第9話
「ふふっ、よく眠っていますね」
「ああ、お腹いっぱい食べて、風呂に入ったからな」
「⋯⋯お坊っちゃま。コレが隠すようにフローラお嬢様の下着のポケットから出てきたのですが」
うっ、マヤ⋯⋯もう僕は成人した大人なんだけどな。
マヤが見せてくれたのは見覚えのある石のついたネックレスだ。
コレは姉上が大切にしていた、大きなアメジストがついたネックレスだった。
きっと見つからないように肌身離さず隠していたのだろう。
フローラが起きたら渡してあげよう。
ん?何か仕掛けがある。石をはめた土台が開くようになっている。
固いな⋯⋯いや、開けられそうだ。
中から出てきた物は小さく折りたたんだ紙だった。
フローラに悪いと思いながら読ませてもらった。
⋯⋯そういうことだったのか。
だから姉上は学園を卒業することなく嫁がされたのか⋯⋯
姉上⋯⋯
「マヤ、フローラを任せてもいいかな?」
「はい、もちろんです」
「今から僕は少し出てくるよ。フローラが起きたらすぐに帰ってくると伝えてくれ」
「わかりました。行ってらっしゃいませ」
僕が向かった先は王宮だ。
フローラの瞳を見た時から思っていた。
僕の知る限りこの国に紫の瞳はフローラ以外に一人しかいない。
優秀なくせに野心もなく無愛想で口数が少なく、何かを諦めたような生気のない目をした僕の上司だ。
何がなんでも、脅してでも、引き摺ってでも連れて来るからね。
待っていて。フローラに⋯⋯君に会わせたい人がいるんだ。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「⋯⋯コレがシルフィーナの生んだ子なのか?」
フローラを見下ろしているが相変わらず冷めた目だな。
「はい」
「⋯⋯なぜこんなに痩せて傷だらけなんだ?」
「フローラが落ち着いてから聞くつもりですが想像はつきます」
「⋯⋯そうだな。⋯⋯フィーナによく⋯似ている」
やはり気になるのかフローラから視線を外さないな。
「可愛いでしょう?」
「⋯⋯なぜ俺をここに呼んだ?」
「フローラが目を覚ませば分かりますよ」
「⋯⋯⋯⋯俺は忙しい」
「目を覚ますまで待って下さい。こんなに気持ちよさそうに眠っているのに起こすのは可哀想でしょう?」
驚くか?怒るか?いつも無愛想な彼はどんな反応をするだろうか?いつも生気のない目はどんな色に変わるだろうか?
「本当に可愛い寝顔ですよね」
「⋯⋯⋯⋯」
ずっと見ていられる。本当に本当にフローラが可愛い。
ああ、そろそろ起きそうだ。モゾモゾ動きだした。その動きすら可愛い。僕のたった一人の姪フローラ。
「起きますよ。覗き込んで下さい」
「⋯⋯何で俺が」
怖っ!睨まないでほしい。
それでも気になるのかフローラから視線を外さないようだ。
「う、う~ん」
「ほら!よく見ていて下さい」
フローラの瞼が徐々に上がっていく。
目の前の男と視線が合ったようだ。
大きな瞳がさらに大きくなった。
「なっ、なんで⋯⋯」
驚きましたか?
「瞳の色が貴方にそっくりです。貴方の瞳をフローラが受け継いだんですよ」
「俺の瞳?受け継ぐ?」
「そうです。ね!可愛いでしょう?僕の姪で貴方の娘です」
「お、俺の?⋯⋯俺とシル、フィーナの娘?」
「このネックレスに見覚えはありませんか?姉上にコレを渡したのは貴方でしょう?」
「あ、ああ」
「裏の仕掛けにコレが」
~愛するディへ~
ずっと待っていると約束したのにごめんなさい。
貴方が国を出てすぐにお腹にあなたの子がいることに気づいたの。
私の妊娠を知った父に無理やりフォネス伯爵に嫁がされました。
安心して。
愛する貴方が帰ってくるまでの契約結婚でしたから。指一本触れさせていません。
生まれた子は貴方と同じ瞳の色よ。
フローラは私の宝物なの。
もし、もし残されたフローラが不幸だったら助けてあげて下さい。
私の最後のお願いです。
会いたいな。
最後にひと目でもいいから貴方に会いたい。
もう二度と会えなくても貴方だけを愛しています。
シルフィーナより
「フィーナ⋯⋯」
「え?」
ああフローラに説明が必要だな。
でも僕も姉上が妊娠していたことを知らなかったんだよ。
しかも、相手がこの方だとは⋯⋯きっと父上も相手は知らなかったのだと思う。
知っていたらあの父上のことだ、ソレを利用していたに違いないからね。
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