第10話

お、驚いた。

お昼寝から目覚めたら目の前で鋭い目つきの知らない男の人が覗き込んでいたから。


でも、私と同じ瞳の色だ。

だからなのか親近感が湧いてきた。

目が離せない。

知らない男の人も驚いた顔をして固まっている。


私の持っていたネックレスから叔父様が紙?を取り出したら想像もつかない内容だった。


「え?」


待って、ちょっと待って!

お母様はあの男と結婚する前に私を妊娠していて、私の本当の父親が目の前にいるこの人ってこと?


声も出さずに震えて涙を流す目の前の人から私だけに聞こえたのは小さな、とても小さな声で⋯⋯懺悔と愛を囁く言葉だった。


「信じてやれなくてごめん。⋯⋯俺もフィーナだけを今も愛している」


え?

本当にこの人が私の?


喜ぶべき?

うん、娘に野垂れ死ねって言うような男が父親じゃなくてよかったと素直に喜ぶべきだと思うが⋯⋯


でも、この人のことは何も知らない。

鋭い目の⋯⋯でもそれはそれでよく見ると見た目だけなら叔父様レベルでカッコイイと思う。

ただ、この人は突然現れた私を娘だと信じられるのだろうか?

あ!信じてもらえなくても私には叔父様がいる!

それに、ずっとここに住んでもいいって言ってくれたから今さら本当の父親が現れたところで変わらないな。

うんうん、こんなに居心地がいいところは手放せない。


「フ、フローラ?⋯⋯フローラって言うのか?」


「え?は、はい」


つッ!


突然抱きしめられたら痛いッ!痛い!痛い!

⋯⋯でも、泣いているんだよ。それに温かい。お母様が亡くなってから抱きしめられることなんてなかった。


「⋯⋯俺の、俺の娘なのか?」


「た、たぶん?」


「ははっ、ローレンスの言った通りだ。可愛い、存在が愛おしい。⋯⋯その、可愛い俺の娘がなんでこんな姿になっているのか説明しろ!」


こ、怖っ!

いきなり雰囲気が変わったよ。


「それを今から聞きたいと思いますが、フローラ?話せるかな?体調は大丈夫?」


「はい、大丈夫です」


そこから本当の父親?に抱かれソファに移動したのはいい。でもそのまま膝の上なんだけど⋯⋯それも後ろから抱きしめられた形で。


最初はお母様との10年間。お母様が亡くなるまでは幸せだったこと。

その頃によく初恋の人の話を聞かせてくれたこと。

(その間、お父様?は私の肩に顔を埋めて泣いていた)


あの男はお母様の葬式にも出なかったこと。

その2日後には義母と私より早く生まれた異母姉が来たこと。(お異母姉様と呼ばれていたこと)

その日から私の扱いが変わったこと。

父親だけではなく義母にまで暴力を受けるようになったこと。

ロクに食べさせてもらっていなかったこと。

使用人以下の生活だったこと。


王家から私に第三王子の婚約者候補にと打診があったこと。

そして、邸から追い出されたこと。

もちろん『野垂れ死ね』と言われたこと等、された事は包み隠さず話した。


「「殺す」」


話し終えたところで叔父様とお父様?は不穏な言葉を発していた。


「人殺しはダメですよ!それで叔父様が罰せられて居なくなったら私はどうすればいいの?⋯⋯もう一人になるのは嫌なの」


あの人たちには絶対に涙を見せなかったのに、一度温もりを知ったら失うのが怖くて涙がとめどなく出てしまった。


「この後は大人の僕たちに任せて、悪いようにはしないよ」


「そうだ。俺の可愛いフローラは何も心配しなくていい」


そんなこんなで長い話は終わったんだけれど、お父様?が帰る間際に困ったことになった。

私を連れて帰ろうとするお父様?と、渡さないと言い張る叔父様とで、どちらも譲らないから言い争いになったのだ。


「貴方はフローラをどこに連れて帰るつもりですか!」


「王宮だが?」


なぜ王宮が出てくるの?


「ダメですよ!王宮ではフローラが心を休めることができないでしょう!」


「⋯⋯なら、ここに俺も引っ越してくる」


え?私のお父様?って無茶苦茶な人なの?


「あの~王宮って?」


「ああ、俺は王弟ってやつだからな」


「王弟?王弟って?国王様の弟の王弟?」


「そうだ、まあ俺は側妃の子だが」


え~~!再び驚かされる。


叔父様の説得で何とか今日のところはお父様?に帰ってもらうことになったのだけれど「父様」と呼んで欲しいと懇願された。


「と、父様?」


あ、呼んでみたらしっくりきた。

それに父様の破顔した顔が本当に嬉しそうで、私まで嬉しくなった。


抱きしめてなかなか離さない父様は明日も必ず会いに来ると言って渋々帰っていった。


追い出されたのは昨日のことなのに、目覚めてから数時間の間に地獄から天国に来た感じだ。


マヤに温かいお風呂に入れてもらって、ふかふかのベッドに入ってからまだ何か言い忘れている気が⋯⋯





あ!私、死んでいることになっているかも⋯⋯

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