第11話

朝、起きてマヤがワンピースに着替えさせてくれた。

少しぶかぶかだけど、新しいお洋服なんて二年ぶりで、生地も柔らかい。

まだ全身は痛いけれど歩くことは出来る。

それに私は怪我人だけど病人じゃない。

この部屋からまだ出たことがないから今から自分の足で歩いて食堂まで行くつもり。

だったのに⋯⋯


「と、父様!自分で歩けます!降ろして下さい」


「ダメだ」


「な、なんで?」


「俺が、俺の娘の可愛いフローラを抱っこしたいからだ」


え~そんな理由で~

でも、優しい手だな。

このままずっと甘えたくなる。


「父様ありがとう」とギュッと首に腕を回した。


「!!俺のフローラが可愛い」


出会ってたった一日で12歳の娘を可愛いと受け入れてくれたのは、本当にお母様を愛してくれていたからだと思う。

(よかったね。お母様)

でも、早朝から訪問してくるなんて⋯⋯ねぇ?




昨日もだけど、胃に優しい料理を今日もお腹いっぱい食べた。

そのつもりなんだけどフォネス伯爵家での食生活環境のせいで小さくなった胃は少しの量を食べただけで満足しちゃう。まだテーブルの上にはたくさんの料理が残っているのに⋯⋯残念。


食後のお茶をしながら、昨日言い忘れていたことを伝えることにした。

もちろん、父様の膝の上だ。


「フォネス伯爵から追い出される時に私の"死亡届"を出すと言われたのですが⋯⋯私は死んでいることになるのですか?」


「なんだそれは!!」


頭上からの父様の大きな声に自然と体がビクリと反応した。


「驚かせてごめんな。フローラに怒った訳じゃないよ」


「⋯⋯巫山戯ていますね」


叔父様は落ち着いているようだけれど目が怖い。


「まずは確認だ」


それから王妃様に私にお茶の招待状を送ると言われたこともついでに伝えた。


「それは無視していいからな」


そうだよね。死亡届が提出されていたらお誘いも何も意味が無いものね。


それから毎日私の死亡届が提出されたか確認していたそうだ。


その間、私が何をしていたかと言うと、叔父様の邸で美味しい食事に温かいお風呂、そしてふかふかのベッドでぬくぬくと天国生活を送っていた。

自分でも朝起きたらゲッソリ窶れていた顔が丸みを帯び、血色も良くなっていくのが目に見えて分かるほどだった。


後で聞いたけれどフォネス伯爵が本当に私の死亡届を出したのは、私が追い出されてから一週間後のことだったらしい。

その後、父様と叔父様がこんな会話をしていたのは知らない。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「やってくれましたね」


「ああ」


「まあ、我がスティアート公爵家から姉上とフローラの生活費を毎年渡していましたが、二人のいないフォネス伯爵家に渡す必要はなくなりましたね。それもフローラに一切使われていなかったのは歴然ですからね。今年の分は既にフローラの誕生日に支払ってしまいましたから、我が家からの振り込みが無くなったことに気付くのは約1年後でしょうけれどね」


「スティアート公爵家からすれば端金だろ?その時になって今までのような贅沢な暮らしはフローラが居てこそだったと気付けばいいさ」


「それよりも、ですが!死亡届の出たフローラを我が家の養子にと考えているのですが」


「お前は何を言っているんだ?フローラは俺の娘として俺が引き取るに決まっているだろ?」


「はい?住むところはどうするんですか?」


「はっ、そんなものは解決済みだ。あの忌々しい事件で取り潰しになった公爵家の邸を俺が買い取った。既に取り壊しに入っている。半年後には新しい邸が建つ」


「はい?」


「まあ、それまでは今まで通り毎日俺がここに通うことになるが、俺が臣籍降下しランベル公爵を名乗ることも決まった。フローラも俺の決めたルナフローラと名を変える」


「聞いていませんよ!」


「まだ言ってないからな。だが決定事項だ。それにお前も何れは妻を娶らねばならぬ身だ。フローラのことは俺に任せろ」


「⋯⋯」


「心配するな。フィーナの分も俺が側でルナを愛し守る。それに我が家はこの邸のだ。いつでも会いに来ればいいだろう?」


「わかりました⋯⋯それでもフローラの気持ちを最優先ですからね」





こうして私フローラはルナフローラと名を変え父様の娘としてランベル公爵令嬢となった。


因みに私が生きていることを知っているのはスティアート公爵家の者と父様と国王様だけらしい。

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