第27話

ふぅ~

二ヶ月もあった休暇があっという間に終わってしまった。

まあ、充実していたと言えばしていたんだけどね。

初めて王都にお買い物に連れて行ってもらったのよね。

デビュタントが終わったからと、やっと父様が外出を解禁してくれたの。

もちろん初めては父様と行った。

人が溢れかえっていて父様と手を繋いでなかったら土地勘のない私は迷子になっていたかもしれない。それぐらい人、人、人でいっぱいだった。


貴族街の方は着飾った夫人や令嬢が結構居てチラチラと父様に視線を送っていたけれど父様はまったく気づいてもいなさそうだった。

うん、分かるよ?

私の父様カッコイイものね!

背も高いし、強くて優しいし、頭もいい。

眉目秀麗で頭脳明晰、それに武術まで!完璧よね!

なのに「外ではクールを通り越して冷たい」ってロー兄様が教えてくれた。

私の前ではよく笑うし、切れ長でキツめの目も垂れ下がっているのに、そんな父様は想像出来ない。


後日、父様と二人で出かけたことを知ったロー兄様がグダグダと騒ぐから二度目のお出かけはロー兄様と行った。

父様もだったけれど、ロー兄様も目立つ。

スラリと背も高くて、気品が漂っているし、なんと言っても優しいのだ。仕事もできるらしい。

父様が近寄りづらいタイプなら、ロー兄様は優しい顔立ちだからか、歩いている間に何人もの女性に声をかけられていた。

まあ、聞こえないふりしてスルーしていたけれどね。


それから何度か二人にお出かけに連れて行ってもらったから大まかな通りは覚えたけれど、裏道には絶対に入ってはいけないと執拗く言い聞かせられたな。

うん、裏通り⋯⋯良くない人が居るんだろうね。

行く気もないし、一人になることもないから頭の隅に記憶しておいた。




本来なら忙しいはずの父様は王宮に仕事に行っている間は当然留守だけれど、邸に居る時はずっと私の傍にいたがるし、常に私のことを気にかけてくれている。

それはロー兄様のスティアート公爵家で初めて対面した時から変わらない。

大切にされている。

愛されている。

お母様が生きていた頃と同じ。


父様が私の父様で良かった。


フォネス伯爵あの人が父親じゃなくて本当に良かった。

たくさん殴られたし蹴られたけれど追い出されて良かった。


ここでの暮らしが幸せで、二年間とはいえ我慢と痛みに耐えていた日々さえ忘れてしまいそうになる。

それも全部父様や公爵家の皆、ロー兄様のおかげだ。


明日から新学期。

エリザベスさえ絡んで来なければ居心地の悪い場所ではない。

それに、少しだけ楽しみにしていることがある。

唯一私をダンスに誘ってくれた人。あそこに行けば父様に似た『フェイ』にまた会えるかしら?

まあ明日は挨拶だけで解散だから会うことはないだろうけれどね。









ん?

何だかいつもの雰囲気ではない気がする。

馬車から降りると休暇前とは違ってキツめの視線が向けられているような?

視線を向けると逸らされるってことは⋯⋯気の所為かな?



気の所為ってことにして教室に向う。

教室の入口で「おはようございます」と挨拶をしてから入るとクラスメイトたちからも挨拶を返してくれる。

そのまま自分の席に着く。

このクラスの雰囲気は休暇前と変わっていないようで安心した。



ぼっちとはいえ私の密かな楽しみはクラスメイトたちの会話に聞き耳を立てることだったりする。

フムフム⋯⋯聞こえてくる会話は休暇中に家族で旅行に行っただとか、領地で執務漬けだったとか、婚約者と出掛けたとか、皆も充実した休暇を過ごしたようだ。






「皆様ご機嫌よう」と挨拶をして馬車止めまで歩く。


何も変わらない。

今日も以前と同じ。


そう思っていた。

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