第28話

馬車止めに向かう途中で花摘みに寄ってから帰ろうと寄り道をしたら、何やら生徒たちが集まっていた。


な、なるほど。授業が終わるとすぐに帰っていた私は知らなかったけれど、生徒たちは放課後に集会でもやっているのか⋯⋯それなら私も参加しないとっと並ぼうとしたところで男性の怒鳴り声が聞こえてきた。


「ローゼリア・グランツ!僕、フロイツ・ガルダはお前との婚約を解消する!よって慰謝料も請求させてもらう」


「⋯⋯」


責められている方は同じクラスの令嬢だ。

でも、グランツって?


「ふんっ、お前のような性格の悪い女には愛想が尽きた」


「⋯⋯」


彼女のことは何も知らないけれど彼とは婚約関係なのね。そうだとしたら⋯⋯彼の隣で怯えた振りをしている令嬢は⋯⋯


「お前が何をしたか僕が知らないとでも思っているのか?」


「⋯⋯」


彼女が黙っているのをいいことに、彼の隣にいる令嬢がローゼリア様に毎日虐められて嫌がらせされたとか何とか⋯⋯それってさ~


「浮気を正当化して婚約を解消したいだけじゃないの?」


「はあ?誰だお前?」


しまった!声に出してしまった。

じゃあ仕方ないわね。

いつもの口調にならない様に気をつけないとね。


「失礼しました。私はルナフローラ・ランベルと申します」


「ラ、ランベル⋯⋯公爵令嬢」


「ええ。でも可笑しいですわね。貴方の婚約者は隣のご令嬢だと思っていましたのよ?」



「な、何でだ!ですか?」


「だって、休暇中⋯⋯何度も王都の街で貴方とご令嬢が仲良く腕を組んで歩いているのを見かけましたもの」


ほらほら、周りの目が非難の目に変わってきているわよ。


「それに貴方と隣のご令嬢の買い物を『グランツ侯爵家に請求書を回せ』と店員に仰っていたのを父様と一緒に聞いておりましたからてっきり貴方がグランツ侯爵家の方かと思っておりましたが⋯⋯違うようですわね」


これは本当。

二度ほど店で彼がそう言っているのを聞いたのよね。


「ローゼリア様。身に覚えのない請求書が届いたのでは?」


「え、ええ、我が家でも困っておりました」


「ぼ、僕はグランツ侯爵に婿入りする予定だからいいんだ!」


いや、貴方さっき婚約を解消するって言っていたじゃない。


「他家の名を偽るのは犯罪ですわよ?しかも婚約を解消するって宣言をここにいる皆様が聞いていますのよ?」


「だ、だか⋯⋯」


「それに、先程の虐めや嫌がらせでしたか?⋯⋯それは無理ですわよ。ローゼリア様がほとんど教室から出ないのはクラスメイトなら誰もが知っておりますから」


「「そうだそうだ!」」

うふふっ、後ろから援護射撃してくれているのはクラスメイトたちね。


そうローゼリア様は私と同じお一人様だ。

休憩の時もほとんど席を立たずに席で本を読んでいた。

だから何となく同士って勝手に私が思っていたんだよね。


「なあ、虐めとか嫌がらせって冤罪だよな?」


「そうだろ?それにグランツ侯爵家の金で買い物してたってヤバいだろ。婿に入る立場であれはないな」


「ねえあの令嬢って二年の男爵家の令嬢よね?」


「そうよ。ダルド男爵家のユリア嬢よ」


「今度はガルダ伯爵子息ですのね」


「今度って、前にも?」


「ええ、何人かの男性と噂になっていましたわ」


確かに見た目は可愛らしいけれど、私には強かそうにしか見えない。


「ガルダ様。貴方との婚約を解消することを承知致しますわ。今までお世話になりました。⋯⋯ですが、グランツ侯爵家に届いた請求書はガルダ伯爵家とダルド男爵家に送らせていただきます。父にも相談しますが場合によっては警備隊に通報することになるでしょう」


当然ね。二人のしたことは十分犯罪だもの。

なのに何でガルダ子息は驚いた顔をしているの?

それにダルド男爵令嬢まで同じ様な顔になっているのが可笑しくて笑ってしまいそうになる。


「ランベル様ありがとうございました。口下手なわたくしでは言い返すことも出来なかったと思います」


口下手って⋯⋯


「いえ当然のことですわ。クラスメイトが冤罪をかけられそうになっていたのを見て見ぬふりはできないわ。でもローゼリア様は解消でよろしかったの?」


「はい⋯⋯彼のことは最初から嫌いでしたから」


意外とハッキリと言うローゼリア様はコレで本当に口下手なのだろうか?


ローゼリア様の言葉に周りの皆も頷いていた。

彼は思っていた以上に人望がないようだ。

婚約者に冤罪をかけようとしたり、勝手に名を使ったり、浮気までしていたら解消どころか破棄になるのだろうけれど、まあこれで一件落着かな?

いつの間にかガルダ様とダルド様も居なくなっているし、集まっていた人たちも徐々に減っているし私も帰ろうとローゼリア様に挨拶をして馬車止めに向かった。






♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「あれがランベル公爵令嬢ね~綺麗な子じゃない」


「そうだけど!何とかして!あの子はわたくしにとってもお姉様にとっても邪魔なのよ!」


「ふ~ん⋯⋯いいよ。私も彼女が気に入ったしあとは任せてくれていいよ」


「頼りにしているわよ」

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