しんだ。


「リサ、右にパスして!」


 隼人が指示する。


「わかった、隼人くん!」


 リサは言って正確にパスを出した。


「ナイスパス、リサ!」


 隼人が褒めると、リサは嬉しそうに笑った。


「隼人くん、次は私がゴールを決める番だね!」


 美咲が宣言し、全力でボールを追いかけた。三人は笑顔でサッカーを楽しみ、友情を深めていった。


 ある夕方、サッカーの練習が終わった後。


「今日は楽しかったね。みんなでサッカーするのが本当に好きだよ」


 隼人は言った。


「私も、隼人くん。君とリサちゃんと一緒にいると、毎日が楽しいよ」


 美咲は返した。


「そうだね。二人と一緒にいると、言葉の壁も感じないし、本当に素晴らしい友達だと思う」


 リサも言った。


「これからもずっと友達でいようね。お互いに助け合って、もっと上手くなろう」


隼人は二人に向かってと言い、小指を差し出した。美咲とリサも同じように小指を絡め、「約束だよ」と笑顔で答えた。


 このようにして、隼人と美咲、そしてリサの間にはさらに深い絆が築かれ、三人はサッカーを通じて強い友情を育んでいった。家族のサポートを受けながら、隼人の成長と新しい挑戦が続く未来には、多くの可能性が広がっていた。

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